関数の増減を調べることは微分積分学の目的の1つである.関数の極値と微分の関係性について述べる.
関数の極値
高校数学ではその定義が曖昧であった「極値」は,次のように厳密に定義される.
$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合,$f:A\to \mathbb{R}$を関数,$a\in A$とする.
- ある$\delta >0$が存在して,任意の$x\in A$に対して,$0<|x-a|<\delta$ならば$f(x)\le f(a)$が成り立つとき,$f(a)$を$f(x)$の$x=a$における極大値(または広義極大値)(local maximum)といい,$a$を$f$の極大点(local maximum point)という.
- ある$\delta >0$が存在して,任意の$x\in A$に対して,$0<|x-a|<\delta$ならば$f(x)\ge f(a)$が成り立つとき,$f(a)$を$f(x)$の$x=a$における極小値(または広義極小値)(local minimum)といい,$a$を$f$の極小点(local minimum point)という.
- 極大値と極小値を合わせて極値(または広義極値)(extremum)という.
次の「狭義極値」の概念も存在する.
$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合,$f:A\to \mathbb{R}$を関数,$a\in A$とする.
- ある$\delta >0$が存在して,任意の$x\in A$に対して,$0<|x-a|<\delta$ならば$f(x)<f(a)$が成り立つとき,$f(a)$を$f(x)$の$x=a$における狭義極大値(strict local maximum)といい,$a$を$f$の狭義極大点(strict local maximum point)という.
- ある$\delta >0$が存在して,任意の$x\in A$に対して,$0<|x-a|<\delta$ならば$f(x)>f(a)$が成り立つとき,$f(a)$を$f(x)$の$x=a$における狭義極小値(strict local minimum)といい,$a$を$f$の狭義極小点(strict local minimum point)という.
- 極大値と極小値を合わせて狭義極値(strict extremum)という.
極値の必要条件
$\mathbb{R}$の有界閉区間上の連続実関数は最大値と最小値を持つ.
微分可能な関数については,極値をとる場所を絞り込むことができる.
$I\subset \mathbb{R}$を開区間,$a\in I$,$f:I\to \mathbb{R}$を$x=a$で微分可能である関数とする.
$f(a)$が$f(x)$の$x=a$における極値ならば,$f^{\prime}(a)=0$である.
$f(a)$が$f(x)$の$x=a$における極大値であるとき,ある$\delta >0$が存在して,任意の$x\in A$に対して,$0<|x-a|<\delta$ならば$f(x)\le f(a)$が成り立つ.
$x>a$のとき
\[ \frac{f(x)-f(a)}{x-a}\le 0\]
であるから,$f$の微分可能性より
\[ f^{\prime}(a)=\lim _{x\to a+0}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}\le \lim _{x\to a+0}0=0\]
が成り立つ.
また,$x<a$のとき
\[ \frac{f(x)-f(a)}{x-a}\ge 0\]
であるから,$f$の微分可能性より
\[ f^{\prime}(a)=\lim _{x\to a-0}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}\ge \lim _{x\to a-0}0=0\]
が成り立つ.
以上より,$0\le f^{\prime}(a)\le 0$となるから,$f^{\prime}(a)=0$である.
$f(a)$が$f(x)$の$x=a$における極小値であるとき,ある$\delta >0$が存在して,任意の$x\in A$に対して,$0<|x-a|<\delta$ならば$f(x)\ge f(a)$が成り立つ.
$x>a$のとき
\[ \frac{f(x)-f(a)}{x-a}\ge 0\]
であるから,$f$の微分可能性より
\[ f^{\prime}(a)=\lim _{x\to a+0}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}\ge \lim _{x\to a+0}0=0\]
が成り立つ.
また,$x<a$のとき
\[ \frac{f(x)-f(a)}{x-a}\le 0\]
であるから,$f$の微分可能性より
\[ f^{\prime}(a)=\lim _{x\to a-0}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}\le \lim _{x\to a-0}0=0\]
が成り立つ.
以上より,$0\le f^{\prime}(a)\le 0$となるから,$f^{\prime}(a)=0$である.
したがって,題意は示された.$\blacksquare$
定理1の逆は成り立たない.
関数$f:\mathbb{R}\to \mathbb{R}$を
\[ f(x)=x^3\quad (x\in \mathbb{R})\]
により定めるとき,$f^{\prime}(x)=3x^2$であるから,$f^{\prime}(0)=0$
任意の$\delta >0$に対して,$0<\left| -\dfrac{\delta}{2}-0\right| <\delta$かつ$f\left( -\dfrac{\delta}{2}\right) =-\dfrac{\delta ^3}{8}<0=f(0)$が成り立つから,$f(0)$は$f(x)$の$x=0$における極大値でない.
また,任意の$\delta >0$に対して,$0<\left| \dfrac{\delta}{2}-0\right| <\delta$かつ$f\left( \dfrac{\delta}{2}\right) =\dfrac{\delta ^3}{8}>0=f(0)$が成り立つから,$f(0)$は$f(x)$の$x=0$における極小値でない.
以上より,$f(0)$は$f(x)$の$x=0$における極値でない.