難易度はABCDの4段階です.筆者の主観により難易度を決定していますが,主な基準としては次のようになっています.
難易度 | 主な基準 | 目安 |
A | 教科書や標準的な参考書・問題集に掲載されている知識を使って解くことのできる問題 | 教科書・定期試験・共通テスト序盤レベル |
B | 標準的な参考書・問題集に掲載されている,一度解いたことがあれば解くことのできる典型問題とその応用問題 | 共通テスト終盤・標準私立大学・標準国公立大学レベル |
C | 少しの工夫で典型問題に帰着したり,誘導問題を適切に利用することで解くことができる問題 | 難関国公立大学・難関私立大学・医学部レベル |
D | 初見では解法が思いつきにくく,多少の発想力が求められる問題 | 東京一工・早慶・難関医大レベル |
すべての問題は以下の18の高校数学の分野・単元でカテゴライズしています(理系数学の内容には下線を付しています).
集合 | 集合と命題(数学I) |
整数 | 整数(数学A) |
実数 | 実数(数学I) |
複素数 | 複素数(数学II),複素数平面(数学C) |
方程式 | 2次方程式(数学I),高次方程式(数学II) |
恒等式・不等式 | 整式,1次不等式,2次不等式(数学I),恒等式,不等式(数学II) |
図形と計量 | 三角比(数学I),初等幾何(数学A) |
ベクトル | ベクトル(数学C) |
図形と方程式 | 座標幾何,軌跡,領域(数学II) |
2次関数 | 2次関数(数学I) |
三角関数 | 三角関数(数学II) |
指数対数 | 指数関数,対数関数(数学II) |
その他の関数 | 分数関数,無理関数,関数の極限(数学III),2次曲線,媒介変数表示,極方程式(数学C) |
数列 | 数列(数学B),数列の極限(数学III) |
微分 | 微分(数学II),微分(数学III) |
積分 | 積分(数学II),積分(数学III) |
場合の数・確率 | 場合の数,確率(数学A) |
統計 | 統計(数学I),確率分布(数学B) |
この記事の最後に,本問の背景知識を掲載しています.背景知識は理系数学の内容を含んでいますので,ご注意ください.
数列$\{ a_n\}$を次のように定める.
\[ a_1=1, a_{n+1}=\sqrt{a_n+1}\qquad (n=1,2,3,\dots \dots )\]
任意の$2$以上の整数$k$に対して,$a_k$は無理数であることを示せ.
(自作問題)
この問題は筆者による自作問題のつもりですが,既に他の方が作問していたり,有名なものだったりするかもしれません.万一そのような情報をご存じの場合は,お手数をおかけしますがお問い合わせフォームよりご連絡いただけると幸いです.
漸化式が与えられた任意の正の整数に対する証明は数学的帰納法,無理数の証明は背理法で示すのが鉄則.有理数と仮定して文字でおいて矛盾を導こう.
$k$に関する数学的帰納法で示したい.
まず,$k=2$の場合.
\[ a_2=\sqrt{a_1+1}=\sqrt{1+1}=\sqrt{2}\]
であるから,$a_2=\sqrt{2}$が無理数であることを示せばよい.これは典型問題である.様々な証明方法があるが,ここでは最もオーソドックスな方法で証明することにしよう.
背理法で示す.$\sqrt{2}$が有理数であると仮定すると,$p,q$を互いに素な整数として
\[ \sqrt{2}=\frac{p}{q}\]
と表される.ただし,$q\neq 0$である.両辺を$2$乗すると
\[ 2=\frac{p^2}{q^2}\]
両辺に$q^2$を掛けると
\[ 2q^2=p^2\]
ここで,左辺は偶数であるから,右辺も偶数である.よって,$p^2$は偶数であるから,$p$も偶数である.ゆえに$k$を整数とすると$p=2k$と表される.これを上式に代入すると
\[ 2q^2=(2k)^2\]
計算すると
\[ 2q^2=4k^2\]
両辺を$2$で割ると
\[ q^2=2k^2\]
ここで,右辺は偶数であるから,左辺も偶数である.よって,$q^2$は偶数であるから,$q$も偶数である.ゆえに,$p$も$q$も偶数である.これは$p$と$q$が互いに素であることに矛盾する.したがって,$\sqrt{2}$は無理数である.
$\sqrt{2}$が無理数であることの証明の途中で「$n^2$が偶数ならば$n$も偶数である」という命題を2回使った.これの証明も念の為しておこう.これも様々な証明があるが,最もオーソドックスな方法で証明することにしよう.
対偶を示す.すなわち,「$n$が奇数ならば$n^2$も奇数である」ことを示す.$m$を整数とすると,$n=2m+1$と表される.このとき
\[ n^2=(2m+1)^2=4m^2+4m+1=2(2m^2+2m)+1\]
であり,$2m^2+2m$は整数であるから,$n^2$は奇数である.よって,示された.
さて,ここまでで数学的帰納法の前半は証明できた.次に,$k=l$のとき$a_l$が無理数であると仮定すると,$a_{l+1}$も無理数であることを示そう.
先程と同様に背理法での証明を考えてみよう.$a_{l+1}$が有理数であることを仮定して証明することになるが,$a_l$が無理数であるという前提はそのままである.無理数を数式で扱うことは難しいため,$a_l$が無理数であることを数式に落とし込み,矛盾を導くことは難しい.
そこで,背理法をやめ,対偶法で示そう.すなわち,「$a_{l+1}$が有理数ならば$a_l$も有理数である」ことを示そう.こうすれば,無理数はすべて有理数に変換され,数式で扱いやすくなる.
$a_{l+1}$は有理数であるから,互いに素な整数$a,b$を用いて
\[ a_{l+1}=\frac{a}{b}\]
と表される.ただし,$b\neq 0$である.与えられた漸化式より
\[ \frac{a}{b}=\sqrt{a_l+1}\]
両辺を$2$乗すると
\[ \frac{a^2}{b^2}=a_l+1\]
よって
\[ a_l=\frac{a^2-b^2}{b^2}\]
であるから,$a_l$は有理数である.したがって,$a_l$が無理数ならば$a_{l+1}$も無理数である.
以上から,数学的帰納法より,任意の$2$以上の整数$k$に対して,$a_k$は無理数であることが示されたことになる.
$k$に関する数学的帰納法で示す.
$k=2$のとき,$a_2=\sqrt{2}$より$\sqrt{2}$が無理数であることを示せばよい.これを背理法で示す.$\sqrt{2}$が有理数であると仮定すると,互いに素な整数$p,q$を用いて
\[ \sqrt{2}=\frac{p}{q}\]
と表される.ただし,$q\neq 0$である.これを変形すると
\[ 2q^2=p^2\]
となる.左辺は偶数であるから,右辺も偶数であり,特に$p$は偶数である.よって,整数$k$を用いて$p=2k$と表されるから,これを代入して
\[ 2q^2=(2k)^2\]
すなわち
\[ q^2=2k^2\]
を得る.右辺は偶数であるから,左辺も偶数であり,特に$q$は偶数である.よって$p,q$はともに偶数であるが,これは$p$と$q$が互いに素であることに矛盾する.したがって,$\sqrt{2}$は無理数である.
$k=l$のとき題意が成り立つと仮定すると,$k=l+1$のときも成り立つことを示す.すなわち,$a_l$が無理数ならば$a_{l+1}$も無理数であることを示せばよい.
対偶を示す.すなわち,$a_{l+1}$が有理数ならば$a_l$も有理数であることを示す.このとき,互いに素な整数$a,b$を用いて
\[ a_{l+1}=\frac{a}{b}\]
と表される.ただし,$b\neq 0$である.与えられた漸化式より
\[ \frac{a}{b}=\sqrt{a_l+1}\]
これを変形すると
\[ a_l=\frac{a^2-b^2}{b^2}\]
であるから,$a_l$は有理数である.したがって,$a_l$が無理数ならば$a_{l+1}$も無理数である.
以上より,任意の$2$以上の整数$k$に対して$a_k$は無理数である.
本問の数列$\{ a_n\}$は黄金数$\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$に収束することが知られている.高校数学の範囲を逸脱するが,次のように証明することができる.
まず,$\{ a_n\}$は有界であることを示す.具体的には,任意の正の整数$n$に対して,$0<a_n<\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$であることを$n$に関する数学的帰納法で示す.
$a_n>0$は明らかに成り立つ.
$n=1$のとき$a_1=1<\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$であるから成り立つ.
$n=k$のとき$a_k<\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$が成り立つと仮定すると,$n=k+1$のとき
\[ a_{k+1}=\sqrt{a_k+1}<\sqrt{\frac{1+\sqrt{5}}{2}+1}=\sqrt{\frac{6+2\sqrt{5}}{4}}=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}\]
より$n=k+1$のときも成り立つ.
以上より,示された.
次に,$\{ a_n\}$は狭義単調増加,すなわち任意の正の整数$n$に対して$a_n<a_{n+1}$であることを示す.任意の正の整数$n$に対して,$0<a_n<\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$であるから
\[ a_{n+1}^2-a_n^2=a_n+1-a_n^2=-\left( a_n-\frac{1}{2}\right) ^2+\frac{5}{4}>-\left( \frac{1+\sqrt{5}}{2}-\frac{1}{2}\right) ^2+\frac{5}{4}=0\]
よって$a_n^2<a_{n+1}^2$であり,$a_n>0,a_{n+1}>0$であるから$a_n<a_{n+1}$
したがって,$\{ a_n\}$は上に有界な単調増加数列であるから,ある実数$\alpha$に収束する.よって
\[ \alpha =\lim _{n\to \infty}a_n=\lim _{n\to \infty}((\sqrt{a_n+1})^2-1)=\lim _{n\to \infty}(a_{n+1}^2-1)=(\lim _{n\to \infty}a_{n+1})^2-1=\alpha ^2-1\]
であるから
\[ \alpha =\alpha ^2-1\]
この$2$次方程式を解くと
\[ \alpha =\frac{1\pm \sqrt{5}}{2}\]
任意の正の整数$n$に対して,$a_n\geqq 0$であるから,$\alpha \geqq 0$より$\alpha =\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$
以上の議論により,以下の等式が形式的に導かれたことになる.
\[ \sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\dots }}}=\frac{1+\sqrt{5}}{2}\]