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拡大実数

実数の集合に正の無限大と負の無限大を加えた集合を考えよう.


拡大実数の定義

実数には,最大値と最小値が存在しない.ここでは逆に,実数に最大値と最小値を設定した集合を考えることにしよう.

定義1

$+\infty ,-\infty$を次の性質を満たすものとする.

任意の$x\in \mathbb{R}$に対して,$-\infty <x<+\infty$が成り立つ.

このとき,$\mathbb{R}\cup \{ +\infty ,-\infty \}$を拡大実数(extended real number)(またはアフィン拡大実数(affinely extended real number),補完数直線(extended real line))といい,$\overline{\mathbb{R}}$(または$[-\infty ,+\infty ]$)で表す.

$+\infty$は$\infty$で表すこともある.

任意の$x\in \overline{\mathbb{R}}$に対して,$-\infty \le x\le +\infty$が成り立つ.

上界と下界

拡大実数上で,集合の上界と下界を考えよう.

定義2

$A\subset \overline{\mathbb{R}}$,$M,m\in \overline{\mathbb{R}}$とする.

  • 任意の$a\in A$に対して,$a\le M$が成り立つとき,$M$を$A$の上界(upper bound)という.
  • 任意の$a\in A$に対して,$a\ge m$が成り立つとき,$m$を$A$の下界(lower bound)という.
例1
  • $A=\mathbb{N}\cup \{ +\infty\}$とすると,$+\infty$は$A$の上界であり,$1$以下の実数と$-\infty$は$A$の下界である.
  • $B=\left\{ -\dfrac{1}{x}\ \middle| \ 0<x<1\right\} \cup \{ -\infty \}$とすると,$1$以上の実数と$+\infty$は$B$の上界であり,$-\infty$は$B$の下界である.

拡大実数の部分集合が持つ性質として,次が成り立つ.

命題1

任意の$A\in \overline{\mathbb{R}}$に対して,$+\infty$は$A$の上界,$-\infty$は$A$の下界である.

任意の$a\in A$に対して,$A\subset \overline{\mathbb{R}}$より$a\in \overline{\mathbb{R}}$であるから
\[ -\infty \le a\le +\infty \]
が成り立つ.したがって,$+\infty$は$A$の上界,$-\infty$は$A$の下界である.$\blacksquare$

命題1により,任意の$\overline{\mathbb{R}}$の部分集合は上界と下界を持つ.

上限と下限

実数の部分集合については,その上限と下限が存在しない場合があった.しかし,拡大実数の部分集合については,その上限と下限が必ず存在する.

命題2

任意の$A\subset \overline{\mathbb{R}}$に対して,$A$の上界全体の集合$U(A)$の最小元,$A$の下界全体の集合$L(A)$の最大元が存在する.

まず,$\min U(A)$が存在することを示す.

$A\cap \mathbb{R}=\emptyset$のとき,
$A$が$\emptyset$または$\{ -\infty\}$ならば,$U(A)=\overline{\mathbb{R}}$であるから,$\min U(A)=-\infty$
$A$が$\{ +\infty \}$または$\{ \pm \infty\}$ならば,$U(A)=\{ +\infty\}$であるから,$\min U(A)=+\infty$

$A\cap \mathbb{R}\neq \emptyset$のとき,
$+\infty \not\in A$かつ,$A\setminus \{ \pm \infty \}$が$\mathbb{R}$において上に有界であるとき,連続の公理より$\sup A\in \mathbb{R}$が存在する.これは,$\min U(A)$が存在することに他ならない.
$+\infty \in A$または,$A\setminus \{ \pm \infty \}$が$\mathbb{R}$において上に有界でないとき,$U(A)=\{ +\infty\}$であるから,$\min U(A)=+\infty$

以上より,いずれの場合も$\min U(A)$が存在する.

次に,$\max L(A)$が存在することを示す.

$A\cap \mathbb{R}=\emptyset$のとき,
$A$が$\emptyset$または$\{ +\infty\}$ならば,$L(A)=\overline{\mathbb{R}}$であるから,$\max L(A)=+\infty$
$A$が$\{ -\infty \}$または$\{ \pm \infty\}$ならば,$L(A)=\{ -\infty\}$であるから,$\max L(A)=-\infty$

$A\cap \mathbb{R}\neq \emptyset$のとき,
$-\infty \not\in A$かつ,$A\setminus \{ \pm \infty \}$が$\mathbb{R}$において下に有界であるとき,連続の公理より$\inf A\in \mathbb{R}$が存在する.これは,$\max L(A)$が存在することに他ならない.
$-\infty \in A$または,$A\setminus \{ \pm \infty \}$が$\mathbb{R}$において下に有界でないとき,$L(A)=\{ -\infty\}$であるから,$\max L(A)=-\infty$

以上より,いずれの場合も$\max L(A)$が存在する.$\blacksquare$

命題2より,拡大実数上の上限と下限を定義できる.

定義3

$A\subset \overline{\mathbb{R}}$,$U(A)$を$A$の上界全体の集合,$L(A)$を$A$の下界全体の集合とする.

  • $\min U(A)$を$A$の上限(supremum)(または最小上界(least upper bound))といい,$\sup A$(または$\operatorname{lub}A$)で表す.
  • $\max L(A)$を$A$の下限(infimum)(または最大下界(greatest lower bound))といい,$\inf A$(または$\operatorname{glb}A$)で表す.
例2
  • $A=\mathbb{N}\cup \{ +\infty\}$とすると
    \[ \sup A=+\infty ,\quad \inf A=1\]
  • $B=\left\{ -\dfrac{1}{x}\ \middle| \ 0<x<1\right\} \cup \{ -\infty \}$とすると
    \[ \sup A=1,\quad \inf A=-\infty \]

上限と下限は,次のように言い換えることができる.

命題3

$A\subset \overline{\mathbb{R}}$,$b\in \overline{\mathbb{R}}$とする.
次の2つの命題は同値である.

  • $b=\sup A$
  • $b$は次の2つの条件を満たす.
    • 任意の$a\in A$に対して,$a\le b$が成り立つ.
    • 任意の$x\in \overline{\mathbb{R}}$に対して,$x<b$ならば,ある$a\in A$が存在して,$x<a$となる.

$U(A)$を$A$の上界全体の集合とする.

①$\implies$②を示す.

まず,$b\in U(A)$であるから,任意の$a\in A$に対して,$a\le b$が成り立つ.
また,ある$x\in \overline{\mathbb{R}}$が存在して,$x<b$かつ任意の$a\in A$に対して$a\le x$が成り立つと仮定すると,$x\in U(A)$であるが,これは$b$の最小性に矛盾する.よって,任意の$x\in \overline{\mathbb{R}}$に対して,$x<b$ならば,ある$a\in A$が存在して,$x<a$となる.
したがって,②が成り立つ.

②$\implies$①を示す.

まず,明らかに$b\in U(A)$が成り立つ.
また,ある$x\in U(A)$が存在して,$x<b$となるとすると,ある$a\in A$が存在して,$x<a$となる.これは,$x\in U(A)$に矛盾する.よって,任意の$x\in U(A)$に対して,$x\ge b$が成り立つ.
したがって,①が成り立つ.$\blacksquare$

命題4

$A\subset \overline{\mathbb{R}}$,$b\in \overline{\mathbb{R}}$とする.
次の2つの命題は同値である.

  • $b=\inf A$
  • $b$は次の2つの条件を満たす.
    • 任意の$a\in A$に対して,$a\ge b$が成り立つ.
    • 任意の$x\in \overline{\mathbb{R}}$に対して,$x>b$ならば,ある$a\in A$が存在して,$x>a$となる.

$L(A)$を$A$の下界全体の集合とする.

①$\implies$②を示す.

まず,$b\in L(A)$であるから,任意の$a\in A$に対して,$a\ge b$が成り立つ.
また,ある$x\in \overline{\mathbb{R}}$が存在して,$x>b$かつ任意の$a\in A$に対して$a\ge x$が成り立つと仮定すると,$x\in L(A)$であるが,これは$b$の最大性に矛盾する.よって,任意の$x\in \overline{\mathbb{R}}$に対して,$x>b$ならば,ある$a\in A$が存在して,$x>a$となる.
したがって,②が成り立つ.

②$\implies$①を示す.

まず,明らかに$b\in L(A)$が成り立つ.
また,ある$x\in LA)$が存在して,$x>b$となるとすると,ある$a\in A$が存在して,$x>a$となる.これは,$x\in L(A)$に矛盾する.よって,任意の$x\in L(A)$に対して,$x\le b$が成り立つ.
したがって,①が成り立つ.$\blacksquare$

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