この記事では,正の整数とゼロについて扱う.
正の整数とゼロの導入
正の整数と似た言葉として,自然数という言葉がある.高校までの数学では,自然数は正の整数と同義であり,自然数には$0$が含まれないと考える.しかし,大学数学や現代数学では,自然数には$0$が含まれると考える流儀もあり,混乱を招くことになる.そこで,当サイトでは自然数という表現をできるだけ用いずに,正の整数や非負整数という表現を用いることとする.
さて,「正の整数とは何か」と訊かれた場合,どのように答えるだろうか.おそらく,多くの人が
\[ 1,2,3,\dots \dots \]
のような数であると答えるだろう.しかし,これは正の整数を厳密に定義したものではなく,正の整数の具体例を挙げて説明したものに過ぎない.というのも,「$\dots \dots$」の部分が曖昧であり,どのようにも解釈することができるからである.正の整数を全く知らない人からすれば,正の整数が
\[ 1,2,3,10,20,30,\dots \dots \]
のように続いていくと考えるかもしれないし,
\[ 1,2,3,11,22,33,\dots \dots \]
のように続いていくと考えるかもしれない.では,正の整数を厳密に定義するには,どうすればよいのだろうか.
実は,正の整数はペアノの公理というものによってその存在を認めることになるのだが,これは高校数学の範疇を大きく逸脱してしまうため,ここでは深入りしない.興味のある人は,別記事を参照するとよい.
以下,正の整数の存在を認めることとし,次のような性質があるものとする.
$1,2,3,\dots \dots$は正の整数である(正の整数がどのような数で構成されているのかは既知であるものとする).
$1$の次は$2$,$2$の次は$3$,$3$の次は$4$,・・・である(すべての正の整数には「次の」正の整数が存在し,その数は既知のものとする).
異なる2つの正の整数$m,n$に対して,$m$の次の正の整数と$n$の次の正の整数は異なる(異なる正の整数の次の正の整数は異なる).
また,$0$は次のような性質を満たす正の整数でない数であるとする.
$0$の次は$1$である.
次の数が$0$であるような正の整数は存在しない.
ここからは,既に知っている数学の知識のすべてを頭の片隅に置き,上に述べた正の整数と$0$の性質を基に,議論を進めていくことにする.
そのために,次の3つの断りを入れておく.
- 正の整数と$0$を総称して非負整数という.
- $n$を非負整数とするとき,$n$の「次の」非負整数を$n^{\prime}$で表す(この記事のみで用いられる記法であることに注意).
- $n$を非負整数とする.$n$に関する主張$P(n)$があるとき,次の2つの条件
1. $P(0)$が成り立つ.
2. $k$を非負整数とするとき,$P(k)$が成り立つならば$P(k^{\prime})$も成り立つ.
をすべて満たすとき,すべての非負整数$n$に対して$P(n)$が成り立つ(これを数学的帰納法という.).
ここから先は,小学校の算数で教わる,数学の世界では自明に成り立つような事柄を,くどいくらい厳密に証明していく.この論証を通して,難解な数学の問題にも対応できる論理力を身に着けていこう.
非負整数の加法
まずは,非負整数の世界に加法を導入しよう.
定義に従って,具体的な計算をしてみよう.
非負整数の加法には,次のような性質が成り立つ.
証明には数学的帰納法を用いる.
すべての非負整数$n$に対して,主張$P(n)$が成り立つことを示すには,
1. $P(0)$が成り立つ.
2. $k$を非負整数とするとき,$P(k)$が成り立つならば$P(k^{\prime})$も成り立つ.
の2つが成り立つことを示せばよい.
交換法則を示すため,次の補題を用いる.
$b$に関する数学的帰納法で示す.
$b=0$のとき
\[ a+0^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(a+0)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a^{\prime}+0\]
となり成り立つ.
$b=k$で$a+k^{\prime}=a^{\prime}+k$が成り立つと仮定すると
\[ a+(k^{\prime})^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(a+k^{\prime})^{\prime}\stackrel{仮定}{=}(a^{\prime}+k)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}a^{\prime}+k^{\prime}\]
よって,$b=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$b$に対し,$a+b^{\prime}=a^{\prime}+b$が成り立つ.$\blacksquare$
$a$に関する数学的帰納法で示す.
$a=0$のとき
\[ 0+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}0\]
となり成り立つ.
$a=k$で$k+0=0+k=k$が成り立つと仮定すると
\[ k^{\prime}+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}k^{\prime}\]
\[ 0+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(0+k)^{\prime}\stackrel{仮定}{=}(k+0)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}k^{\prime}\]
よって
\[ k^{\prime}+0=0+k^{\prime}=k^{\prime}\]
であるから,$a=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$a$に対し,$a+0=0+a=a$が成り立つ.$\blacksquare$
補題2より,$0$にどんな非負整数を加えても,どんな非負整数に$0$を加えても,元の非負整数のままであることが分かる.この性質から,$0$を加法の単位元という.
補題1,2を踏まえて,加法の結合法則と交換法則を示すことにしよう.
- $c$に関する数学的帰納法で示す.
$c=0$のとき
\[ (a+b)+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a+b\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a+(b+0)\]
となり成り立つ.
$c=k$で$(a+b)+k=a+(b+k)$が成り立つと仮定すると
\[ (a+b)+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}\{ (a+b)+k\} ^{\prime}\stackrel{仮定}{=}\{ a+(b+k)\} ^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}a+(b+k)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}a+(b+k^{\prime})\]
よって,$c=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$c$に対し,$(a+b)+c=a+(b+c)$が成り立つ.$\blacksquare$ - $b$に関する数学的帰納法で示す.
$b=0$のとき,補題2より$a+0=0+a$であり,成り立つ.
$b=k$で$a+k=k+a$が成り立つと仮定すると
\[ a+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(a+k)^{\prime}\stackrel{仮定}{=}(k+a)^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}k+a^{\prime}\stackrel{補題{\normalsize 1}}{=}k^{\prime}+a\]
よって,$b=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$b$に対し,$a+b=b+a$が成り立つ.$\blacksquare$
結合法則によって,加法はどこから計算してもよいということが分かり,交換法則によって,どの順番で計算してもよいということが分かる.特に,$(a+b)+c$と$a+(b+c)$は同じものを表しているから,カッコを省略して$a+b+c$と表してもよいことにする.
また,次の性質も重要である.
$c$に関する数学的帰納法で示す.
$c=0$のとき
\[ a+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}a\]
\[ b+0\stackrel{加法の定義{\normalsize 1}}{=}b\]
であるから,$a+0=b+0$ならば$a=b$である.
$c=k$で,$a+k=b+k$ならば$a=b$であるとき,
$a+k^{\prime}=b+k^{\prime}$ならば
\[ a+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(a+k)^{\prime}\]
\[ b+k^{\prime}\stackrel{加法の定義{\normalsize 2}}{=}(b+k)^{\prime}\]
であるから,$(a+k)^{\prime}=(b+k)^{\prime}$
よって,$a+k=b+k$であるから1,仮定より$a=b$
ゆえに,$c=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$c$に対し,$a+c=b+c$ならば$a=b$が成り立つ.$\blacksquare$
簡約法則によって,等式の両辺に同じ非負整数が加えられているのであれば,それを取り除いても等式が成り立つことが分かる.
非負整数の順序
次に,非負整数の世界に「大小関係」という名の順序を導入しよう.
$\leqq$や$<$を導入することによって,非負整数を順序付けることができる(非負整数の性質として認めている,$0$の次は$1$,$1$の次は$2$,$2$の次は$3$,・・・・・・という順序と同じものになるのだが,ここではその順序とは区別する).
非負整数の順序関係が満たす性質を考えるために,次の補題を示すことにしよう.
$a+b=a$より,$a+0=a$であるから
\[ a+b=a+0\]
加法の交換法則より
\[ b+a=0+a\]
加法の簡約法則より
\[ b=0\]
よって,題意は示された.$\blacksquare$
$a+b=0$より,$b+0=0$であるから
\[ a+b=b+0\]
加法の交換法則より
\[ a+b=0+b\]
加法の簡約法則より
\[ a=0\]
よって
\[ 0=a+b=0+b=b+0=b\]
であるから$b=0$である.$\blacksquare$
まず,$\leqq$という順序関係が持つ性質を考えよう.
- $a+0=a$であるから,定義2より$a\leqq a\blacksquare$
- $a\leqq b$より,ある非負整数$c$が存在して,$a+c=b$となる.
また,$b\leqq a$より,ある非負整数$d$が存在して,$b+d=a$となる.
よって
\[ a=b+d=(a+c)+d=a+(c+d)\]
であるから,補題3より$c+d=0$
ゆえに,補題4より$c=d=0$であるから,$a=b\blacksquare$ - $a\leqq b$より,ある非負整数$d$が存在して,$a+d=b$となる.
また,$b\leqq c$より,ある非負整数$e$が存在して,$b+e=c$となる.
よって
\[ c=b+e=(a+d)+e=a+(d+e)\]
$d+e$は非負整数であるから,$a\leqq c$である. - $a$に関する数学的帰納法で示す.
$a=0$のとき,$b=0$ならば反射律より$0\leqq 0$である.
$b\neq 0$ならば
\[ a+b=0+b=b+0=b\]
であるから$a\leqq b$である.
$a=k$で$k\leqq b$または$b\leqq k$が成り立つと仮定すると,
$k\leqq b$のとき,ある非負整数$c$が存在して,$k+c=b$となる.
$c=0$のとき,$b=k+0=k$であるから
\[ k^{\prime}=k^{\prime}+0=k+0^{\prime}=k+1=b+1\]
よって,$b\leqq k^{\prime}$である.
$c\neq 0$のとき,$d^{\prime}=c$なる非負整数$d$が存在して
\[ k^{\prime}+d=k+d^{\prime}=k+c=b\]
となるから,$k^{\prime}\leqq b$である.
$b\leqq k$のとき,ある非負整数$e$が存在して,$b+e=k$となる.よって
\[ k^{\prime}=(b+e)^{\prime}=b+e^{\prime}\]
であるから,$b\leqq k^{\prime}$
以上より,$a=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$a$に対し,$a\leqq b$または$b\leqq a$が成り立つ.$\blacksquare$
次に,$<$という順序関係について考えたい.その前に,$\leqq$と$<$の順序関係どうしの関係性を述べておこう.
$a<b$ならば,ある正の整数$c$が存在して,$a+c=b$となる.
このとき,$c$は非負整数でもあるから,$a\leqq b$である.
また,補題3の対偶2より,$c\neq 0$であるから$a\neq b$
$a\leqq b$かつ$a\neq b$ならば,ある非負整数$d$が存在して,$a+d=b$となる.
$d=0$と仮定すると,$b=a+0=a$となり,$a\neq b$に矛盾する.
よって,$d\neq 0$であるから,$d$は正の整数である.
したがって,$a<b$である.$\blacksquare$
では,$<$という順序関係が持つ性質を考えよう.
- $a<a$が成り立つと仮定すると,ある正の整数$b$が存在して,$a+b=a$となる.
補題3より$b=0$であるから,$b$が正の整数であることに矛盾する.
よって,$a<a$は成り立たない.$\blacksquare$ - $a<b$ならば,ある正の整数$c$が存在して,$a+c=b$となる.
ここで,$b<a$が成り立つと仮定すると,ある正の整数$d$が存在して,$b+d=a$となる.
このとき
\[ a=b+d=(a+c)+d=a+(c+d)\]
であるから,$c+d=0$であり,補題4より$c=d=0$である.
これは$c,d$が正の整数であることに矛盾する.
よって,$b<a$は成り立たない.$\blacksquare$ - $a<b$より,ある正の整数$d$が存在して,$a+d=b$となる.
また,$b<c$より,ある正の整数$e$が存在して,$b+e=c$となる.
よって
\[ c=b+e=(a+d)+e=a+(d+e)\]
$d+e$は正の整数であるから,$a<c$である.$\blacksquare$
また,2つの非負整数が与えられたとき,その大小関係について,次の3つのいずれか1つが成り立つ.
命題4及び非対称律より,$a<b,a=b,a>b$のうち2つ以上が同時に成り立つことはない.
以下,$a<b,a=b,a>b$のいずれかが必ず成り立つことを,$a$に関する数学的帰納法で示す.
$a=0$のとき,$b=0$ならば$a=b=0$が成り立つ.
$b\neq 0$すなわち$b$が正の整数ならば,$b=b+0=b+a=a+b$であるから,$a<b$が成り立つ.
$a=k$で$k<b,k=b,k>b$のいずれかが成り立つと仮定すると,
$k<b$のとき,ある正の整数$c$が存在して,$k+c=b$となる.
$c=1$のとき
\[ b=k+1=k+0^{\prime}=(k+0)^{\prime}=k^{\prime}\]
であるから,$k^{\prime}=b$が成り立つ.
$c\neq 1$のとき,$d^{\prime}=c$なる正の整数$d$が存在して3
\[ b=k+c=k+d^{\prime}=k^{\prime}+d\]
となるから,$k^{\prime}<b$である.
$k=b$のとき
\[ k^{\prime}=k^{\prime}+0=k+0^{\prime}=k+1=b+1\]
であるから,$k^{\prime}>b$
$k>b$のとき,ある正の整数$e$が存在して,$k=b+e$となる.よって
\[ k^{\prime}=(b+e)^{\prime}=b+e^{^\prime}\]
であるから,$k^{\prime}>b$
以上より,$a=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$a$に対し,$a<b$または$a=b$または$a>b$のいずれか1つが成り立つ.$\blacksquare$
そして,非負整数や正の整数の世界には,最も小さい数が存在する.これは最小元と呼ばれる.
- 任意の非負整数$n$に対し
\[ 0+n=n+0=n\]
となるから,$0\leqq n$が成り立つ.よって,示された.$\blacksquare$ - 任意の正の整数$n$に対し,$m^{\prime}=n$なる非負整数$m$が存在して
\[ 1+m=0^{\prime}+m=0+m^{\prime}=0+n=n+0=n\]
となるから,$1\leqq n$が成り立つ.よって,示された.$\blacksquare$
非負整数の乗法
さらに,非負整数の世界に乗法を導入しよう.
$m\times n$は$mn$や$m\cdot n$で表すこともある.ただし,$m,n$が具体的な数字である場合,$mn$という表記は用いない.
定義に従って,具体的な計算をしてみよう.
さて,乗法の定義には加法を用いているが,加法と乗法の2つの演算が混合している場合は,乗法を優先して計算することにする.
つまり,乗法よりも加法を優先して計算したいときは,優先する加法の計算をカッコでくくる必要がある.
一般に,加法を優先して計算するときには,次の性質が成り立つ.
$c$に関する数学的帰納法で示す.
$c=0$のとき
\[ a(b+0)=ab=ab+0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}ab+a\cdot 0\]
となり成り立つ.
$c=k$で$a(b+k)=ab+ak$が成り立つと仮定すると
\[ a(b+k^{\prime})=a(b+k)^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}a(b+k)+a\stackrel{仮定}{=}(ab+ak)+a=ab+(ak+a)\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}ab+ak^{\prime}\]
よって,$c=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$c$に対し,$a(b+c)=ab+ac$が成り立つ.$\blacksquare$
そして,非負整数の乗法には,加法と同様の次の性質が成り立つ.
これも数学的帰納法で示すことができるのだが,結合法則の証明には分配法則が,交換法則の証明には次の2つの補題が用いられる.
$b$に関する数学的帰納法で示す.
$b=0$のとき
\[ a^{\prime}\cdot 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0=0+0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}a\cdot 0+0\]
となり成り立つ.
$b=k$で$a^{\prime}k=ak+k$が成り立つと仮定すると
\[ a^{\prime}k^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}a^{\prime}k+a^{\prime}\stackrel{仮定}{=}ak+k+a^{\prime}=ak+a^{\prime}+k=ak+a+k^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}ak^{\prime}+k^{\prime}\]
よって$b=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$b$に対し,$a^{\prime}b=ab+b$が成り立つ.$\blacksquare$
$a$に関する数学的帰納法で示す.
$a=0$のとき
\[ 0\times 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0\]
となり成り立つ.
$a=k$で$k\cdot 0=0\cdot k=0$が成り立つと仮定すると
\[ k^{\prime}\cdot 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0\]
\[ 0\cdot k^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}0\cdot k+0\stackrel{仮定}{=}0+0=0\]
よって
\[ k^{\prime}\cdot 0=0\cdot k^{\prime}=0\]
であるから,$a=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$a$に対し,$a\cdot 0=0\cdot a=0$が成り立つ.$\blacksquare$
- $c$に関する数学的帰納法で示す.
$c=0$のとき
\[ (ab)\cdot 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}a\cdot 0\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}a(b\cdot 0)\]
となり成り立つ.
$c=k$で$(ab)k=a(bk)$が成り立つと仮定すると
\[ (ab)k^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}(ab)k+ab\stackrel{仮定}{=}a(bk)+ab\stackrel{分配法則}{=}a(bk+b)\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}a(bk^{\prime})\] - $b$に関する数学的帰納法で示す.
$b=0$のとき,補題6より$a\cdot 0=0\cdot a$であり,成り立つ.
$b=k$で$ak=ka$が成り立つと仮定すると
\[ ak^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}ak+a\stackrel{仮定}{=}ka+a\stackrel{補題{\normalsize 5}}{=}k^{\prime}a\]
よって,$b=k^{\prime}$のときも成り立つ.
したがって,すべての非負整数$b$に対し,$ab=ba$が成り立つ.$\blacksquare$
結合法則によって,乗法はどこから計算してもよいということが分かり,交換法則によって,どの順番で計算してもよいということが分かる.特に,$(ab)c$と$a(bc)$は同じものを表しているから,カッコを省略して$abc$と表してもよいことにする.
また,交換法則から次の命題が直ちに従う.
\[ a\cdot 1=a\cdot 0^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}a\cdot 0+a\stackrel{乗法の定義{\normalsize 1}}{=}0+a=a\]
よって,示された.$\blacksquare$
系1より,$1$にどんな非負整数を掛けても,どんな非負整数に$1$を掛けても,元の非負整数のままであることが分かる.この性質から,$1$を乗法の単位元という.
また,次の性質も重要である.
まずは,補題を準備する.
$a,b\neq 0$と仮定すると,ある非負整数$c,d$が存在して,$a=c^{\prime},b=d^{\prime}$となる.このとき
\[ ab=c^{\prime}d^{\prime}\stackrel{乗法の定義{\normalsize 2}}{=}c^{\prime}d+c^{\prime}=c^{\prime}d+a\]
$a\neq 0$であるから,補題4より4$ab\neq 0$となり矛盾.
したがって,$a=0$または$b=0$である.$\blacksquare$
補題7及び命題6を用いて,乗法の簡約法則を示そう.
$a<b$と仮定すると,ある正の整数$d$が存在して,$a+d=b$となる.
このとき
\[ bc=(a+d)c\stackrel{乗法の交換法則}{=}c(a+d)\stackrel{分配法則}{=}ca+cd\stackrel{乗法の交換法則}{=}ac+cd=bc+cd\]
$c,d\neq 0$であるから,補題7より$cd\neq 0$
よって$bc<bc$となるから,命題4より$bc\neq bc$となり矛盾.
$a>b$と仮定すると,ある正の整数$e$が存在して,$b+e=a$となる.このとき
\[ ac=(b+e)c\stackrel{乗法の交換法則}{=}c(b+e)\stackrel{分配法則}{=}cb+ce\stackrel{乗法の交換法則}{=}bc+ce=ac+ce\]
$c,e\neq 0$であるから,補題7より$ce\neq 0$よって$ac<ac$となるから,命題4より$ac\neq ac$となり矛盾.
以上より,命題6から$a=b$である.$\blacksquare$
簡約法則によって,等式の両辺に同じ非負整数が掛けられているのであれば,それを取り除いても等式が成り立つことが分かる.
非負整数の簡約法則
命題2により加法の簡約法則が,命題10により乗法の簡約法則が成り立つことが分かった.これらはすべて等式についての簡約法則であったが,実は不等式の場合も同様に成り立つ.
- 命題2より成り立つ.$\blacksquare$
- 命題10より成り立つ.$\blacksquare$
- $a+c\leqq b+c$ならば,ある非負整数$d$が存在して,$a+c+d=b+c$となる.すなわち
\[ (a+d)+c=b+c\]
であるから,命題2より
\[ a+d=b\]
したがって$a\leqq b$である.$\blacksquare$ - $a>b$と仮定すると,ある正の整数$d$が存在して,$b+d=a$となる.このとき
\[ ac=(b+d)c=c(b+d)=cb+cd=bc+cd\]
$c,d\neq 0$であるから,補題7より5$cd\neq 0$よって$ac>bc$となり矛盾.
よって$a<b$または$a=b$であるから,$a\leqq b$である.$\blacksquare$ - $a+c<b+c$ならば,ある正の整数$d$が存在して,$a+c+d=b+c$となる.すなわち
\[ (a+d)+c=b+c\]
であるから,命題2より
\[ a+d=b\]
したがって$a<b$である.$\blacksquare$ - $a>b$と仮定すると,ある正の整数$d$が存在して,$b+d=a$となる.このとき
\[ ac=(b+d)c=c(b+d)=cb+cd=bc+cd\]
$c,d\neq 0$であるから,補題7より$cd\neq 0$よって$ac>bc$となり矛盾.
$a=b$と仮定すると,$ac=bc$となり矛盾.
よって$a<b$である.$\blacksquare$
非負整数のまとめ
ここまで見てきた非負整数の性質をまとめよう.
参考文献
- 高校数学の美しい物語, https://manabitimes.jp/math.
- 受験の月, https://examist.jp.
- 教科書より詳しい高校数学, https://yorikuwa.com.
- 数学の時間, https://akiyamath.com.
- KIT数学ナビゲーション, https://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math.
- Wikipedia, https://ja.wikipedia.org(英語版:https://en.wikipedia.org).
- Wolfram MathWorld, https://mathworld.wolfram.com.
- Mathlog, https://mathlog.info.