この記事は,「日曜数学 Advent Calendar 2024」の12/23の記事です.詳しくは,以下のリンクをご覧ください(たくさんの方が参加されていて,それぞれとても素晴らしい記事・動画等になっています).
さて,この記事を執筆している時点では2024年11月ですが,公開時点ではあと少しで2024年が終わろうとしています.来年は,西暦が変わって2025年,数学が好きな者としてはどうしても$2025$という数に注目してしまいます.
おそらく,次のような性質はあちこちで紹介され,もしかすると「見飽きた」方もいるかも知れません.
\[ 2025=45^2\]
\[ 2025=1^3+2^3+3^3+4^3+5^3+6^3+7^3+8^3+9^3\]
筆者の場合は,これに匹敵する美しさ・シンプルさを持つ,あまり知られていない$2025$の性質を探したくなってしまいます.
入試問題では,こうした$2025$の性質を背景として,様々な問題が出題されることでしょう.そして,多くの数学愛好家が$2025$にまつわる問題を作り,SNSなどで様々な議論が巻き起こることでしょう.
この記事では,自称数学愛好家である筆者が,$2025$にまつわる問題を考えた結果発見した,$2025$のあまり知られていない美しい性質と,その良問を紹介します.もしかするとすでにあちこちで出回っている有名な事実なのかもしれませんが,一応筆者が自力で発見したものになります(執筆時点では無名でも,公開時点で有名になっている場合もありますが,何卒ご了承ください).
渾身の一作
ぜひ一度解いていただきたいです.数学オリンピックの予選問題で序盤に出題されそうな問題と難易度ですが,中学生でも解ける問題です.
求める平方数は,整数$n$を用いて$n^2$と表される.$n^2$のすべての桁に$1$を加えることによって得られる整数は$n^2+1111$と表されるから,これが平方数であるとき,整数$m$を用いて
\[ n^2+1111=m^2\]
となる.すなわち
\[ (m+n)(m-n)=11\times 101\]
$m+n,m-n$は整数であり,$11,101$は素数であるから,$m+n>m-n$より
\[ \left\{ \begin{aligned}m+n=1111\\ m-n=1\end{aligned}\right. \]
\[ \left\{ \begin{aligned}m+n=101\\ m-n=11\end{aligned}\right. \]
よって,$(m,n)=(556,555),(56,45)$
ゆえに$n^2$は$555^2>10^4$または$45^2=2025$となるが,$n^2$は4桁の平方数であるから,求める平方数は$2025$である.
この問題をどうやって思いついたか
$2025$年が迫ってきていたので,そろそろ$2025$にまつわる数学の問題を作ろうと豪語していた筆者は,とりあえず整数問題の作問を試みました.
まずは$2025$の数論的性質を調べ上げます.素因数分解は定番ですね.
\[ 2025=3^4\times 5^2\]
すると,$2025$は平方数であることが分かります.
\[ 2025=45^2\]
ここで,$45$が三角数であることに注目します.つまり
\[ \sum_{n=1}^9n=1+2+3+4+5+6+7+8+9=45\]
であることに注目すると
\[ 2025=\left( \sum_{n=1}^9n\right) ^2\]
であるから,次の等式が得られます.
\[ \sum_{n=1}^9n^3=1^3+2^3+3^3+4^3+5^3+6^3+7^3+8^3+9^3=2025\]
まあ,ここまではたくさんのサイトに掲載されていることですし,知っているという方も多いとは思います.有名な性質を背景にした問題を作るのもいいですが,それでは面白くないので,問題を解いたときに思わず感動してしまうような,答えが美しい(例えば答えが$2025$のみである)ものを作ることを目指してみることにしました.
平方数である$2025$を眺めてみると,下2桁である$25$も平方数であることに気づきました.つまり,$2025$は下2桁が平方数である平方数です.この性質に注目して,このような整数は他にどのようなものがあるかを考えてみることにしました.
下2桁が平方数である平方数は,$a,b$を整数とすると,$100a+b^2$と表されます.ここで,$b$は1桁の正の整数とします.これが平方数であることから,$c$を整数とすると,次の等式が成り立つ整数の組$(a,b,c)$を求める問題になります.
\[ 100a+b^2=c^2\]
整数問題を解くときの定石に従うと,次のように変形できます.
\[ 100a=(c+b)(c-b)\tag{1}\]
一般的にこの不定方程式をいきなり解こうとするのは大変なので,まずは制限をかけてみることにします.$2025$は,$a=20,b=5,c=45$としたものです.
$(1)$の左辺は$100$の倍数なので,右辺も$100$の倍数となります.ここで,$c\pm b$がともに$5$の倍数であると仮定すると,$2b=(c+b)-(c-b)$も$5$の倍数となり,$b=5$となります.このとき,$(1)$は
\[ 100a+25=c^2\]
となるので,両辺を平方数の$25$で割ると
\[ 4a+1=\left( \frac{c}{5}\right) ^2\]
となります.ここで,次の平方剰余の性質に注目します.
\[ n^2\equiv \begin{cases}0&(nは偶数)\\ 1&(nは奇数)\end{cases}\pmod{4}\]
この性質は受験数学でも競技数学でもよく見られる有名なものですが,ここから分かることは,$\dfrac{c}{5}$は奇数ならば何でも良いということです.よって,$c$は奇数である$5$の倍数,すなわち
\[ a=n(n+1),b=5,c=10n+5\qquad (n\in \mathbb{N})\tag{2}\]
という一般解が得られます.よって,そのような平方数は$(10n+5)^2$と表されます.特に,$2025$は$n=4$とした場合の解であることが分かりました.
では,$b\neq 5$の場合についても考えてみましょう.$b=5$のときの一般解を$(1)$に代入すると,次のような等式が成り立っていることが分かります.
\[ 100n(n+1)+25=(10n+5)^2\]
この等式を眺めると,$b=1,2,3,4,6,7,8,9$の場合の一般解として,例えば次のようなものがあると予想できます.
\[ 100n(25n\pm 1)+1=(50n\pm 1)^2\]
\[ 100n(25n\pm 2)+4=(50n\pm 2)^2\]
\[ 100n(25n\pm 3)+9=(50n\pm 3)^2\]
\[ 100n(25n\pm 4)+16=(50n\pm 4)^2\]
\[ 100n(25n\pm 6)+36=(50n\pm 6)^2\]
\[ 100n(25n\pm 7)+49=(50n\pm 7)^2\]
\[ 100n(25n\pm 8)+64=(50n\pm 8)^2\]
\[ 100n(25n\pm 9)+81=(50n\pm 9)^2\]
これはどのように予想したかというと,まず,右辺を$n$の1次式の$2$乗の形だと決めきってしまいます.そして,それを展開したときに,下2桁以外の定数項でない部分の係数がともに$100$の倍数になるにはどうすればよいかを考えます.左辺の$n^2$の係数が$100$の倍数になるには,右辺の$2$乗する前の$n$の係数を$10$の倍数にしなければいけません.さらに,左辺の$n$の係数が$100$の倍数になるには,右辺の$2$乗する前の$n$の係数と定数項の積が$50$の倍数にならなければいけません.これらの条件を満たす多項式のうち,係数が最も小さくなるものを選ぶと,上の式が得られます.
問題は,これ以外に解が存在しないかということです.$b=5$の場合は,$(2)$がすべての解を表現していることを導出によって示していますが,上の予想はそうではありません.この式ですべての解をカバーできているかを確認する必要があります.
しかし,今回の場合はそれほど難しくありません.右辺に注目すると,$50$で割ったときの余りを限定しているわけですから,他の剰余の場合はどうなるかを考えればよいです.つまり,$50$で割ったときの余りとしてあり得る次の50パターン
\[ 0,\pm 1,\pm 2,\pm 3,\dots ,\pm 24,25\]
のそれぞれについて,$2$乗したときの下2桁,すなわち$100$で割ったときの余りを考えればよいわけです.実際に計算すると
\[ 0^2\equiv 0\pmod{100}\]
\[ 1^2\equiv 1\pmod{100}\]
\[ 2^2\equiv 4\pmod{100}\]
\[ 3^2\equiv 9\pmod{100}\]
\[ 4^2\equiv 16\pmod{100}\]
\[ 5^2\equiv 25\pmod{100}\]
\[ 6^2\equiv 36\pmod{100}\]
\[ 7^2\equiv 49\pmod{100}\]
\[ 8^2\equiv 64\pmod{100}\]
\[ 9^2\equiv 81\pmod{100}\]
\[ 10^2\equiv 0\pmod{100}\]
\[ 11^2\equiv 21\pmod{100}\]
\[ 12^2\equiv 44\pmod{100}\]
\[ 13^2\equiv 69\pmod{100}\]
\[ 14^2\equiv 96\pmod{100}\]
\[ 15^2\equiv 25\pmod{100}\]
\[ 16^2\equiv 56\pmod{100}\]
\[ 17^2\equiv 89\pmod{100}\]
\[ 18^2\equiv 24\pmod{100}\]
\[ 19^2\equiv 61\pmod{100}\]
\[ 20^2\equiv 0\pmod{100}\]
\[ 21^2\equiv 41\pmod{100}\]
\[ 22^2\equiv 84\pmod{100}\]
\[ 23^2\equiv 29\pmod{100}\]
\[ 24^2\equiv 76\pmod{100}\]
\[ 25^2\equiv 25\pmod{100}\]
となりますが,このうち下2桁が平方数であるものは$0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,15,20,25$だけです.今回は,$b$が$1$桁の正の整数として考えていたので,下2桁が$00$であるものは取り除くと$1,2,3,4,5,6,7,8,9,15,25$の11個となります.特に,$15$と$25$は$10$で割って$5$余る数なので,$(2)$でカバーできていることを考えると,結局$b\neq 5$のときの一般解は予想通りであることが分かりました.
以上をまとめると,不定方程式
\[ 100a+b^2=c^2\]
の解のうち,$a$が$0$でない整数であり,$b$が1桁の正の整数であり,$c$が非負整数であるものは
\[ (a,b,c)=\begin{cases}(n(25n\pm k),k,(50n\pm k))&(k=1,2,3,4,6,7,8,9)\\ (n(n+1),k,10n+5)&(k=5)\end{cases}\qquad (n\in \mathbb{N})\]
であることが分かりました.
次に,筆者はこのような平方数の$100$以上の位の桁に注目しました.下2桁が平方数であることに注目した次は,これを考えるのが自然だろうと考えたからです.$b\neq 5$のときは$n(25n\pm k)$であり,$b=5$のときは$n(n+1)$になっていることから,この数列をPythonで書いてみました.
k=1
while k<10:
n=1
sequence=[]
while n<=10:
sequence.append(n*(25*n+k))
n=n+1
print(sequence)
if k>0:
k=-k
elif k==-4:
k=6
else:
k=-k+1
$b=1$のとき
\[ 26, 102, 228, 404, 630, 906, 1232, 1608, 2034, 2510\]
\[ 24, 98, 222, 396, 620, 894, 1218, 1592, 2016, 2490\]
$b=2$のとき
\[ 27, 104, 231, 408, 635, 912, 1239, 1616, 2043, 2520\]
\[ 23, 96, 219, 392, 615, 888, 1211, 1584, 2007, 2480\]
$b=3$のとき
\[ 28, 106, 234, 412, 640, 918, 1246, 1624, 2052, 2530\]
\[ 22, 94, 216, 388, 610, 882, 1204, 1576, 1998, 2470\]
$b=4$のとき
\[ 29, 108, 237, 416, 645, 924, 1253, 1632, 2061, 2540\]
\[ 21, 92, 213, 384, 605, 876, 1197, 1568, 1989, 2460\]
$b=5$のとき
\[ 2,6,12,20,30,42,56,72,90,110\]
$b=6$のとき
\[ 31, 112, 243, 424, 655, 936, 1267, 1648, 2079, 2560\]
\[ 19, 88, 207, 376, 595, 864, 1183, 1552, 1971, 2440\]
$b=7$のとき
\[ 32, 114, 246, 428, 660, 942, 1274, 1656, 2088, 2570\]
\[ 18, 86, 204, 372, 590, 858, 1176, 1544, 1962, 2430\]
$b=8$のとき
\[ 33, 116, 249, 432, 665, 948, 1281, 1664, 2097, 2580\]
\[ 17, 84, 201, 368, 585, 852, 1169, 1536, 1953, 2420\]
$b=9$のとき
\[ 34, 118, 252, 436, 670, 954, 1288, 1672, 2106, 2590\]
\[ 16, 82, 198, 364, 580, 846, 1162, 1528, 1944, 2410\]
次に,下2桁が平方数である平方数を小さい順に書き出してみました.
\[ 1681,1764,1849,1936,2025,2116,2209,2304,2401,2601,2704,2809,2916,3025,3136,3249,3364,3481\]
すると,上の18個の数字は,$2401$と$2601$の間に$2500$を入れることで,連続する平方数の列になっていることに気づきました.まあ当たり前なのですが,そうして眺めてみると,ふと気づいてしまいました.「$2025$の千の位に$1$を加えると$3025$という別の平方数になる」.これはなにかに使えそうだと思ったのですが,$3025$のお隣,$3136$に注目すると,「$2025$の各桁を$1$増やすと,$3136$という別の平方数になる」ことに気づいてしまいました.このような平方数は他にあるのかと思い,とりあえず立てた問いが問題1です.
【読者への挑戦状】問題1の拡張
問題1を改めて掲載しておきます.
最後に,これを更に拡張して,より一般的な問題にアップグレードすることを考えてみましょう.興味のある読者は挑戦してみてください.
拡張1:桁の一般化
$9$の桁があってもよいではないかという一般化です.ただし,$9$に$1$を加えると2桁になってしまうので,特殊な条件をつけています.
拡張2:桁数の一般化
4桁という条件を取っ払ってみました.2桁の場合は$25$のみであることが明らかにわかりますが,それ以外の場合はどうなるでしょうか.
拡張3:記数法の一般化
10進法で表された整数について考えるだけでなく,2進数や3進数など,記数法を変化させてみるとどうなるのでしょうか.
拡張4:一般化盛り合わせ
これは複雑な問題の予感がします・・・.