群の構造を調べるには,なるべく位数が小さい部分群に注目するとよい.剰余類を導入するとラグランジュの定理が得られ,部分群の位数を調べることができる.
剰余類
剰余類を定義するための準備として,次の補題を示す.
$G$を群,$H$を$G$の部分群,$x,y\in G$とする.
- $G$上の二項関係$\sim$を
\[ x\sim y\iff x^{-1}y\in H\iff \exists h\in H\ \mathrm{s.t.}\ y=xh\]
により定めるとき,$\sim$は$G$上の同値関係である. - $G$上の同値関係$\sim$を
\[ x\sim y\iff yx^{-1}\in H\iff \exists h\in H\ \mathrm{s.t.}\ y=hx\]
により定めるとき,$\sim$は$G$上の同値関係である.
同値関係については,次の記事を参照するとよい.
- $x,y,z\in G$を任意にとる.
以下,$\sim$が$G$上の同値関係であることを示す.- $x^{-1}x=e\in H$であるから,$x\sim x$である.
- $x\sim y$ならば,$x^{-1}y\in H$である.
このとき
\[ y^{-1}x=(x^{-1}y)^{-1}\in H\]
であるから,$y\sim x$である. - $x\sim y$かつ$y\sim z$ならば,$x^{-1}y,y^{-1}z\in H$である.
よって
\[ x^{-1}z=x^{-1}yy^{-1}z\in H\]
であるから,$x\sim z$である.$\blacksquare$
- $x,y,z\in G$を任意にとる.
以下,$\sim$が$G$上の同値関係であることを示す.- $xx^{-1}=e\in H$であるから,$x\sim x$である.
- $x\sim y$ならば,$yx^{-1}\in H$である.
このとき
\[ xy^{-1}=(yx^{-1})^{-1}\in H\]
であるから,$y\sim x$である. - $x\sim y$かつ$y\sim z$ならば,$yx^{-1},zy^{-1}\in H$である.
よって
\[ zx^{-1}=zy^{-1}yx^{-1}\in H\]
であるから,$x\sim z$である.$\blacksquare$
補題1を踏まえると,剰余類を定義することができる.
$G$を群,$H$を$G$の部分群,$x,y\in G$とする.
- $G$上の同値関係$\sim$を
\[ x\sim y\iff x^{-1}y\in H\]
で定めるとき,$x$の同値類を$x$の$H$による左剰余類(left coset)といい,$xH$で表す.すなわち
\[ xH=\{ xh\mid h\in H\} \]
である.
また,この同値類による商集合,すなわち左剰余類全体の集合を$G/H$で表す. - $G$上の同値関係$\sim$を
\[ x\sim y\iff yx^{-1}\in H\]
で定めるとき,$x$の同値類を$x$の$H$による右剰余類(right coset)といい,$Hx$で表す.すなわち
\[ Hx=\{ hx\mid h\in H\} \]
である.
また,この同値類による商集合,すなわち右剰余類全体の集合を$H\backslash G$で表す.
この表記は差集合と混同する恐れがある.当サイトでは,混同の恐れがある場合に限り,「差集合」または「右剰余類」という言葉を明示して区別できるようにしている.
具体例で確認しよう.
$2\mathbb{Z}$は$\mathbb{Z}$の部分群である.
まず
\[ \{ 0+n\mid n\in 2\mathbb{Z}\} =\{ 0,\pm 2,\pm 4,\dots \} \\ \{ 1+n\mid n\in 2\mathbb{Z}\} =\{ \pm 1,\pm 3,\dots \} \]
である.
これら2つの集合の共通部分は空であり,$0$の$2\mathbb{Z}$による左剰余類$\overline{0}$と$1$の$2\mathbb{Z}$による左剰余類$\overline{1}$は異なる.
$\overline{0}\cup \overline{1}=\mathbb{Z}$であるから
\[ \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}=\{ \overline{0},\overline{1}\} \]
である.
可換群の場合は,左剰余類と右剰余類は等しい.
$G$を可換群,$H$を$G$の部分群とする.
\[ G/H=H\backslash G\]
任意の$xH\in G/H$と任意の$y\in xH$に対して,ある$h\in H$が存在して,$y=xh$となる.
$G$は可換群であるから
\[ y=xh=hx\in H\]
よって,$y\in Hx$であるから$xH=Hx$
$S\in H\backslash G$より$G/H=H\backslash G$である.$\blacksquare$
剰余類の位数
剰余類の位数について,次の2つの命題が成り立つ.
$G$を群,$H$を$G$の部分群,$g\in G$とする.
\[ |gH|=|Hg|=|H|\]
写像$\phi :H\to gH$を
\[ \phi (h)=gh\quad (h\in H)\]
により定める.
任意の$x\in gH$に対して,ある$h\in H$が存在して,$x=gh$,すなわち$\phi (h)=x$となるから,$\phi$は全射である.
また,$h_1,h_2\in H$が$\phi (h_1)=\phi (h_2)$,すなわち$gh_1=gh_2$を満たすとき,両辺に左から$g^{-1}$を掛けると,$h_1=h_2$を得るから,$\phi$は単射である.
以上より,$\phi$は全単射であるから,$|gH|=|H|$である.
写像$\psi :H\to Hg$を
\[ \psi (h)=hg\quad (h\in H)\]
により定める.
任意の$x\in Hg$に対して,ある$h\in H$が存在して,$x=hg$,すなわち$\psi (h)=x$となるから,$\psi$は全射である.
また,$h_1,h_2\in H$が$\psi (h_1)=\psi (h_2)$,すなわち$h_1g=h_2g$を満たすとき,両辺に右から$g^{-1}$を掛けると,$h_1=h_2$を得るから,$\psi$は単射である.
以上より,$\psi$は全単射であるから,$|gH|=|H|$である.$\blacksquare$
$G$を群,$H$を$G$の部分群とする.
\[ |G/H|=|H\backslash G|\]
写像$\phi :G/H\to H\backslash G$及び$\psi :H\backslash G\to G/H$を
\[ \phi (gH)=Hg^{-1}\quad (gH\in G/H)\\ \psi (Hg)=g^{-1}H\quad (Hg\in H\backslash G)\]
により定める.
$\phi$の定義がwell-definedであることを示す.
$x,y\in G$が$xH=yH$を満たすとする.
まず,任意の$ax^{-1}\in Hx^{-1}$に対して,$xa^{-1}\in xH=yH$であり,ある$b\in H$が存在して,$xa^{-1}=yb$となる.このとき
\[ \begin{aligned}ax^{-1}&=(xa^{-1})^{-1}=(yb)^{-1}\\ &=b^{-1}y^{-1}\in Hy^{-1}\end{aligned}\]
であるから,$Hx^{-1}\subset Hy^{-1}$を得る.
また,任意の$ay^{-1}\in Hy^{-1}$に対して,$ya^{-1}\in yH=xH$であり,ある$b\in H$が存在して,$ya^{-1}=xb$となる.このとき
\[ \begin{aligned}ay^{-1}&=(ya^{-1})^{-1}=(xb)^{-1}\\ &=b^{-1}x^{-1}\in Hx^{-1}\end{aligned}\]
であるから,$Hy^{-1}\subset Hx^{-1}$を得る.
以上より,$Hx^{-1}=Hy^{-1}$であるから,$\phi$の定義はwell-definedである.
$\psi$の定義がwell-definedであることを示す.
$x,y\in G$が$Hx=Hy$を満たすとする.
まず,任意の$x^{-1}a\in x^{-1}H$に対して,$a^{-1}x\in Hx=Hy$であり,ある$b\in H$が存在して,$a^{-1}x=by$となる.このとき
\[ \begin{aligned}x^{-1}a&=(a^{-1}x)^{-1}=(by)^{-1}\\ &=y^{-1}b^{-1}\in y^{-1}H\end{aligned}\]
であるから,$x^{-1}H\subset y^{-1}H$を得る.
また,任意の$y^{-1}a\in y^{-1}H$に対して,$a^{-1}y\in Hy=Hx$であり,ある$b\in H$が存在して,$a^{-1}y=bx$となる.このとき
\[ \begin{aligned}y^{-1}a&=(a^{-1}y)^{-1}=(bx)^{-1}\\ &=x^{-1}b^{-1}\in x^{-1}H\end{aligned}\]
であるから,$y^{-1}H\subset x^{-1}H$を得る.
以上より,$x^{-1}H=y^{-1}H$であるから,$\psi$の定義はwell-definedである.
任意の$gH\in G/H$に対して
\[ \begin{aligned}&(\psi \phi )(gH)=\psi (\phi (gH))\\ =&\psi (Hg^{-1})=gH\end{aligned}\]
であり,任意の$Hg\in H\backslash G$に対して
\[ \begin{aligned}&(\phi \psi )(Hg)=\phi (\psi (Hg))\\ =&\phi (g^{-1}H)=Hg\end{aligned}\]
であるから,$\phi$と$\psi$は互いの逆写像であり,ともに全単射である.
したがって,$|G/H|=|H\backslash G|$である.$\blacksquare$
特に,剰余類全体の集合の位数は重要である.
$G$を群,$H$を$G$の部分群とする.
$|G/H|$及び$|H\backslash G|$を$H$の$G$における指数(index)といい,$(G:H)$で表す.
ラグランジュの定理
剰余類の位数を考えることで,部分群の位数の条件を与える,ラグランジュの定理が得られる.
$G$を群,$H$を$G$の部分群とする.
\[ |G|=(G:H)|H|\]
$n=(G:H)$とする.
$G/H$の完全代表系は$n$個の異なる元からなり,これを$\{ x_1,x_2,\dots ,x_n\}$とおくと
\[ G=\bigsqcup _{i=1}^nx_iH\]
となる.任意の$i\in \{ 1,2,\dots ,n\}$に対して,命題2より,$|x_iH|=|H|$であるから
\[ |G|=\sum _{i=1}^n|x_iH|=(G:H)|H|\quad \blacksquare \]
ラグランジュの定理から,次の系が直ちに導かれる.
$G$を有限群,$g\in G$とする.
- $H$が$G$の部分群ならば,$|H|$は$|G|$の約数である.
- $g$の位数は$|G|$の約数である.
- $(G:H)\in \mathbb{Z}$であることに注意すると,ラグランジュの定理より,$|H|$は$|G|$の約数である.$\blacksquare$
- $\langle g\rangle$は$G$の部分群であるから,①より,$|\langle g\rangle |$は$|G|$の約数である.
$|\langle g\rangle |$は$g$の位数に等しいから,$g$の位数は$|G|$の約数である.$\blacksquare$
特に重要な帰結として,次の定理2が成り立つ.
素数位数の群は巡回群である.
$p$を素数,$G$を位数$p$の群,$g\in G$とする.
$\langle g\rangle$は$G$の部分群であり,系1より$\langle g\rangle$の位数は$1$または$p$である.
$|\langle g\rangle |=1$であるとき,$\langle g\rangle \neq G$である.
$|\langle g\rangle |=p$であるとき,$\langle g\rangle =G$であるから,$G$は巡回群である.$\blacksquare$