この記事では,2025年11月16日(日)に実施された,「第36回 日本数学オリンピック 予選」の第4問の解答を紹介・解説しています.解答はすべて筆者によるものであり,「公益財団法人 数学オリンピック財団」によるものではありません.
問題については,以下のリンク(公益財団法人 数学オリンピック財団)から閲覧してください(問題の著作権は数学オリンピック財団に帰属します).
第4問は組合せ論(C)の問題です.面積の最大値が存在することから,切れ目にどのような条件が課されるのかを考えることが重要です.
実際に問題を解くときは答えのみを出せばよいのだが,この記事は解説が目的であるため,記号を定義するところから始めることにしよう.
まずは切れ目についての記号を定義しておく.切れ目は直線であること,及び辺$AB,BC$のいずれか一方と交わることに注意する.
辺$AB$と交わる切れ目を$A$に近いほうから順に$l_1,l_2,\dots ,l_m$とし,辺$BC$と交わる切れ目を$B$に近いほうから順に$l^{\prime}_0,l^{\prime}_1,\dots ,l^{\prime}_n$とする.
切れ目と辺$AB,BC$の交点は端点$A,B,C$ではないため,今後の議論を踏まえて
\[ l_0=AD,\quad l_{m+1}=BC,\quad l^{\prime}_0=AB,\quad l^{\prime}_{n+1}=CD\]
としておく.
ただし,辺$AB$と交わる切れ目がないときは,$l_1=BC$,辺$BC$と交わる切れ目がないときは,$l^{\prime}_1=CD$とすることにしよう.
次に,切れ目によって分割されてできる小長方形についても記号を定義しておく.
$i$を$0$以上$m$以下の整数,$j$を$0$以上$n$以下の整数とする.
このとき,$D_{i,j}$を切れ目$l_i,l_{i+1}.l^{\prime}_j,l^{\prime}_{j+1}$によって囲まれる小長方形とする.
また,この問題では小長方形$D_{i,j}$の形状について考えるため,小長方形$D_{i,j}$の辺の長さについても定義しておく.
具体的には,$p_i$を$l_i$と$l_{i+1}$の距離とし,$q_j$を$l^{\prime}_j$と$l^{\prime}_{j+1}$の距離とする.
$p_i,q_j$は$1$以上$9$以下の整数であることに注意しよう.
前置きが長くなってしまったが,いよいよ本問に取り組もう.
長方形$ABCD$の面積は
\[ (p_0+p_1+\dots +p_m)(q_0+q_1+\dots +q_n)\]
である.条件を満たす長方形の面積に最大値が存在することから,$p_0,p_1,\dots ,p_m$と$q_0,q_1,\dots ,q_n$には制約があることが予想される.
このとき,まず考えられるのは,$p_0,p_1,\dots ,p_m$や$q_0,q_1,\dots ,q_n$に重複する値がないのではないかという予想である.
実際
\[ m=1,n=0,p_0=p_1=q_0=1\]
とすると,$D_{0,0}\equiv D_{1,0}$となり,合同な小長方形が存在しないことに矛盾する.つまり,縦の長さが等しい異なる小長方形の組や,横の長さが等しい異なる小長方形の組が存在してはならないということである.
では,この予想について検証してみよう.
$0$以上$m$以下の異なる整数$i_1,i_2$が存在して,$p_{i_1}=p_{i_2}$となると仮定すると,$D_{i_1,0}$は長さ$p_{i_1}$の辺と長さ$q_0$の辺からなる長方形であり,$D_{i_2,0}$は長さ$p_{i_2}$の辺と長さ$q_0$の辺からなる長方形である.
ゆえに,$D_{i_1,0}\equiv D_{i_2,0}$となり矛盾.よって,$p_0,p_1,\dots ,p_m$は相異なる$1$以上$9$以下の整数であるから,$m$は高々$8$である.
同様に,$0$以上$n$以下の異なる整数$j_1,j_2$が存在して,$q_{j_1}=q_{j_2}$となると仮定すると,$D_{0,j_1}$は長さ$p_0$の辺と長さ$q_{j_1}$の辺からなる長方形であり,$D_{0,j_2}$は長さ$p_0$の辺と長さ$q_{j_2}$の辺からなる長方形である.
ゆえに,$D_{0,j_1}\equiv D_{0,j_2}$となり矛盾.よって,$q_0,q_1,\dots ,q_n$は相異なる$1$以上$9$以下の整数であるから,$n$は高々$8$である.
ここまでの議論で,長方形$ABCD$の面積
\[ (p_0+p_1+\dots +p_m)(q_0+q_1+\dots +q_n)\]
を最大にするようなものの候補として,例えば
\[ m=n=8\\ p_0=1,p_1=2,\dots ,p_8=9\\ q_0=1,q_1=2,\dots ,q_8=9\]
があることが分かった.
しかし,このような長方形$ABCD$と切れ目の組は,条件をみたさない.例えば,$D_{0,1}\equiv D_{1,0}$である.つまり,異なる小長方形の組であって,一方の縦の長さともう一方の横の長さが等しいようなものが存在してはならないということである.
この予想についても検証してみよう.
$0$以上$m$以下の異なる整数$i_1,i_2$と,$0$以上$n$以下の異なる整数$j_1,j_2$が存在して,$p_{i_1}=q_{j_2},p_{i_2}=q_{j_1}$となると仮定すると,$D_{i_1,j_1}$は長さ$p_{i_1}$の辺と長さ$q_{j_1}$の辺からなる長方形であり,$D_{i_2,j_2}$は長さ$p_{i_2}$の辺と長さ$q_{j_2}$の辺からなる長方形である.
ゆえに,$D_{i_1,j_1}\equiv D_{i_2,j_2}$となり矛盾.
よって,$p_i=q_j$となる$0$以上$m$以下の整数と$0$以上$n$以下の整数の組$(i,j)$は高々1組しか存在しない.
以上の議論をまとめると,$p_0,p_1,\dots ,p_m$は相異なる$1$以上$9$以下の整数,$q_0,q_1,\dots ,q_n$は相異なる$1$以上$9$以下の整数であり,$p_0,p_1,\dots ,p_m$と$q_0,q_1,\dots ,q_n$の中に重複した数は高々$1$個である.
整理すると,$0$以上$m$以下の異なる整数$i_1,i_2$と,$0$以上$n$以下の異なる整数$j_1,j_2$に対して,$D_{i_1,j_1}\equiv D_{i_2,j_2}$となるための必要十分条件は
\[ p_{i_1}=p_{i_2}\quad かつ\quad q_{j_1}=q_{j_2}\]
または
\[ p_{i_1}=q_{j_2}\quad かつ\quad p_{i_2}=q_{j_1}\]
である.
ここまでで,これら2つの条件について確認したことになる.
さて,条件をみたす長方形$ABCD$の面積を最大にするには,重複している長さを$9$にする,すなわち,$0$以上$m$以下のある整数と$0$以上$n$以下のある整数の組$(i,j)$が存在して,$p_i=q_j=9$となるようにすればよい.
$p_0,p_1,\dots ,p_m$や$q_0,q_1,\dots ,q_n$を入れ替えても,その総和
\[ p_0+p_1+\dots +p_m\\ q_0+q_1+\dots +q_n\]
は変わらないから,$i=j=0$として一般性を失わない.
このとき,$p_1,p_2,\dots ,p_m,q_1,q_2,\dots ,q_n$は$1$以上$8$以下の相異なる整数の並び替えであり,特に$m+n=8$である.
\[ p=p_1+p_2+\dots +p_m\\ q=q_1+q_2+\dots q_n\]
とおくと
\[ p+q=1+2+\dots +8=36\]
である.
長方形$ABCD$の面積は$(p+9)(q+9)$であるから,この式を評価すればよい.
相加相乗平均の不等式より
\[ (p+9)(q+9)\leqq \left( \frac{(p+9)+(q+9)}{2}\right) ^2=27^2\]
が成り立つ.特に,等号成立条件は
\[ p+9=q+9=27\]
すなわち
\[ p=q=18\]
である.例えば
\[ (p_1,p_2,p_3,q_1,q_2,q_3,q_4,q_5)=(8,6,4,7,5,3,2,1)\]
は条件をみたすから,長方形$ABCD$の面積の最大値は$27^2=\color{red}729$である.
ここまでの議論を簡潔に整理すると,次のようになる.
辺$AB$と交わる切れ目を$A$に近いほうから順に$l_1,l_2,\dots ,l_m$とし,辺$BC$と交わる切れ目を$B$に近いほうから順に$l^{\prime}_0,l^{\prime}_1,\dots ,l^{\prime}_n$とする.また
\[ l_0=AD,\quad l_{m+1}=BC,\quad l^{\prime}_0=AB,\quad l^{\prime}_{n+1}=CD\]
とする.
ただし,辺$AB$と交わる切れ目がないときは,$l_1=BC$,辺$BC$と交わる切れ目がないときは,$l^{\prime}_1=CD$とする.
$0$以上$m$以下の整数$i$,$0$以上$n$以下の整数$j$に対して,$p_i$を$l_i$と$l_{i+1}$の距離とし,$q_j$を$l^{\prime}_j$と$l^{\prime}_{j+1}$の距離とする.
このとき,切れ目$l_i,l_{i+1}.l^{\prime}_j,l^{\prime}_{j+1}$によって囲まれる小長方形$D_{i,j}$は長さ$p_i$の辺と長さ$q_j$の辺からなる.$p_i,q_j$は$1$以上$9$以下の整数であることに注意する.
$0$以上$m$以下の異なる整数$i_1,i_2$と,$0$以上$n$以下の異なる整数$j_1,j_2$に対して,$D_{i_1,j_1}\equiv D_{i_2,j_2}$となるための必要十分条件は
\[ p_{i_1}=p_{i_2}\quad かつ\quad q_{j_1}=q_{j_2}\]
または
\[ p_{i_1}=q_{j_2}\quad かつ\quad p_{i_2}=q_{j_1}\]
である.
$0$以上$m$以下の異なる整数$i_1,i_2$が存在して,$p_{i_1}=p_{i_2}$となると仮定すると,$D_{i_1,0}\equiv D_{i_2,0}$となり矛盾.よって,$m$は高々$8$である.
同様に,$n$は高々$8$である.
$0$以上$m$以下の異なる整数$i_1,i_2$と,$0$以上$n$以下の異なる整数$j_1,j_2$が存在して,$p_{i_1}=q_{j_1},p_{i_2}=q_{j_2}$となると仮定すると,$D_{i_1,j_1}\equiv D_{i_2,j_2}$となり矛盾.
以上より,$p_0,p_1,\dots ,p_m$は相異なり,$q_0,q_1,\dots ,q_n$も相異なる.また,$p_i=q_j$となる$0$以上$m$以下の整数と$0$以上$n$以下の整数の組$(i,j)$は高々1組しか存在しない.
条件をみたす長方形$ABCD$の面積が最大となるとき,$0$以上$m$以下のある整数と$0$以上$n$以下のある整数の組$(i,j)$が存在して,$p_i=q_j=9$となる.$i=j=0$として一般性を失わない.
このとき,$p_1,p_2,\dots ,p_m,q_1,q_2,\dots ,q_n$は$1$以上$8$以下の相異なる整数の並び替えであり,特に$m+n=8$である.
\[ p=p_1+p_2+\dots +p_m\\ q=q_1+q_2+\dots q_n\]
とおくと
\[ p+q=1+2+\dots +8=36\]
であるから,長方形$ABCD$の面積は$(p+9)(q+9)$
相加相乗平均の不等式より
\[ (p+9)(q+9)\leqq \left( \frac{(p+9)+(q+9)}{2}\right) ^2=27^2\]
が成り立つ.等号成立条件は
\[ p+9=q+9=27\]
すなわち
\[ p=q=18\]
である.例えば
\[ (p_1,p_2,p_3,q_1,q_2,q_3,q_4,q_5)=(8,6,4,7,5,3,2,1)\]
は条件をみたすから,長方形$ABCD$の面積の最大値は$27^2=\color{red}729$である.
参考文献
- 公益財団法人 日本数学オリンピック財団, https://www.imojp.org(最終閲覧日は当記事の最終更新日です).
