最大値とは,実数の部分集合の元の中で,最も大きい元のことです.
最小値とは,実数の部分集合の元の中で,最も小さい元のことです.
最大値・最小値の定義
最大値・最小値の厳密な定義は次のようになります.
最大値と最小値を合わせてextremumというが,これに相応しい日本語訳は(筆者の知る限り)存在しない(「極値」という意味で用いられることもある).
最大値・最小値を一般化した概念は,順序集合の最大元・最小元にあたる.これについては集合論の記事に譲ることにし,ここでは解析学の立場から$\mathbb{R}$上の最大値・最小値を考えるものとする.
さて,上の定義を論理式を用いて表してみよう.空でない$A\subset \mathbb{R}$に対し,$A$の最大値$\max A$と最小値$\min A$は,それぞれ次の条件を満たす.
\[ \forall x\in A,x\le \max A\]
\[ \forall x\in A,\min A\le x\]
ここで,当たり前かもしれないが,$x\le \max A$や$\min A\le x$といった不等式について,等号が成り立つのは,それぞれ$x$が$A$の最大値,最小値となるときである.
最大値・最小値の例(区間)
具体的な$\mathbb{R}$の空でない部分集合を通して,最大値・最小値を確認しよう.
以下,$\mathbb{R}$の区間の最大値・最小値を考えることにする.区間についての詳細は次の記事を参照するとよい.
まず,$A=[-1,2]=\{ x\mid -1\le x\le 2\}$とおく.$A$の最大値は$2$である.実際,$2\in A$であり,任意の$x\in A$に対し$x\le 2$である.また,$A$の最小値は$-1$である.実際,$-1\in A$であり,任意の$x\in A$に対し,$-1\le x$である.
次に,$B=(-1,2]=\{ x\mid -1<x\le 2\}$とおく.$B$の最大値は$2$である.実際,$2\in B$であり,任意の$x\in B$に対し$x\le 2$である.
一方,$B$の最小値は何だろうか.ここで注意が必要なのは,$B$の最小値は$-1$ではないということである.最小値の定義から,$B$に最小値が存在するならば,それは$B$の元でなくてはならない.しかし,$-1\not\in B$である.よって,$-1$は$B$の最小値になり得ない.
では,改めて$B$の最小値は何だろうか.実は,$B$に最小値は存在しない.最大値・最小値が必ず存在するとはどこにも書かれていないため,当然存在しない場合もある.さて,$B$に最小値が存在しないことを証明するには,最小値の定義を否定した「任意の$x\in B$に対し,ある$y\in B$が存在し,$y<x$となる」という命題が成り立つことを示せばよいことになる.
証明してみよう.任意の$x\in B$に対し,$y=\dfrac{x-1}{2}$とおくと,$-1<x\le 2$より$-1<\dfrac{x-1}{2}<\dfrac{1}{2}$であるから$y\in B$であり,$x-y=x-\dfrac{x-1}{2}=\dfrac{x+1}{2}>\dfrac{-1+1}{2}=0$より$y<x$であるから,$B$には最小値が存在しない.
さらに,$C=[-1,2)=\{ x\mid -1\le x<2\}$とおく.$C$の最小値は$-1$である.実際,$-1\in C$であり,任意の$x\in C$に対し$-1\le x$である.
また,$C$に最大値は存在しない.
$C$に最大値が存在しないことを,$B$に最小値が存在しないことの証明と同様に,自分の手で証明してみるとよい.
- 任意の$x\in C$に対し,$-1\le x<2$
- $x$に$2-x$を加えると$2$となり$C$の元でなくなる.よって,$x$に例えば$\dfrac{2-x}{2}$を加えると$x$より大きく,$2$より小さくなり,$C$の元のままになりそう.
- このとき,$y=x+\dfrac{2-x}{2}=\dfrac{x+2}{2}$とすればよい.
上のような考え方で$y$を見つけるとよい.あとは先程と同様に証明するだけ.
- 任意の$x\in C$に対し,$y=\dfrac{x+2}{2}$とおく.
- $-1\le x<2$より$\dfrac{1}{2}\le x<2$であるから$y\in C$
- $y-x=\dfrac{x+2}{2}-x=\dfrac{2-x}{2}>\dfrac{2-2}{2}=0$より$x<y$
- 以上より,$C$には最大値が存在しない.
そして,$D=(-1,2)=\{ x\mid -1<x<2\}$とおくと,先の議論と同様にして,$D$には最大値も最小値も存在しないことが分かる.
また,次のような集合の場合も,同様に最大値や最小値の存在性を確認することができる.
$E=(-\infty ,2]=\{ x\mid x\le 2\}$の最大値は$2$,最小値は存在しない.
$F=(-\infty ,2)=\{ x\mid x<2\}$の最大値及び最小値は存在しない.
$G=[-1,\infty )=\{ x\mid x\ge -1\}$の最小値は$-1$,最大値は存在しない.
$H=(-1,\infty )=\{ x\mid x>-1\}$の最大値及び最小値は存在しない.
最大値・最小値の例(関数)
次に,関数の最大値・最小値について考えてみよう.
関数については,次の記事を参照するとよい.
さて,$\mathbb{R}$の空でない部分集合$I$に対し,関数$f:I\to \mathbb{R}$が定められているとする.$f$の終域は$\mathbb{R}$であるから,このとき$f$の値域,すなわち$I$の$f$による像$f(I)$は$\mathbb{R}$の部分集合である.
よって,最大値・最小値の定義より,関数$f$の最大値・最小値が存在するならば,その値は$f(I)$の最大値・最小値にに対応する.
関数の最大値・最小値を具体的に求める方法は別記事に任せるが,最大値・最小値の存在性については,定義より論証することができるのである.
最大値・最小値のイメージと意義
$\mathbb{R}$の空でない部分集合であって,最大値と最小値が存在するようなものを$I$とすると,数直線を用いることで,$I$は次のように図示できる.
もちろん,$I$は$\{ x\in \mathbb{R}\mid -2\le x\le 3\}$のように一つの繋がった範囲を表していることもあれば,$\{ x\in \mathbb{R}\mid -2\le x\le -1\lor 2\le x\le 3\}$のように複数の「飛び地」がある範囲を表していることもある.
そして,実数上の最大値・最小値を考えることにより,集合の元の範囲を,実数の大小関係を用いて的確に表すことができるようになる.
特に,最大値・最小値は実社会に活用できる機会が多い.メリットを大きく,デメリットを小さくしたいと思うのは自然な考えであるが,いくらでも大きく,いくらでも小さくできるわけではない.つまり,限度がある.大きくできる限界値が最大値,小さくできる限界値が最小値に対応するため,1つの指標として重要なのである.
関連内容
最大値・最小値の一意性
最大値・最小値が複数存在することはない.当たり前に感じるかもしれないが,数学において,このような一意性は非常に重要である.ここでは,その厳密な証明を与えることとする.
- $M,M’$を$A$の最大値とする.
$M$は$A$の最大値であるから,定義より$M’\le M$
$M’$は$A$の最大値であるから,定義より$M\le M’$
よって$M=M’\blacksquare$ - $m,m’$を$A$の最小値とする.
$m$は$A$の最小値であるから,定義より$m\le m’$
$m’$は$A$の最小値であるから,定義より$m’\le m$
よって$m=m’\blacksquare$
2元集合の最大値・最小値
$2$つの実数$a,b$が与えられたとき,大きいほうの実数や,小さいほうの実数を表すにはどうすればよいだろうか.もちろん,具体的な$2$つの実数が与えられた場合は簡単である.しかし,文字で与えられた場合,そうはいかない.そこで,様々な表し方を検討していこう.
まず,場合分けをして表す方法がある.
$a$と$b$のうち,大きいほうの実数は
$a<b$のとき$b$,$a=b$のとき存在しない,$a>b$のとき$a$
$a$と$b$のうち,小さいほうの実数は
$a<b$のとき$a$,$a=b$のとき存在しない,$a>b$のとき$b$
ここで,$a=b$のとき,大きいほうの実数や小さいほうの実数は存在しないということである.これは,$a$と$b$が等しいために,大きいほうも小さいほうもないということである.
次に,$\max$関数や$\min$関数を用いて表す方法がある.
$A=\{ a,b\}$とする.このとき,$a$と$b$のうち小さくないほうの元は$\max A$であり,大きくないほうの元は$\min A$である.
ここで注意が必要なのは,$\max A$が小さくないほうの元を表し,$\min A$が大きくないほうの元を表すということである.この意味は,先程の場合分けを用いた表し方を考えると分かりやすい.
$2$つの実数$a$と$b$が与えられたとき,$a<b$または$a=b$または$a>b$のいずれか一つが成り立つ.そして,$\max$関数や$\min$関数は次のような値をとる.
\[ \max A\coloneqq \begin{cases}b&(a<b)\\ a(=b)&(a=b)\\ a&(a>b)\end{cases}\]
\[ \min A\coloneqq \begin{cases}a&(a<b)\\ a(=b)&(a=b)\\ b&(a>b)\end{cases}\]
すると,場合分けの表現では,$a=b$のときに大きいほうの実数や小さいほうの実数が存在しなかったのに対し,$\max$関数や$\min$関数を用いた表現では,$a=b$のときの値が定義されている.$a=b$のとき,$a$と$b$の間に大きいほうも小さいほうもないことから,これを日本語で表現すると,$\max$関数は小さくないほうを表し,$\min$関数は大きくないほうを表していると言えるのである.
さて,上で紹介した2つの表し方は,場合分けを用いたり関数を用いたりしているため,「簡潔に具体的に表すこと」はできていない.実は,次の命題が成り立つ.
$a\le b$のとき,$a-b\le 0$であるから,$|a-b|=-(a-b)=-a+b$
また$\max \{ a,b\} =b,\min \{ a,b\} =a$
このとき
\[ \frac{a+b+|a-b|}{2}=\frac{a+b-a+b}{2}=\frac{2b}{2}=b\]
\[ \frac{a+b-|a-b|}{2}=\frac{a+b+a-b}{2}=\frac{2a}{2}=a\]
よって
\[ \max \{ a,b\} =\frac{a+b+|a-b|}{2}\]
\[ \min \{ a,b\} =\frac{a+b-|a-b|}{2}\]
同様に,$a\ge b$のときも
\[ \max \{ a,b\} =\frac{a+b+|a-b|}{2}\]
\[ \min \{ a,b\} =\frac{a+b-|a-b|}{2}\]
$a\ge b$のときの場合に命題が成り立つことを,$a\le b$の場合の証明と同様に,自分の手で証明してみるとよい.
$a\ge b$のとき,$a-b\ge 0$であるから,$|a-b|=a-b$
また$\max \{ a,b\} =a,\min \{ a,b\} =b$
このとき
\[ \frac{a+b+|a-b|}{2}=\frac{a+b+a-b}{2}=\frac{2a}{2}=a\]
\[ \frac{a+b-|a-b|}{2}=\frac{a+b-a+b}{2}=\frac{2b}{2}=b\]
よって
\[ \max \{ a,b\} =\frac{a+b+|a-b|}{2}\]
\[ \min \{ a,b\} =\frac{a+b-|a-b|}{2}\]
したがって,示された.$\blacksquare$
上の命題が成り立つことは,次の図を用いることで直感的に理解できる.
例えば,$a<b$の場合を考えよう.まず,$a$と$b$の「真ん中」に当たる数は$a$と$b$の(相加)平均である$\dfrac{a+b}{2}$である.そして,$a$と$b$の「距離」は$a$と$b$の差の絶対値$|a-b|$である.特に,$\dfrac{a+b}{2}$から$a$(または$b$)までの「距離」は$\dfrac{|a-b|}{2}$である.よって,$\dfrac{a+b}{2}$に$\dfrac{|a-b|}{2}$を加えると大きいほうの数$b$になり,$\dfrac{|a-b|}{2}$を減じると小さいほうの数$a$になるのである.
最大値・最小値に似た概念
最大値・最小値に似た概念として,次のようなものがある.最大値・最小値との違いを認識する必要がある.
それぞれ記事を公開しているため,合わせて参照するとよい.
また,関数の極大値・極小値については,次の記事を参照するとよい.
参考文献
この記事を含め,「微分積分学」のカテゴリーに属する記事は,以下の書籍・PDFファイル・Webサイトを参考文献としています(それぞれの記事について,以下に掲載していない参考文献がある場合は,逐一掲載しています).
書籍
- 杉浦光夫, 『解析入門I』, 基礎数学2, 東京大学出版会, 1980年.
- 杉浦光夫, 『解析入門II』, 基礎数学3, 東京大学出版会, 1985年.
- 杉浦光夫, 清水英男, 金子晃, 岡本和夫, 『解析演習』, 基礎数学7, 東京大学出版会, 1989年.
- 高木貞治, 『定本 解析概論』, 岩波書店, 2010年.
- 松坂和夫, 『解析入門 上』, 松坂和夫 数学入門シリーズ, 新装版, 岩波書店, 2018年.
- 松坂和夫, 『解析入門 中』, 松坂和夫 数学入門シリーズ, 新装版, 岩波書店, 2018年.
- 松坂和夫, 『解析入門 下』, 松坂和夫 数学入門シリーズ, 新装版, 岩波書店, 2018年.
- 藤岡敦, 『手を動かしてまなぶ ε-δ論法』, 裳華房, 2021年.
- 藤岡敦, 『手を動かしてまなぶ 微分積分』, 裳華房, 2019年.
- 志賀浩二, 『微分・積分30講』, 数学30講シリーズ1, 朝倉書店, 1988年.
- 齋藤正彦, 『齋藤正彦 微分積分学』, 東京図書, 2006年.
- 加藤文元, 『大学教養 微分積分』, 数研講座シリーズ, 数研出版, 2019年.
- 『大学教養 微分積分』, 加藤文元(監修), 数研出版編集部(編著), チャート式シリーズ, 数研出版, 2019年.
- 小寺平治, 『明解演習 微分積分』, 明解演習シリーズ2, 共立出版, 1984年.
補足
10は2024年9月20日に新装改版が発売される予定です.
志賀浩二, 『微分・積分30講』, 数学30講シリーズ1, 新装改版, 朝倉書店, 2024年.
PDFファイル
- 石本健太, 「講義ノート『微分積分学』」, 2020年, https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~ishimoto/files/note_calculus.pdf.
- 黒田紘敏, 「微分積分学入門」, 2024年, https://www7b.biglobe.ne.jp/~h-kuroda/pdf/text_calculus.pdf.
- 吉田伸生, 「微分積分学」, 2007年, https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/04/2010_bibunsekibungakuA.pdf.
- 西谷達雄, 「解析学」, http://www4.math.sci.osaka-u.ac.jp/~nishitani/calculus.pdf.
- 松澤寛, 「解析学の基礎(実数の連続性から定積分の存在まで)」, https://www.sci.kanagawa-u.ac.jp/math-phys/hmatsu/BasicAnalysis.pdf.
- 川端茂徳, 「解析学入門」, 2002年, https://www.fit.ac.jp/elec/7_online/calculus.pdf.
- 中西敏浩, 「およそ100ページで学ぶ微分積分学」, 2021年, https://www.math.shimane-u.ac.jp/~tosihiro/basiccalculus.pdf.
Webサイト
- Mathpedia, https://math.jp(旧版:https://old.math.jp).
- 数学の景色, https://mathlandscape.com.
- 高校数学の美しい物語, https://manabitimes.jp/math.
- KIT数学ナビゲーション, https://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math.
- Wikipedia, https://ja.wikipedia.org(英語版:https://en.wikipedia.org).
- Wolfram MathWorld, https://mathworld.wolfram.com.
- Mathlog, https://mathlog.info.
- “topics on calculus”, PlanetMath, https://planetmath.org/TopicsOnCalculus.