共通部分とは,すべての集合に属する元全体の集合,和集合とは,いずれかの集合に属する元全体の集合のことである.
2つの集合の共通部分・和集合の定義(素朴集合論)
積集合や積という用語は,直積の意味で用いられることが多い.
当サイトでは,特に断りのない限り,$A\cup B$を$A$と$B$の共通部分,$A\times B$を$A$と$B$の直積と表現することとし,「積集合」や「積」という表現をなるべく用いないようにしている.
公理的集合論による共通部分と和集合の詳しい定義は後述することにし,ここでは共通部分と和集合の定義を,論理式を用いて表してみよう.
公理的集合論におけるもう少し厳密な定義は後述する.
共通部分・和集合の性質
ここでは,集合の共通部分と和集合に関する性質を述べることにする.
- \[ A\cap A=\{ x\mid x\in A\land x\in A\} =\{ x\mid x\in A\} =A\blacksquare\]
- \[ A\cup A=\{ x\mid x\in A\lor x\in A\} =\{ x\mid x\in A\} =A\blacksquare\]
- \[ \begin{aligned}(A\cap B)\cap C&=\{ x\mid x\in A\cap B\land x\in C\} \\ &=\{ x\mid (x\in A\land x\in B)\land x\in C\} \\ &=\{ x\mid x\in A\land (x\in B\land x\in C)\} \\ &=\{ x\mid x\in A\land x\in B\cap C\} \\ &=A\cap (B\cap C)\blacksquare \end{aligned}\]
- \[ \begin{aligned}(A\cup B)\cup C&=\{ x\mid x\in A\cup B\lor x\in C\} \\ &=\{ x\mid (x\in A\lor x\in B)\lor x\in C\} \\ &=\{ x\mid x\in A\lor (x\in B\lor x\in C)\} \\ &=\{ x\mid x\in A\lor x\in B\cup C\} \\ &=A\cup (B\cup C)\blacksquare \end{aligned}\]
命題2により,$(A\cap B)\cap C$や$A\cap (B\cap C)$を$A\cap B\cap C$で表すことができる.同様に,$(A\cup B)\cup C$や$A\cup (B\cup C)$を$A\cup B\cup C$で表すことができる.これが,結合律の威力なのである.
- \[ \begin{aligned}A\cap B&=\{ x\mid x\in A\land x\in B\} \\&=\{ x\mid x\in B\land x\in A\} \\&=x\in B\cap A\blacksquare \end{aligned}\]
- \[ \begin{aligned}A\cup B&=\{ x\mid x\in A\lor x\in B\} \\&=\{ x\mid x\in B\lor x\in A\} \\&=x\in B\cup A\blacksquare \end{aligned}\]
③,④は交換律により①,②から得られるため,①,②を示せば十分である.
- $x\in A\cap (B\cup C)$ならば,$x\in A$かつ$x\in B\cup C$
$x\in B\cup C$より,$x\in B$または$x\in C$である.
$x\in B$のとき,$x\in A$より$x\in A\cap B$
$x\in C$のとき,$x\in A$より$x\in A\cap C$
以上より,$x\in (A\cap B)\cup (A\cap C)$であるから,$A\cap (B\cup C)\subset (A\cap B)\cup (A\cap C)$
$x\in (A\cap B)\cup (A\cap C)$ならば,$x\in A\cap B$または$x\in A\cap C$
$x\in A\cap B$のとき,$x\in A$かつ$x\in B$
$x\in A\cap C$のとき,$x\in A$かつ$x\in C$
以上より,いずれの場合も$x\in A$であるから,$x\in A\cap (B\cup C)$
よって,$(A\cap B)\cup (A\cap C)\subset A\cap (B\cup C)$
したがって,$A\cap (B\cup C)=(A\cap B)\cup (A\cap C)\blacksquare$ - $x\in A\cup (B\cap C)$ならば,$x\in A$または$x\in B\cap C$
$x\in A$のとき,$x\in A\cup B$かつ$x\in A\cup C$であるから,$x\in (A\cup B)\cap (A\cup C)$
$x\in B\cap C$のとき,$x\in B$かつ$x\in C$である.よって,$x\in A\cup B$かつ$x\in A\cup C$であるから,$x\in (A\cup B)\cap (A\cup C)$
以上より,いずれの場合も$x\in (A\cup B)\cap (A\cup C)$であるから,$A\cup (B\cap C)\subset (A\cup B)\cap (A\cup C)$
$x\in (A\cup B)\cap (A\cup C)$ならば,$x\in A\cup B$かつ$x\in A\cup C$
$x\in A\cup B$より,$x\in A$または$x\in B$である.
$x\in A$のとき,$x\in A\cup (B\cap C)$である.
$x\in B$のとき,$x\in A\cup C$より,$x\in A$または$x\in C$である.
まず,$x\in A$のとき,$x\in A\cup (B\cap C)$である.
また,$x\in C$のとき,$x\in B\cap C$であるから,$x\in A\cup (B\cap C)$である.
以上より,いずれの場合も$x\in A\cup (B\cap C)$であるから,$(A\cup B)\cap (A\cup C)\subset A\cup (B\cap C)$
したがって,$A\cup (B\cap C)=(A\cup B)\cap (A\cup C)\blacksquare$
①は命題4の①で,$B$を$A$に,$C$を$B$にすれば直ちに従う.
②は命題4の②で,$B$を$A$に,$C$を$B$にすれば直ちに従う.$\blacksquare$
- $x\in A\cap B$ならば,$x\in A$かつ$x\in B$であるから,$x\in A$
よって,$A\cap B\subset A\blacksquare$ - $x\in A\cap C$ならば,$x\in A$かつ$x\in C$であり,$A\subset B$より$x\in A$ならば$x\in B$であるから,$x\in B$かつ$x\in C$,すなわち$x\in B\cap C$
よって,$A\cap C\subset B\cap C\blacksquare$ - $x\in A$ならば,$A\subset B$より$x\in B$である.また,$A\subset C$より$x\in C$である.
よって,$x\in B\cap C$であるから,$A\subset B\cap C\blacksquare$ - $x\in A$ならば,$x\in A$または$x\in B$であるから,$x\in A\cup B$
よって,$A\subset A\cup B\blacksquare$ - $x\in A\cup C$ならば,$x\in A$または$x\in C$であり,$A\subset B$より$x\in A$ならば$x\in B$であるから,$x\in B$または$x\in C$,すなわち$x\in B\cup C$
よって,$A\cup C\subset B\cup C\blacksquare$ - $x\in A\cup B$ならば,$x\in A$または$x\in B$
$x\in A$のとき,$A\subset C$より$x\in C$
$x\in B$のとき,$B\subset C$より$x\in C$
よって,いずれの場合も$x\in C$であるから,$A\cup B\subset C\blacksquare$
複数の集合の共通部分・和集合の定義(素朴集合論)
定義1や定義2は2つの集合における共通部分と和集合の定義であった.命題2により,3つ以上の集合の共通部部と和集合を次のように定義することができる.
論理式で表すと次のようになる.
共通部分・和集合のイメージ
複数の集合が与えられたとき,その共通部分と和集合はベン図によって視覚化できる.
共通部分のイメージ
$A$と$B$の共通部分$A\cap B$は,図1の灰色部分に相当する.$A$の元でもあり,$B$の元でもあることは,2つの集合を表す円の内部の領域が重なっている領域に対応することから,視覚的に理解することができるだろう.
和集合のイメージ
$A$と$B$の和集合$A\cup B$は,図2の灰色部分に相当する.$A$または$B$の少なくとも一方の元であることは,2つの集合を表す円の内部の領域を合わせた領域に対応することから,視覚的に理解することができるだろう.
3つ以上の集合の共通部分・和集合のイメージ
$A,B,C$の共通部分をベン図を用いて可視化すると,次のようになる.
それぞれの集合を表す円の内部の領域がすべて重なる領域(灰色部分)が$A\cap B\cap C$に対応する.
また,$A,B,C$の和集合をベン図を用いて可視化すると,次のようになる.
それぞれの集合を表す円の内部の領域を合わせた領域(灰色部分)が$A\cup B\cup C$に対応する.
一方で,集合の数が4つ以上になると,ベン図を描くためには,それぞれの集合を円の内部の領域で表すことはできない.
ちなみに,4つの集合のベン図は次のようになる.
また,5つの集合のベン図は次のようになる.
共通部分・和集合を考える意義
複数の集合を与えられたとき,その元について考察するのは自然なことである.2つの集合$A,B$が与えられているのであれば,ベン図からも明らかなように,$A$と$B$の両方に属する元,$A$に属し$B$に属さない元,$B$に属し$A$に属さない元,$A$にも$B$にも属さない元の4種類のパターンが考えられる.共通部分は「$A$と$B$の両方に属する元」全体の集合に対応しているが,他のパターンに関しても,差集合や補集合を用いることによって表すことができる.
また,共通部分と和集合は命題論理と対応させることでその威力を発揮する.高校数学の数学Iでは,命題$p,q$に対して真理集合$P,Q$を考えることにより,「$p$かつ$q$」という命題の真理集合が$P\cap Q$に,「$p$または$q$」という命題の真理集合が$P\cup Q$に対応した.論理記号においても,「かつ」を意味する$\land$と「または」を意味する$\lor$は,共通部分の記号$\cap$と和集合の記号$\cup$に酷似している.すなわち,共通部分と和集合を考えることにより,論理を集合に置き換えて議論することが可能になるのだ.
共通部分・和集合の例
上の例をベン図を用いて可視化してみよう.
例6.1で与えられた集合を$A,B$とすると,ベン図は次のようになる.
図7を見ると,共通部分や和集合を比較的容易に理解することができるだろう.
これは3つの集合でも同様である.例6.3で与えられた集合を$A,B,C$とすると,ベン図は次のようになる.
図8を見ると,$A\cap B\cap C$や$A\cup B\cup C$だけでなく,$A\cap B$や$B\cup C$なども比較的容易に理解できるだろう.
共通部分・和集合の定義(公理的集合論)
ここでは,公理的集合論の観点から,共通部分と和集合を定義することにする.
和集合については,和集合公理(axiom of union)によって,その存在が保証されている.
素朴集合論の定義とは少し考え方が異なるため,補足しておこう.和集合公理を論理記号を用いずに書くと,次のようになる.
任意の$x$に対し,ある$y$が存在し,任意の$z$に対し,$z$が$y$の元であることと,(ある$w$が存在し,$z$が$w$の元であり,$w$が$x$の元であること)は,同値である.
まだ分かりづらい.少し表現を変えてみると,次のようになる.
$x$を集合の集合とする.$x$の任意の元は集合であり,その元(集合)全体の和集合$y$が存在する.$y$は次の条件を満たす.
任意の$y$の元$z$には,$z$が$w$の元となるような$x$の元(集合)$w$が存在する.
逆に$x$の元(集合)の元$z$は,$y$の元である.
つまり,例えば$A$と$B$の和集合を考える場合,集合の集合$X=\{ A,B\}$を定め,$Y=A\cup B$とおくと,任意の$Y$の元は$X$の元$A$または$B$に属し,$X$の元($A$または$B$)の元は$Y$に属しているということを形式的に述べているのである.
和集合公理を認めたうえで,和集合が定義される.
一方で,共通部分には,「共通部分公理」などといった公理が存在するわけではない.共通部分が存在することは分出公理(axiom schema of specification)によって保証されている1.
分出公理で$\phi (z)$を$z\in w$($w$は固定された集合)とすると,この命題に関して,分出公理は次のようになる.
\[ \forall x\forall w\exists y\forall z[z\in y\iff z\in x\land \phi (z)]\]
すなわち
\[ \forall x\forall w\exists y\forall z[z\in y\iff [z\in x\land z\in w]]\]
この公理を論理記号を用いずに書くと,次のようになる.
任意の$x,w$に対し,ある$y$が存在し,任意の$z$に対し,$z$が$y$の元であることと,$z$が$x,w$の両方の元であることは同値である.
少し表現を変えてみると,次のようになる.
集合$x,w$に対し,$x$と$w$の共通部分$y$が存在する.$y$は次の条件を満たす.
任意の$y$の元は,$x$と$w$の両方の元である.
逆に$x$と$w$の両方に属する元は,$y$の元である.
和集合公理よりは分かりやすいかもしれないが,素朴集合論における共通部分の定義を踏まえると,主張自体はシンプルであり,それを形式的に述べているに過ぎない.
分出公理を認めたうえで,共通部分が定義される.
- 分出公理は置換公理によって導出される. ↩︎