部分群
$G$を群,$H\subset G$とする.$H$が$G$上の演算に関して群であるとき,$H$を$G$の部分群(subgroup)という.
部分群の基本性質を確認しよう.
$H$を群$G$の部分群とするとき,次が成り立つ.
- $e_G=e_H$
- 任意の$a\in H$に対し,$a$の$G$における逆元と$H$における逆元は等しい.
- 単位元の定義より,$e_He_H=e_H$が成り立つ.
また,$H\subset G$より$e_H\in G$であるから$e_He_G=e_H$が成り立つ.
よって$e_Ge_H=e_He_H$
ここで,両辺に$e_H$の$G$における逆元$e_H^{-1}$を右から掛けると$e_G=e_H$が従う.$\blacksquare$ - $a$の$G,H$における逆元をそれぞれ$b,c$とすると
\[ ab=ba=e_G,\quad ac=ca=e_H\]
が成り立つ.①より$ab=ac$であるから,両辺に左から$b$を掛けると$b=c$が従う.$\blacksquare$
部分群であることは,次のように言い換えることができる.
$G$を群,$H\subset G$とする.次の3つの命題は互いに同値である.
- $H$は$G$の部分群である.
- $H$は次の3つの条件をすべて満たす.
- $e_G\in H$
- 任意の$x,y\in H$に対し,$xy\in H$
- 任意の$x\in H$に対し,$x^{-1}\in H$
- 任意の$x,y\in H$に対し,$xy^{-1}\in H$
①$\implies$②を示す.
命題1の①より,$e_G=e_H\in H$
また,$H$は群であるから,$G$上の演算について閉じている.よって,任意の$x,y\in H$1に対し,$xy\in H$である.
さらに,$H$は群であるから,任意の$x\in H$に対し,ある$y\in H$が存在し,$xy=yx=1_H=1_G$となる.$H\subset G$より$y\in G$であるから,$y=x^{-1}$である.よって$x^{-1}\in H$である.
②$\implies$③を示す.
任意の$x,y\in H$に対し,$y^{-1}\in H$であるから,明らかに$xy^{-1}\in H$である.
③$\implies$①を示す.
まず,任意の$x,y,z\in H$に対し,$x,y,z\in H$であるから,$(xy)z=x(yz)$である.
任意の$x\in H$に対し,$e_G=xx^{-1}\in H$であり,$xe_G=e_Gx=x$が成り立つから,$e_H=e_G$である.
よって,任意の$x\in H$に対し,$x^{-1}=1_Hx^{-1}\in H$である.
また,任意の$x,y$に対し,$y^{-1}\in H$であり,$xy=x(y^{-1})^{-1}\in H$である.
以上より,$H$は$G$の部分群である.
したがって,定理1が成り立つ.$\blacksquare$
部分群であることの証明には,定理1の③を用いて簡潔に示すことができる場合が多い.
$G$を群とするとき,$\{ e\}$は$G$の部分群であり,$G$の自明な部分群という.
また,$G$でない$G$の部分群を真部分群(proper subgroup)という.
定義2で,$\{ e\},G$が$G$の部分群であることを確認しよう.
まず,$\{ e\}$については,$e$の逆元は$e$であるから,$ee^{-1}=e\in \{ e\}$である.よって,定理1より$\{ e\} \in G$は$G$の部分群である.
また,$G\subset G$であるから,明らかに$G$は$G$の部分群である.
部分群に関する命題
まずは,部分群の基本的な性質を2つ紹介する.
可換群の部分群は可換群である.
$H$を可換群$G$の部分群とする.任意の$x,y\in H$に対し,$H\subset G$より$ab=ba$であるから,$H$は可換群である.$\blacksquare$
$H$を群$G$の部分群,$I$を$H$の部分群とするとき,$I$は$G$の部分群である.
部分群の定義より明らかである.$\blacksquare$
部分群の共通部分は部分群である.
$H_1,H_2$を群$G$の部分群とするとき,$H_1\cap H_2$は$G$の部分群である.
任意の$x,y\in H_1\cap H_2$に対し,$x,y\in H_1$かつ$x,y\in H_2$である.
定理1より,$xy^{-1}\in H_1$かつ$xy^{-1}\in H_2$であるから,$xy^{-1}\in H_1\cap H_2$である.
したがって,$H_1\cap H_2$は$G$の部分群である.$\blacksquare$
部分群の和集合は部分群であるとは限らない.その必要十分条件は次で与えられる.
$H_1,H_2$を群$G$の部分群とする.次の2つの命題は同値である.
- $H_1\cup H_2$は$G$の部分群である.
- $H_1\subset H_2$または$H_2\subset H_1$が成り立つ.
①$\implies$②を示す.
ある$x\in H_1\setminus H_2,y\in H_2\setminus H_2$が存在すると仮定する.
このとき,$z=xy\in H_1\cup H_2$である.
$z\in H_1$のとき,両辺に左から$x^{-1}\in H_1$を掛けると$y=x^{-1}z\in H_1$となり矛盾.
同様に$z\in H_2$のとき,両辺に右から$y^{-1}\in H_2$を掛けると$x=zy^{-1}\in H_2$となり矛盾.
以上より,$H_1\subset H_2$または$H_2\subset H_1$が成り立つ.$\blacksquare$
②$\implies$①を示す.
$H_1\subset H_2\subset G$のとき,任意の$x,y\in H_1\cup H_2=H_2$に対し,$xy^{-1}\in H_2=H_1\cup H_2$が成り立つから,定理1より$H_1\cup H_2$は$G$の部分群である.$\blacksquare$
部分群の例
$\mathbb{Z}$は通常の加法に関して群である.$n\mathbb{Z}\subset \mathbb{Z}$を
\[ n\mathbb{Z}=\{ nx\mid x\in \mathbb{Z}\} \]
により定めると,$n\mathbb{Z}$は通常の加法に関して,$\mathbb{Z}$の部分群である.
実際,任意の$a,b\in n\mathbb{Z}$に対し,ある$x,y\in \mathbb{Z}$が存在し
\[ a=nx,\quad b=ny\]
となる.$b$の逆元は$-b=-ny$であるから
\[ a+(-b)=nx+(-ny)=n(x-y)\in n\mathbb{Z}\]
が成り立つ.よって,定理1より従う.
$\{ \pm 1,\pm i\} \subset \mathbb{C}^{\times}$は通常の乗法に関して,$\mathbb{C}^{\times}$の部分群である.
実際,$1$の逆元は$1$,$-1$の逆元は$-1$,$i$の逆元は$-i$,$-i$の逆元は$i$であり,
$\times$ | $1$ | $-1$ | $i$ | $-i$ |
$1$ | $1$ | $-1$ | $i$ | $-i$ |
$-1$ | $-1$ | $1$ | $-i$ | $i$ |
$i$ | $i$ | $-i$ | $-1$ | $1$ |
$-i$ | $-i$ | $i$ | $1$ | $-1$ |
乗法表は上のようになるから,定理1より従う.
乗法群については,以下の記事を参照するとよい.