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正の整数・ゼロ ~実数論(1)~ 【体系高校数学#1】

この記事では,正の整数とゼロについて扱う.

正の整数とゼロの導入

正の整数と似た言葉として,自然数という言葉がある.高校までの数学では,自然数は正の整数と同義であり,自然数には00が含まれないと考える.しかし,大学数学や現代数学では,自然数には00が含まれると考える流儀もあり,混乱を招くことになる.そこで,当サイトでは自然数という表現をできるだけ用いずに,正の整数や非負整数という表現を用いることとする.

さて,「正の整数とは何か」と訊かれた場合,どのように答えるだろうか.おそらく,多くの人が
1,2,3, 1,2,3,\dots \dots
のような数であると答えるだろう.しかし,これは正の整数を厳密に定義したものではなく,正の整数の具体例を挙げて説明したものに過ぎない.というのも,「\dots \dots」の部分が曖昧であり,どのようにも解釈することができるからである.正の整数を全く知らない人からすれば,正の整数が
1,2,3,10,20,30, 1,2,3,10,20,30,\dots \dots
のように続いていくと考えるかもしれないし,
1,2,3,11,22,33, 1,2,3,11,22,33,\dots \dots
のように続いていくと考えるかもしれない.では,正の整数を厳密に定義するには,どうすればよいのだろうか.

実は,正の整数はペアノの公理というものによってその存在を認めることになるのだが,これは高校数学の範疇を大きく逸脱してしまうため,ここでは深入りしない.興味のある人は,別記事を参照するとよい.

以下,正の整数の存在を認めることとし,次のような性質があるものとする.

1,2,3,1,2,3,\dots \dotsは正の整数である(正の整数がどのような数で構成されているのかは既知であるものとする).

11の次は2222の次は3333の次は44,・・・である(すべての正の整数には「次の」正の整数が存在し,その数は既知のものとする).

異なる2つの正の整数m,nm,nに対して,mmの次の正の整数とnnの次の正の整数は異なる(異なる正の整数の次の正の整数は異なる).

また,00は次のような性質を満たす正の整数でない数であるとする.

00の次は11である.

次の数が00であるような正の整数は存在しない.

ここからは,既に知っている数学の知識のすべてを頭の片隅に置き,上に述べた正の整数と00の性質を基に,議論を進めていくことにする.

そのために,次の3つの断りを入れておく.

  • 正の整数と00を総称して非負整数という.
  • nnを非負整数とするとき,nnの「次の」非負整数をnn^{\prime}で表す(この記事のみで用いられる記法であることに注意).
  • nnを非負整数とする.nnに関する主張P(n)P(n)があるとき,次の2つの条件
    1. P(0)P(0)が成り立つ.
    2. kkを非負整数とするとき,P(k)P(k)が成り立つならばP(k)P(k^{\prime})も成り立つ.
    をすべて満たすとき,すべての非負整数nnに対してP(n)P(n)が成り立つ(これを数学的帰納法という.).

ここから先は,小学校の算数で教わる,数学の世界では自明に成り立つような事柄を,くどいくらい厳密に証明していく.この論証を通して,難解な数学の問題にも対応できる論理力を身に着けていこう.

非負整数の加法

まずは,非負整数の世界に加法を導入しよう.

定義1

m,nm,nを非負整数とする.次のように定義される演算++を加法(または足し算)という.

  • n+0=nn+0=n
  • m+n=(m+n)m+n^{\prime}=(m+n)^{\prime}

定義に従って,具体的な計算をしてみよう.

例1

加法の定義に従って,1+11+1を計算する.1=01=0^{\prime}であるから,加法の定義2つ目より
1+1=1+0=(1+0) 1+1=1+0^{\prime}=(1+0)^{\prime}
加法の定義1つ目より
(1+0)=1=2 (1+0)^{\prime}=1^{\prime}=2
したがって
1+1=2 1+1=2

非負整数の加法には,次のような性質が成り立つ.

命題1

a,b,ca,b,cを非負整数とするとき,次が成り立つ.

  • (加法の結合法則)(a+b)+c=a+(b+c)(a+b)+c=a+(b+c)
  • (加法の交換法則)a+b=b+aa+b=b+a

証明には数学的帰納法を用いる.

すべての非負整数nnに対して,主張P(n)P(n)が成り立つことを示すには,
1. P(0)P(0)が成り立つ.
2. kkを非負整数とするとき,P(k)P(k)が成り立つならばP(k)P(k^{\prime})も成り立つ.
の2つが成り立つことを示せばよい.

交換法則を示すため,次の補題を用いる.

補題1

a,ba,bを非負整数とするとき,次が成り立つ.
a+b=a+b a+b^{\prime}=a^{\prime}+b

bbに関する数学的帰納法で示す.
b=0b=0のとき
a+0=加法の定義2(a+0)=加法の定義1a=加法の定義1a+0 a+0^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(a+0)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a^{\prime}+0
となり成り立つ.
b=kb=ka+k=a+ka+k^{\prime}=a^{\prime}+kが成り立つと仮定すると
a+(k)=加法の定義2(a+k)=仮定(a+k)=加法の定義2a+k a+(k^{\prime})^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(a+k^{\prime})^{\prime}\stackrel{仮定}{=}(a^{\prime}+k)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}a^{\prime}+k^{\prime}
よって,b=kb=k^{\prime}のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数bbに対し,a+b=a+ba+b^{\prime}=a^{\prime}+bが成り立つ.\blacksquare

補題2

aaを非負整数とするとき,次が成り立つ.
a+0=0+a=a a+0=0+a=a

aaに関する数学的帰納法で示す.
a=0a=0のとき
0+0=加法の定義10 0+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}0
となり成り立つ.
a=ka=kk+0=0+k=kk+0=0+k=kが成り立つと仮定すると
k+0=加法の定義1k k^{\prime}+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}k^{\prime}
0+k=加法の定義2(0+k)=仮定(k+0)=加法の定義1k 0+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(0+k)^{\prime}\stackrel{仮定}{=}(k+0)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}k^{\prime}
よって
k+0=0+k=k k^{\prime}+0=0+k^{\prime}=k^{\prime}
であるから,a=ka=k^{\prime}のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数aaに対し,a+0=0+a=aa+0=0+a=aが成り立つ.\blacksquare

補題2より,00にどんな非負整数を加えても,どんな非負整数に00を加えても,元の非負整数のままであることが分かる.この性質から,00を加法の単位元という.

補題1,2を踏まえて,加法の結合法則と交換法則を示すことにしよう.

  • ccに関する数学的帰納法で示す.
    c=0c=0のとき
    (a+b)+0=加法の定義1a+b=加法の定義1a+(b+0) (a+b)+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a+b\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a+(b+0)
    となり成り立つ.
    c=kc=k(a+b)+k=a+(b+k)(a+b)+k=a+(b+k)が成り立つと仮定すると
    (a+b)+k=加法の定義2{(a+b)+k}=仮定{a+(b+k)}=加法の定義2a+(b+k)=加法の定義2a+(b+k) (a+b)+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}\{ (a+b)+k\} ^{\prime}\stackrel{仮定}{=}\{ a+(b+k)\} ^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}a+(b+k)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}a+(b+k^{\prime})
    よって,c=kc=k^{\prime}のときも成り立つ.
    したがって,すべての非負整数ccに対し,(a+b)+c=a+(b+c)(a+b)+c=a+(b+c)が成り立つ.\blacksquare
  • bbに関する数学的帰納法で示す.
    b=0b=0のとき,補題2よりa+0=0+aa+0=0+aであり,成り立つ.
    b=kb=ka+k=k+aa+k=k+aが成り立つと仮定すると
    a+k=加法の定義2(a+k)=仮定(k+a)=加法の定義2k+a=補題1k+a a+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(a+k)^{\prime}\stackrel{仮定}{=}(k+a)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}k+a^{\prime}\stackrel{補題{\normalsize 1}}{=}k^{\prime}+a
    よって,b=kb=k^{\prime}のときも成り立つ.
    したがって,すべての非負整数bbに対し,a+b=b+aa+b=b+aが成り立つ.\blacksquare

結合法則によって,加法はどこから計算してもよいということが分かり,交換法則によって,どの順番で計算してもよいということが分かる.特に,(a+b)+c(a+b)+ca+(b+c)a+(b+c)は同じものを表しているから,カッコを省略してa+b+ca+b+cと表してもよいことにする.

また,次の性質も重要である.

命題2(加法の簡約法則)

a,b,ca,b,cを非負整数とするとき,a+c=b+ca+c=b+cならば,a=ba=bである.

ccに関する数学的帰納法で示す.
c=0c=0のとき
a+0=加法の定義1a a+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a
b+0=加法の定義1b b+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}b
であるから,a+0=b+0a+0=b+0ならばa=ba=bである.
c=kc=kで,a+k=b+ka+k=b+kならばa=ba=bであるとき,
a+k=b+ka+k^{\prime}=b+k^{\prime}ならば
a+k=加法の定義2(a+k) a+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(a+k)^{\prime}
b+k=加法の定義2(b+k) b+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(b+k)^{\prime}
であるから,(a+k)=(b+k)(a+k)^{\prime}=(b+k)^{\prime}
よって,a+k=b+ka+k=b+kであるから1,仮定よりa=ba=b
ゆえに,c=kc=k^{\prime}のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数ccに対し,a+c=b+ca+c=b+cならばa=ba=bが成り立つ.\blacksquare

簡約法則によって,等式の両辺に同じ非負整数が加えられているのであれば,それを取り除いても等式が成り立つことが分かる.

非負整数の順序

次に,非負整数の世界に「大小関係」という名の順序を導入しよう.

定義2

a,ba,bを非負整数とする.a+c=ba+c=bなる非負整数ccが存在するとき,aabb以下である(またはbbaa以上である)といい,aba\leqq b(またはbab\geqq a)で表す.

定義3

a,ba,bを非負整数とする.a+c=ba+c=bなる正の整数ccが存在するとき,aabbより小さい(またはbbaaより大きい)といい,a<ba<b(またはb>ab>a)で表す.

\leqq<<を導入することによって,非負整数を順序付けることができる(非負整数の性質として認めている,00の次は1111の次は2222の次は33,・・・・・・という順序と同じものになるのだが,ここではその順序とは区別する).

非負整数の順序関係が満たす性質を考えるために,次の補題を示すことにしよう.

補題3

a,ba,bを非負整数とするとき,a+b=aa+b=aならばb=0b=0である.

a+b=aa+b=aより,a+0=aa+0=aであるから
a+b=a+0 a+b=a+0
加法の交換法則より
b+a=0+a b+a=0+a
加法の簡約法則より
b=0 b=0
よって,題意は示された.\blacksquare

補題4

a,ba,bを非負整数とするとき,a+b=0a+b=0ならばa=b=0a=b=0である.

a+b=0a+b=0より,b+0=0b+0=0であるから
a+b=b+0 a+b=b+0
加法の交換法則より
a+b=0+b a+b=0+b
加法の簡約法則より
a=0 a=0
よって
0=a+b=0+b=b+0=b 0=a+b=0+b=b+0=b
であるからb=0b=0である.\blacksquare

まず,\leqqという順序関係が持つ性質を考えよう.

命題3

a,b,ca,b,cを非負整数とするとき,次が成り立つ.

  • (反射律)aaa\leqq a
  • (反対称律)aba\leqq bかつbab\leqq aならば,a=ba=b
  • (推移律)aba\leqq bかつbcb\leqq cならば,aca\leqq c
  • (全順序律)aba\leqq bまたはbab\leqq aが成り立つ.
  • a+0=aa+0=aであるから,定義2よりaaa\leqq a\blacksquare
  • aba\leqq bより,ある非負整数ccが存在して,a+c=ba+c=bとなる.
    また,bab\leqq aより,ある非負整数ddが存在して,b+d=ab+d=aとなる.
    よって
    a=b+d=(a+c)+d=a+(c+d) a=b+d=(a+c)+d=a+(c+d)
    であるから,補題3よりc+d=0c+d=0
    ゆえに,補題4よりc=d=0c=d=0であるから,a=ba=b\blacksquare
  • aba\leqq bより,ある非負整数ddが存在して,a+d=ba+d=bとなる.
    また,bcb\leqq cより,ある非負整数eeが存在して,b+e=cb+e=cとなる.
    よって
    c=b+e=(a+d)+e=a+(d+e) c=b+e=(a+d)+e=a+(d+e)
    d+ed+eは非負整数であるから,aca\leqq cである.
  • aaに関する数学的帰納法で示す.
    a=0a=0のとき,b=0b=0ならば反射律より000\leqq 0である.
    b0b\neq 0ならば
    a+b=0+b=b+0=b a+b=0+b=b+0=b
    であるからaba\leqq bである.
    a=ka=kkbk\leqq bまたはbkb\leqq kが成り立つと仮定すると,
    kbk\leqq bのとき,ある非負整数ccが存在して,k+c=bk+c=bとなる.
    c=0c=0のとき,b=k+0=kb=k+0=kであるから
    k=k+0=k+0=k+1=b+1 k^{\prime}=k^{\prime}+0=k+0^{\prime}=k+1=b+1
    よって,bkb\leqq k^{\prime}である.
    c0c\neq 0のとき,d=cd^{\prime}=cなる非負整数ddが存在して
    k+d=k+d=k+c=b k^{\prime}+d=k+d^{\prime}=k+c=b
    となるから,kbk^{\prime}\leqq bである.
    bkb\leqq kのとき,ある非負整数eeが存在して,b+e=kb+e=kとなる.よって
    k=(b+e)=b+e k^{\prime}=(b+e)^{\prime}=b+e^{\prime}
    であるから,bkb\leqq k^{\prime}
    以上より,a=ka=k^{\prime}のときも成り立つ.
    したがって,すべての非負整数aaに対し,aba\leqq bまたはbab\leqq aが成り立つ.\blacksquare

次に,<<という順序関係について考えたい.その前に,\leqq<<の順序関係どうしの関係性を述べておこう.

命題4

a,ba,bを非負整数とするとき,a<ba<bであることと,aba\leqq bかつaba\neq bであることは同値である.

a<ba<bならば,ある正の整数ccが存在して,a+c=ba+c=bとなる.
このとき,ccは非負整数でもあるから,aba\leqq bである.
また,補題3の対偶2より,c0c\neq 0であるからaba\neq b

aba\leqq bかつaba\neq bならば,ある非負整数ddが存在して,a+d=ba+d=bとなる.
d=0d=0と仮定すると,b=a+0=ab=a+0=aとなり,aba\neq bに矛盾する.
よって,d0d\neq 0であるから,ddは正の整数である.
したがって,a<ba<bである.\blacksquare

では,<<という順序関係が持つ性質を考えよう.

命題5

a,b,ca,b,cを非負整数とするとき,次が成り立つ.

  • (非反射律)a<aa<aは成り立たない.
  • (非対称律)a<ba<bならばb<ab<aでない.
  • (推移律)a<ba<bかつb<cb<cならば,a<ca<c
  • a<aa<aが成り立つと仮定すると,ある正の整数bbが存在して,a+b=aa+b=aとなる.
    補題3よりb=0b=0であるから,bbが正の整数であることに矛盾する.
    よって,a<aa<aは成り立たない.\blacksquare
  • a<ba<bならば,ある正の整数ccが存在して,a+c=ba+c=bとなる.
    ここで,b<ab<aが成り立つと仮定すると,ある正の整数ddが存在して,b+d=ab+d=aとなる.
    このとき
    a=b+d=(a+c)+d=a+(c+d) a=b+d=(a+c)+d=a+(c+d)
    であるから,c+d=0c+d=0であり,補題4よりc=d=0c=d=0である.
    これはc,dc,dが正の整数であることに矛盾する.
    よって,b<ab<aは成り立たない.\blacksquare
  • a<ba<bより,ある正の整数ddが存在して,a+d=ba+d=bとなる.
    また,b<cb<cより,ある正の整数eeが存在して,b+e=cb+e=cとなる.
    よって
    c=b+e=(a+d)+e=a+(d+e) c=b+e=(a+d)+e=a+(d+e)
    d+ed+eは正の整数であるから,a<ca<cである.\blacksquare

また,2つの非負整数が与えられたとき,その大小関係について,次の3つのいずれか1つが成り立つ.

命題6(三分律)

a,ba,bを非負整数とするとき,a<b,a=b,a>ba<b,a=b,a>bのいずれか1つが成り立つ.

命題4及び非対称律より,a<b,a=b,a>ba<b,a=b,a>bのうち2つ以上が同時に成り立つことはない.

以下,a<b,a=b,a>ba<b,a=b,a>bのいずれかが必ず成り立つことを,aaに関する数学的帰納法で示す.

a=0a=0のとき,b=0b=0ならばa=b=0a=b=0が成り立つ.
b0b\neq 0すなわちbbが正の整数ならば,b=b+0=b+a=a+bb=b+0=b+a=a+bであるから,a<ba<bが成り立つ.

a=ka=kk<b,k=b,k>bk<b,k=b,k>bのいずれかが成り立つと仮定すると,
k<bk<bのとき,ある正の整数ccが存在して,k+c=bk+c=bとなる.
c=1c=1のとき
b=k+1=k+0=(k+0)=k b=k+1=k+0^{\prime}=(k+0)^{\prime}=k^{\prime}
であるから,k=bk^{\prime}=bが成り立つ.
c1c\neq 1のとき,d=cd^{\prime}=cなる正の整数ddが存在して3
b=k+c=k+d=k+d b=k+c=k+d^{\prime}=k^{\prime}+d
となるから,k<bk^{\prime}<bである.

k=bk=bのとき
k=k+0=k+0=k+1=b+1 k^{\prime}=k^{\prime}+0=k+0^{\prime}=k+1=b+1
であるから,k>bk^{\prime}>b

k>bk>bのとき,ある正の整数eeが存在して,k=b+ek=b+eとなる.よって
k=(b+e)=b+e k^{\prime}=(b+e)^{\prime}=b+e^{^\prime}
であるから,k>bk^{\prime}>b

以上より,a=ka=k^{\prime}のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数aaに対し,a<ba<bまたはa=ba=bまたはa>ba>bのいずれか1つが成り立つ.\blacksquare

そして,非負整数や正の整数の世界には,最も小さい数が存在する.これは最小元と呼ばれる.

命題7

次が成り立つ.

  • 非負整数の最小元は00である.
  • 正の整数の最小元は11である.
  • 任意の非負整数nnに対し
    0+n=n+0=n 0+n=n+0=n
    となるから,0n0\leqq nが成り立つ.よって,示された.\blacksquare
  • 任意の正の整数nnに対し,m=nm^{\prime}=nなる非負整数mmが存在して
    1+m=0+m=0+m=0+n=n+0=n 1+m=0^{\prime}+m=0+m^{\prime}=0+n=n+0=n
    となるから,1n1\leqq nが成り立つ.よって,示された.\blacksquare

非負整数の乗法

さらに,非負整数の世界に乗法を導入しよう.

定義4

m,nm,nを非負整数とする.次のように定義される演算×\times乗法(または掛け算)という.

  • n×0=0n\times 0=0
  • m×n=(m×n)+mm\times n^{\prime}=(m\times n)+m

m×nm\times nmnmnmnm\cdot nで表すこともある.ただし,m,nm,nが具体的な数字である場合,mnmnという表記は用いない.

定義に従って,具体的な計算をしてみよう.

例2

乗法の定義に従って,1×11\times 1を計算する.1=01=0^{\prime}であるから,乗法の定義2つ目より
1×1=1×0=(1×0)+1 1\times 1=1\times 0^{\prime}=(1\times 0)+1
乗法の定義1つ目より
1×0=0 1\times 0=0
したがって
1×1=0+1=1+0=1 1\times 1=0+1=1+0=1

さて,乗法の定義には加法を用いているが,加法と乗法の2つの演算が混合している場合は,乗法を優先して計算することにする.

例3

3+2×1=3+(2×1)=3+(2×0)=3+{(2×0)+2}=3+(2+2)=3+4=7 3+2\times 1=3+(2\times 1)=3+(2\times 0^{\prime})=3+\{ (2\times 0)+2\} =3+(2+2)=3+4=7

(3+2)×1=5×1=5×0=(5×0)+5=0+5=5+0=5 (3+2)\times 1=5\times 1=5\times 0^{\prime}=(5\times 0)+5=0+5=5+0=5

つまり,乗法よりも加法を優先して計算したいときは,優先する加法の計算をカッコでくくる必要がある.

一般に,加法を優先して計算するときには,次の性質が成り立つ.

命題8(分配法則)

a,b,ca,b,cを非負整数とするとき,次が成り立つ.
a(b+c)=ab+ac a(b+c)=ab+ac

ccに関する数学的帰納法で示す.

c=0c=0のとき
a(b+0)=ab=ab+0=乗法の定義1ab+a0 a(b+0)=ab=ab+0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}ab+a\cdot 0
となり成り立つ.

c=kc=ka(b+k)=ab+aka(b+k)=ab+akが成り立つと仮定すると
a(b+k)=a(b+k)=乗法の定義2a(b+k)+a=仮定(ab+ak)+a=ab+(ak+a)=乗法の定義2ab+ak a(b+k^{\prime})=a(b+k)^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}a(b+k)+a\stackrel{仮定}{=}(ab+ak)+a=ab+(ak+a)\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}ab+ak^{\prime}
よって,c=kc=k^{\prime}のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数ccに対し,a(b+c)=ab+aca(b+c)=ab+acが成り立つ.\blacksquare

そして,非負整数の乗法には,加法と同様の次の性質が成り立つ.

命題9

a,b,ca,b,cを非負整数とするとき,次が成り立つ.

  • (乗法の結合法則)(ab)c=a(bc)(ab)c=a(bc)
  • (乗法の交換法則)ab=baab=ba

これも数学的帰納法で示すことができるのだが,結合法則の証明には分配法則が,交換法則の証明には次の2つの補題が用いられる.

補題5

a,ba,bを非負整数とするとき,次が成り立つ.
ab=ab+b a^{\prime}b=ab+b

bbに関する数学的帰納法で示す.

b=0b=0のとき
a0=乗法の定義10=0+0=乗法の定義1a0+0 a^{\prime}\cdot 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0=0+0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}a\cdot 0+0
となり成り立つ.

b=kb=kak=ak+ka^{\prime}k=ak+kが成り立つと仮定すると
ak=乗法の定義2ak+a=仮定ak+k+a=ak+a+k=ak+a+k=乗法の定義2ak+k a^{\prime}k^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}a^{\prime}k+a^{\prime}\stackrel{仮定}{=}ak+k+a^{\prime}=ak+a^{\prime}+k=ak+a+k^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}ak^{\prime}+k^{\prime}
よってb=kb=k^{\prime}のときも成り立つ.

したがって,すべての非負整数bbに対し,ab=ab+ba^{\prime}b=ab+bが成り立つ.\blacksquare

補題6

aaを非負整数とするとき,次が成り立つ.
a0=0a=0 a\cdot 0=0\cdot a=0

aaに関する数学的帰納法で示す.

a=0a=0のとき
0×0=乗法の定義10 0\times 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0
となり成り立つ.

a=ka=kk0=0k=0k\cdot 0=0\cdot k=0が成り立つと仮定すると
k0=乗法の定義10 k^{\prime}\cdot 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0
0k=乗法の定義20k+0=仮定0+0=0 0\cdot k^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}0\cdot k+0\stackrel{仮定}{=}0+0=0
よって
k0=0k=0 k^{\prime}\cdot 0=0\cdot k^{\prime}=0
であるから,a=ka=k^{\prime}のときも成り立つ.

したがって,すべての非負整数aaに対し,a0=0a=0a\cdot 0=0\cdot a=0が成り立つ.\blacksquare

  • ccに関する数学的帰納法で示す.
    c=0c=0のとき
    (ab)0=乗法の定義10=乗法の定義1a0=乗法の定義1a(b0) (ab)\cdot 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}a\cdot 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}a(b\cdot 0)
    となり成り立つ.
    c=kc=k(ab)k=a(bk)(ab)k=a(bk)が成り立つと仮定すると
    (ab)k=乗法の定義2(ab)k+ab=仮定a(bk)+ab=分配法則a(bk+b)=乗法の定義2a(bk) (ab)k^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}(ab)k+ab\stackrel{仮定}{=}a(bk)+ab\stackrel{分配法則}{=}a(bk+b)\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}a(bk^{\prime})
  • bbに関する数学的帰納法で示す.
    b=0b=0のとき,補題6よりa0=0aa\cdot 0=0\cdot aであり,成り立つ.
    b=kb=kak=kaak=kaが成り立つと仮定すると
    ak=乗法の定義2ak+a=仮定ka+a=補題5ka ak^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}ak+a\stackrel{仮定}{=}ka+a\stackrel{補題{\normalsize 5}}{=}k^{\prime}a
    よって,b=kb=k^{\prime}のときも成り立つ.
    したがって,すべての非負整数bbに対し,ab=baab=baが成り立つ.\blacksquare

結合法則によって,乗法はどこから計算してもよいということが分かり,交換法則によって,どの順番で計算してもよいということが分かる.特に,(ab)c(ab)ca(bc)a(bc)は同じものを表しているから,カッコを省略してabcabcと表してもよいことにする.

また,交換法則から次の命題が直ちに従う.

系1

aaを非負整数とするとき,次が成り立つ.
a1=1a=a a\cdot 1=1\cdot a=a

a1=a0=乗法の定義2a0+a=乗法の定義10+a=a a\cdot 1=a\cdot 0^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}a\cdot 0+a\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0+a=a
よって,示された.\blacksquare

系1より,11にどんな非負整数を掛けても,どんな非負整数に11を掛けても,元の非負整数のままであることが分かる.この性質から,11を乗法の単位元という.

また,次の性質も重要である.

命題10(乗法の簡約法則)

a,ba,bを非負整数,ccを正の整数とするとき,ac=bcac=bcならば,a=ba=bである.

まずは,補題を準備する.

補題7

a,ba,bを非負整数とするとき,ab=0ab=0ならばa=0a=0またはb=0b=0である.

a,b0a,b\neq 0と仮定すると,ある非負整数c,dc,dが存在して,a=c,b=da=c^{\prime},b=d^{\prime}となる.このとき
ab=cd=乗法の定義2cd+c=cd+a ab=c^{\prime}d^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}c^{\prime}d+c^{\prime}=c^{\prime}d+a
a0a\neq 0であるから,補題4より4ab0ab\neq 0となり矛盾.
したがって,a=0a=0またはb=0b=0である.\blacksquare

補題7及び命題6を用いて,乗法の簡約法則を示そう.

a<ba<bと仮定すると,ある正の整数ddが存在して,a+d=ba+d=bとなる.
このとき
bc=(a+d)c=乗法の交換法則c(a+d)=分配法則ca+cd=乗法の交換法則ac+cd=bc+cd bc=(a+d)c\stackrel{乗法の交換法則}{=}c(a+d)\stackrel{分配法則}{=}ca+cd\stackrel{乗法の交換法則}{=}ac+cd=bc+cd
c,d0c,d\neq 0であるから,補題7よりcd0cd\neq 0
よってbc<bcbc<bcとなるから,命題4よりbcbcbc\neq bcとなり矛盾.

a>ba>bと仮定すると,ある正の整数eeが存在して,b+e=ab+e=aとなる.このとき
ac=(b+e)c=乗法の交換法則c(b+e)=分配法則cb+ce=乗法の交換法則bc+ce=ac+ce ac=(b+e)c\stackrel{乗法の交換法則}{=}c(b+e)\stackrel{分配法則}{=}cb+ce\stackrel{乗法の交換法則}{=}bc+ce=ac+ce
c,e0c,e\neq 0であるから,補題7よりce0ce\neq 0よってac<acac<acとなるから,命題4よりacacac\neq acとなり矛盾.

以上より,命題6からa=ba=bである.\blacksquare

簡約法則によって,等式の両辺に同じ非負整数が掛けられているのであれば,それを取り除いても等式が成り立つことが分かる.

非負整数の簡約法則

命題2により加法の簡約法則が,命題10により乗法の簡約法則が成り立つことが分かった.これらはすべて等式についての簡約法則であったが,実は不等式の場合も同様に成り立つ.

命題11(非負整数の簡約法則)

a,b,ca,b,cを非負整数とするとき,次が成り立つ.

  • a+c=b+ca+c=b+cならばa=ba=b
  • c0c\neq 0のとき,ac=bcac=bcならばa=ba=b
  • a+cb+ca+c\leqq b+cならばaba\leqq b
  • c0c\neq 0のとき,acbcac\leqq bcならばaba\leqq b
  • a+c<b+ca+c<b+cならばa<ba<b
  • c0c\neq 0のとき,ac<bcac<bcならばa<ba<b
  • 命題2より成り立つ.\blacksquare
  • 命題10より成り立つ.\blacksquare
  • a+cb+ca+c\leqq b+cならば,ある非負整数ddが存在して,a+c+d=b+ca+c+d=b+cとなる.すなわち
    (a+d)+c=b+c (a+d)+c=b+c
    であるから,命題2より
    a+d=b a+d=b
    したがってaba\leqq bである.\blacksquare
  • a>ba>bと仮定すると,ある正の整数ddが存在して,b+d=ab+d=aとなる.このとき
    ac=(b+d)c=c(b+d)=cb+cd=bc+cd ac=(b+d)c=c(b+d)=cb+cd=bc+cd
    c,d0c,d\neq 0であるから,補題7より5cd0cd\neq 0よってac>bcac>bcとなり矛盾.
    よってa<ba<bまたはa=ba=bであるから,aba\leqq bである.\blacksquare
  • a+c<b+ca+c<b+cならば,ある正の整数ddが存在して,a+c+d=b+ca+c+d=b+cとなる.すなわち
    (a+d)+c=b+c (a+d)+c=b+c
    であるから,命題2より
    a+d=b a+d=b
    したがってa<ba<bである.\blacksquare
  • a>ba>bと仮定すると,ある正の整数ddが存在して,b+d=ab+d=aとなる.このとき
    ac=(b+d)c=c(b+d)=cb+cd=bc+cd ac=(b+d)c=c(b+d)=cb+cd=bc+cd
    c,d0c,d\neq 0であるから,補題7よりcd0cd\neq 0よってac>bcac>bcとなり矛盾.
    a=ba=bと仮定すると,ac=bcac=bcとなり矛盾.
    よってa<ba<bである.\blacksquare

非負整数のまとめ

ここまで見てきた非負整数の性質をまとめよう.

非負整数の性質

<非負整数において定義した概念>

  • 加法(足し算)
  • 順序(大小関係)
  • 乗法(掛け算)
  • 加法の性質
  • 順序の性質
  • 乗法の性質
  • 結合法則
  • 交換法則
  • 単位元00の存在
  • 簡約法則
  • 分配法則

<順序関係\leqqの性質>

  • 反射律
  • 反対称律
  • 推移律
  • 全順序律
  • 簡約法則

<順序関係<<の性質>

  • 非反射律
  • 非対称律
  • 推移律
  • 三分律
  • 最小元00の存在
  • 簡約法則
  • 結合法則
  • 交換法則
  • 単位元11の存在
  • 簡約法則
  • 分配法則

参考文献

  1. 正の整数の「異なる正の整数の次の正の整数は異なる」という性質から従う. ↩︎
  2. 命題「ppならばqq」の対偶は「qqでないならばppでない」であり,この2つの命題の真偽は一致する. ↩︎
  3. 正の整数の「異なる正の整数の次の正の整数は異なる」という性質から従う. ↩︎
  4. より詳しくは,補題4の対偶より従う. ↩︎
  5. より詳しくは,補題7の対偶より従う. ↩︎
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