$\mathbb{R}$を定義域とし,$\mathbb{R}$を値域とする関数の微分を定義する.
微分の定義
ここでは,$\mathbb{R}$の開区間1上で定義された実関数の微分を定義する.
$I\subset \mathbb{R}$を開区間,$f:I\to \mathbb{R}$を関数とする.
- $a\in I$とする.
極限
\[ \lim _{x\to a}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}=\lim _{h\to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}\in \mathbb{R}\tag{$\ast$}\]
が存在するとき,$f(x)$は$x=a$で微分可能(differentiable)であるという.
また,$(\ast )$を$f(x)$の$x=a$における微分係数(derivative, differential coefficient)といい,$f^{\prime}(x)$(または$\dfrac{df}{dx}(a)$,$\left. \dfrac{df}{dx}\right| _{x=a}$,$Df(a)$,$Df|_{x=a}$)で表す. - 任意の$a\in I$に対して,$f(x)$が$x=a$で微分可能であるとき,$f$は$I$で微分可能(differentiable)であるという.
このとき,関数$g:I\to \mathbb{R}$を
\[ g(x)=f^{\prime}(x)\quad (x\in I)\]
により定めるとき,$g$を$f$の導関数(derivative, derivative function, derived function)といい,$f^{\prime}$(または$\dfrac{df}{dx}$,$\dot{f}$,$Df$)で表す.
また,$f$の導関数を求めることを$f$を微分する(differentiate)という.
微分のイメージを掴もう.

$\mathbb{R}$の開区間$I$上で定義された関数$f$を$xy$平面上に図示すると上図のようになったとする.このとき,$\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$は青の直線の傾きを表している.$a$を固定し,$h$を($h\neq 0$を満たしながら)$0$に近づけていくと,青の直線は限りなく赤の直線,すなわち曲線$y=f(x)$の$x=a$における接線に限りなく近づく.この接線の傾きを$f^{\prime}(a)$と表すことにすると
\[ f^{\prime}(a)=\lim _{h\to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}\]
が成り立つことが分かる.これが微分の図形的解釈である.
具体的な関数を定義に従って微分してみよう.
関数$f:\mathbb{R}\to \mathbb{R}$を
\[ f(x)=x^2\quad (x\in \mathbb{R})\]
により定めるとき
\[ \frac{f(x+h)-f(x)}{h}=\frac{(x+h)^2-x^2}{h}=\frac{x^2+2hx+h^2-x^2}{h}=\frac{2hx+h^2}{h}=2x+h\]
よって
\[ \lim _{h\to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h}=\lim _{h\to 0}(2x+h)=2x\in \mathbb{R}\]
であるから,$f^{\prime}(x)=2x$である.
1変数単項式の微分
まず,定数関数の導関数について考えよう.
$I\subset \mathbb{R}$を開区間,$c\in \mathbb{R}$とする.
関数$f:I\to \mathbb{R}$を
\[ f(x)=c\quad (x\in I)\]
により定めるとき,$f^{\prime}(x)=0$である.
\[ \frac{f(x+h)-f(x)}{h}=\frac{c-c}{h}=0\]
よって
\[ \lim _{h\to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}=\lim _{h\to 0}0=0\]
であるから,$f^{\prime}(x)=0$である.$\blacksquare$
次に,$x^n$の導関数について考えよう.
$n\in \mathbb{N}$,$I\subset \mathbb{R}$を開区間とする.
関数$f:I\to \mathbb{R}$を
\[ f(x)=x^n\quad (x\in I)\]
により定めるとき,$f^{\prime}(x)=nx^{n-1}$である.
\[ \begin{aligned}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}&=\frac{(x+h)^n-x^n}{h}=\frac{1}{h}\left( \sum _{k=0}^n\binom{n}{k}x^{n-k}h^k-x^n\right) \\ &=\frac{1}{h}\sum _{k=1}^n\binom{n}{k}x^{n-k}h^k=\sum _{k=1}^n\binom{n}{k}x^{n-k}h^{k-1}\\ &=\binom{n}{1}x^{n-1}h^0+\sum _{k=2}^n\binom{n}{k}x^{n-k}h^{k-1}\\ &=nx^{n-1}+\sum _{k=1}^{n-1}\binom{n}{k+1}x^{n-k-1}h^{k}\end{aligned}\]
よって
\[ \lim _{h\to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}=\lim _{h\to 0}\left( nx^{n-1}+\sum _{k=1}^{n-1}\binom{n}{k+1}x^{n-k-1}h^{k}\right) =nx^{n-1}\]
であるから,$f^{\prime}(x)=nx^{n-1}$である.$\blacksquare$
微分可能性と連続性
微分可能な関数は連続関数である.
$I\subset \mathbb{R}$を開区間,$f:I\to \mathbb{R}$を関数,$a\in I$とする.
$f(x)$が$x=a$で微分可能であるならば,$f(x)$は$x=a$で連続である.
$f(x)$は$x=a$で微分可能であるから
\[ f^{\prime}(a)=\lim _{x\to a}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}\in \mathbb{R}\]
が存在する.よって,任意の$x\in I$に対して
\[ \begin{aligned}\lim _{x\to a}f(x)&=\lim _{x\to a}(f(x)-f(a)+f(a))=\lim _{x\to a}\left( \frac{f(x)-f(a)}{x-a}\cdot (x-a)+f(a)\right) \\ &=\lim _{x\to a}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}\cdot \lim _{x\to a}(x-a)+\lim _{x\to a}f(a)=f^{\prime}(a)\cdot 0+f(a)=f(a)\end{aligned}\]
が成り立つから,$f(x)$は$x=a$で連続である.$\blacksquare$
定理1より,次の系が直ちに従う.
$I\subset \mathbb{R}$を開区間,$f:I\to \mathbb{R}$を関数とする.
$f(x)$が$I$上微分可能であるならば,$f(x)$は$I$上連続である.
任意の$a\in I$に対して,$f(x)$は$x=a$で微分可能であるから,定理1より$f(x)$は$x=a$で連続である.
したがって,$f(x)$は$I$上連続である.$\blacksquare$
定理1の逆は成り立たない.すなわち,連続関数は微分可能であるとは限らない.
関数$f:\mathbb{R}\to \mathbb{R}$を
\[ f(x)=|x|\quad (x\in \mathbb{R})\]
により定め,$\varepsilon >0$を任意にとる.
$\delta _1=\varepsilon >0$とすると,任意の$x\in \mathbb{R}$に対して,$0<|x-0|<\delta _1$すなわち$0<|x|<\delta _1$ならば
\[ |f(x)-f(0)|=||x|-|0||=|x|<\delta _1=\varepsilon \]
が成り立つから,$f(x)$は$x=0$で連続である.
一方,$\delta _2=\varepsilon >0$とすると,任意の$x\in \mathbb{R}$に対して,$0<|x-0|<\delta _2$すなわち$0<|x|<\delta _2$ならば,
$0<x<\delta _2$のとき
\[ \left| \frac{f(x)-f(0)}{x-0}-1\right| =\left| \frac{|x|-|0|}{x}-1\right| =\left| \frac{x}{x}-1\right| =0<\varepsilon \]
であるから,$\displaystyle \lim _{x\to +0}\frac{f(x)-f(0)}{x-0}=1$が成り立つ.
また,$-\delta _2<x<0$のとき
\[ \left| \frac{f(x)-f(0)}{x-0}+1\right| =\left| \frac{|x|-|0|}{x}+1\right| =\left| \frac{-x}{x}+1\right| =0<\varepsilon \]
であるから,$\displaystyle \lim _{x\to -0}\frac{f(x)-f(0)}{x-0}=-1$が成り立つ.
したがって
\[ \lim _{x\to +0}\frac{f(x)-f(0)}{x-0}\neq \lim _{x\to -0}\frac{f(x)-f(0)}{x-0}\]
であるから,$\displaystyle \lim _{x\to 0}\frac{f(x)-f(0)}{x-0}$は存在しない.すなわち,$f(x)$は$x=0$で微分可能でない.
- $\mathbb{R}$の閉区間上で定義された実関数に対しても,同様にして微分を定義することができるが,これには難点がある.
閉区間上の実関数の微分を,定義1と同様にして次のように定義するとどうなるだろうか.
$I\subset \mathbb{R}$を閉区間,$f:I\to \mathbb{R}$を関数,$a\in I$とする.
極限
\[ \lim _{x\to a}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}=\lim _{h\to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}\in \mathbb{R}\]
が存在するとき,$f(x)$は$x=a$で微分可能であるという.
これを$\varepsilon$-$\delta$論法を用いて考えてみよう.
$f(x)$が$x=a$で微分可能であるとは,ある$\alpha \in \mathbb{R}$が存在して,
任意の$\varepsilon >0$に対して,ある$\delta >0$が存在し,任意の$x\in \mathbb{R}$に対して,$0<|x-a|<\delta$ならば
\[ \left| \frac{f(x)-f(a)}{x-a}-\alpha \right| <\varepsilon \]
が成り立つことをいう.
ここで,$f$の定義域が閉区間$I$であることに注意すると,微分可能であることの定義に$f(x)$が含まれている時点で,$x\in I$でなければならない.
ところが,$x$は$(a-\delta ,a+\delta)\setminus \{ a\}$から任意に1つ選ぶため
\[ (a-\delta ,a+\delta)\setminus \{ a\}\subset I\]
という包含関係が成り立っている必要がある.
例えば,$I$が無限閉区間$[a,+\infty )$であるとき,$x\in (a-\delta ,a)$をとると$x\not\in I$となり,$f(x)$が存在しない場合があることになる.
以上の理由から,ここでは開区間上で定義された関数に対して微分を定義している. ↩︎