群の元に対しても,位数という用語を定義する.これを用いることで,$\mathbb{Z}$の部分群が$n\mathbb{Z}$のみであることを示すことができる.
群の元の指数
群の元の指数表記を,定義1のように帰納的に定める.
$G$を群,$g\in G$,$n\in \mathbb{Z}$とする.
\[ g^n\stackrel{\mathrm{def}}{=}\begin{dcases}e&(n=0)\\ g^{n-1}g&(n\ge 1)\\ g^{n+1}g^{-1}&(n\le -1)\end{dcases}\]
すなわち
\[ g^n=\underbrace{gg\dots g}_{n}\quad (n\in \mathbb{N})\]
\[ g^{-n}=\underbrace{g^{-1}g^{-1}\dots g^{-1}}_{n}\quad (n\in \mathbb{N})\]
定義1において,逆元を意味する$g^{-1}$と指数表記を意味する$g^{-1}$は等しい.
このとき,次の指数法則が成り立つ.
$G$を群,$g\in G$,$m,n\in \mathbb{Z}$とする.
- $g^mg^n=g^{m+n}$
- $(g^m)^n=g^{mn}$
- $n$に関する数学的帰納法で示す.
- $n=0$とき
\[ g^mg^0=g^me=g^m=g^{m+0}\]
より与式が成り立つ. - $n=1$のとき
- $m\ge 0$のとき,定義1より
\[ g^mg^1=g^mg=g^{m+1}\]
となり与式が成り立つ. - $m\le -1$のとき,定義1より
\[ g^mg^1=g^{m+1}g^{-1}g=g^{m+1}\]
となり与式が成り立つ.
- $m\ge 0$のとき,定義1より
- $n=k\ge 1$のとき与式が成り立つと仮定すると
\[ g^mg^{k+1}=g^mg^kg=g^{m+k}g\]- $m+k\ge 0$のとき,定義1より
\[ g^{m+k}g=g^{m+k+1}\]
より$n=k+1$のときも与式が成り立つ. - $m+k\le -1$のとき
\[ g^{m+k}g=g^{m+k+1}g^{-1}g=g^{m+k+1}\]
より$n=k+1$のときも与式が成り立つ.
- $m+k\ge 0$のとき,定義1より
- $n=-1$のとき
- $m\ge 1$のとき,定義1より
\[ g^mg^{-1}=g^{m-1}gg^{-1}=g^{m-1}\]
となり与式が成り立つ. - $m\le 0$のとき,定義1より
\[ g^mg^{-1}=g^{m-1}\]
となり与式が成り立つ.
- $m\ge 1$のとき,定義1より
- $n=l\le -1$のとき与式が成り立つと仮定すると
\[ g^mg^{l-1}=g^mg^lg^{-1}=g^{m+l}g^{-1}\]- $m+l\ge 1$のとき,定義1より
\[ g^{m+l}g^{-1}=g^{m+l-1}gg^{-1}=g^{m+l-1}\]
より$n=l-1$のときも与式が成り立つ. - $m+l\le -0$のとき
\[ g^{m+l}g^{-1}=g^{m+l-1}\]
より$n=l-1$のときも与式が成り立つ.$\blacksquare$
- $m+l\ge 1$のとき,定義1より
- $n=0$とき
- $n$に関する数学的帰納法で示す.
- $n=0$のとき
\[ (g^m)^0=e=g^{0}=g^{m0}\]
より与式が成り立つ. - $n=k\ge 0$のとき与式が成り立つと仮定すると,①より
\[ (g^m)^{k+1}=(g^m)^kg^m=g^{mk}g^m=g^{mk+m}=g^{m(k+1)}\]
となり,$n=k+1$のときも与式が成り立つ. - $n=-1$のとき,与式が成り立つことを$m$に関する数学的帰納法で示す.
- $m=0$のとき
\[ (g^0)^{-1}=e^{-1}=e\]
より与式が成り立つ. - $m=k^{\prime}\ge 0$のとき与式が成り立つと仮定すると
\[ (g^{k^{\prime}+1})^{-1}=(g^{k^{\prime}}g^1)^{-1}=g^{-1}(g^{k^{\prime}})^{-1}=g^{-1}g^{-k^{\prime}}=g^{-1-k^{\prime}}=g^{-(k^{\prime}+1)}\]
より$m=k^{\prime}+1$のときも与式が成り立つ. - $m=l^{\prime}\le 0$のとき与式が成り立つと仮定すると
\[ (g^{l^{\prime}-1})^{-1}=(g^{l^{\prime}}g^{-1})^{-1}=(g^{-1})^{-1}(g^{l^{\prime}})^{-1}=gg^{-l^{\prime}}=g^{1-l^{\prime}}=g^{-(l^{\prime}-1)}\]
より$m=l^{\prime}-1$のときも与式が成り立つ.
- $m=0$のとき
- $n=l\le -1$のとき与式が成り立つと仮定すると,①より
\[ (g^m)^{l-1}=(g^m)^l(g^m)^{-1}=g^{ml}g^{-m}=g^{ml-m}=g^{m(l-1)}\]
となり,$n=l-1$のときも与式が成り立つ.$\blacksquare$
- $n=0$のとき
通常の指数法則では
\[ (ab)^n=a^nb^n\]
が成り立つが,これは可換群のときに限り成り立つ.
群の元の位数
$G$を群,$g\in G$とする.
- ある$n\in \mathbb{N}$が存在して,$g^n=e$となるとき,そのような$n$の中で最小のものを$g$の位数(order, period)という.
- 任意の$n\in \mathbb{N}$に対して,$g^n\neq e$となるとき,$g$の位数を$\infty$で表し,$g$は無限位数であるという.
群$G$の位数$|G|$は$G$の元の個数のことである.定義2で定まる位数は,「群の元」に対して定義されるものである.
群の元の位数を具体例で確認しよう.
$\sigma =\begin{pmatrix}1&2&3\end{pmatrix}\in \mathfrak{S}_n$の位数は$3$である.
実際
\[ \sigma ^2=\sigma \sigma =\begin{pmatrix}1&3&2\end{pmatrix}\]
\[ \sigma ^3=\sigma ^2\sigma =\mathrm{id}\]
である.
$m\in \mathbb{Z}$の位数は$\infty$である.
実際,任意の$n\in \mathbb{N}$に対して,$nm\neq 0$が成り立つ.
群の元の位数が持つ性質を2つ紹介する.
$G$を群,$g\in G$とする.
$g=e$であることと$g$の位数が$1$であることは同値である.
$g=e$ならば
\[ g^1=g=e\]
であるから$g$の位数は$1$である.
逆にこのとき,$g^1=e$であるから,$g^1=g$より$g=e$である.$\blacksquare$
有限群の任意の元の位数は無限位数でない.
$G$を群,$g\in G$とする.
$G$は有限群であるから,$G$の部分集合
\[ \{ g^n\mid n\in \mathbb{N}\} \]
は有限集合である.
よって,$i>j$を満たすある$i,j\in \mathbb{N}$が存在して,$g^i=g^j$となる.
両辺に右から$g^{-j}$を掛けると,命題1より$g^{i-j}=e$となる.
したがって,$g$の位数は高々$i-j$であり,無限位数でない.$\blacksquare$
$\mathbb{Z}$の部分群
$\mathbb{Z}$は加法に関して群であり,$n\in \mathbb{Z}$の倍数全体の集合$n\mathbb{Z}$はその部分群であった.
群の元の位数の概念を利用すると,$\mathbb{Z}$の部分群は$n\mathbb{Z}$に限られることが証明できる.
$\mathbb{Z}$の加法に関する任意の部分群$G$に対し,ある$n\in \mathbb{N}\cup \{ 0\}$が存在して,$G=n\mathbb{Z}$となる.
$G=\{ 0\}$のとき,$G=0\mathbb{Z}$であるから,$n=0$とすればよい.
$G\neq \{ 0\}$のとき,$G\setminus \{ 0\}$は空でないから,絶対値が最小である元$n\in G\setminus \{ 0\}$が存在する.
$G$は群であるから,$-n\in G$であることに注意すると,$n\in \mathbb{N}$として一般性を失わない.
任意の$m\in G$に対して,ある$q\in \mathbb{Z}$と$0$以上$n-1$以下のある整数$r$が存在して
\[ m=nq+r\]
となる.$G$は群であるから,$nq\in G$であり
\[ r=m-nq\in G\]
を得る.
$r\neq 0$と仮定すると,$0<r\le n-1$より,$n$が$G$の元のうち,最小の正の整数であることに矛盾する.
よって,$r=0$であるから,$m=nq$
したがって,$G=n\mathbb{Z}$である.$\blacksquare$
定理2から,様々な性質を導くことができる.
$G$を群,$g\in G$とする.
集合
\[ \{ n\in \mathbb{Z}\mid g^n=e\} \]
は$\mathbb{Z}$の加法に関する部分群である.
\[ H=\{ n\in \mathbb{Z}\mid g^n=e\} \]
とする.
$a,b\in H$を任意にとる.
このとき,$b$の逆元は$-b$であり
\[ g^{a-b}=g^a(g^b)^{-1}=ee^{-1}=e\]
であるから,$a-b\in H$
したがって,$H$は$\mathbb{Z}$の部分群である.$\blacksquare$
$G$を群,$n\in \mathbb{N}$,$g$を位数$n$の$G$の元,$m\in \mathbb{Z}$とする.
$g^m=e$であることと,$m$が$n$の倍数であることは同値である.
$g^m=e$ならば
\[ m\in \{ k\in \mathbb{Z}\mid g^k=e\} \]
命題3より,右辺の集合は$\mathbb{Z}$の部分群であり,定理2より,ある$d\in \mathbb{N}\cup \{ 0\}$が存在して
\[ d\mathbb{Z}=\{ k\in \mathbb{Z}\mid g^k=e\} \]
となる.
$d=0$であると仮定すると,$m\in 0\mathbb{Z}=\{ 0\}$となり,$m\neq 0$であることに矛盾する.
よって,$d\neq 0$であり,$n\in d\mathbb{Z}$より$d\le n$
また,$d<n$であると仮定すると,$d\in d\mathbb{Z}$であるから$g^d=e$
これは,定義2,すなわち$n$の最小性に矛盾する.
したがって,$d=n$であり,$m\in n\mathbb{Z}$,すなわち$m$は$n$の倍数である.
逆にこのとき,ある$k\in \mathbb{Z}$が存在して,$m=kn$と表される.よって
\[ g^m=g^{kn}=(g^n)^k=e^k=e\]
となる.$\blacksquare$
巡回群の位数は生成元の位数に一致する.
$G$を群,$n\in \mathbb{N}$,$g$を位数$n$の$G$の元とする.
\[ |\langle g\rangle |=n\]
任意の$m\in \mathbb{Z}$に対して,ある$q\in \mathbb{Z}$と$0$以上$n-1$以下のある整数$r$が存在して
\[ m=nq+r\]
となる.このとき
\[ g^m=g^{nq+r}=(g^n)^qg^r=e^qg^r=g^r\]
であるから
\[ \langle g\rangle =\{ g^k\mid k\in \mathbb{Z}\} =\{ e,g,g^2,\dots ,g^{n-1}\} \]
$i>j$を満たす$0$以上$n-1$以下の整数$i,j$が存在して,$g^i=g^j$となると仮定する.
両辺に右から$g^{-j}$を掛けると
\[ g^{i-j}=e\]
このとき
\[ i-j\le (n-1)-0=n-1<n\]
であるから,定義2,すなわち$n$の最小性に矛盾する.
よって,$e,g,g^2,\dots ,g^{n-1}$は相異なるから,$|\langle g\rangle |=n$である.$\blacksquare$