微分積分学の様々な定理を証明する際に用いることになる平均値の定理について解説する.
ロルの定理
有界閉区間上の関数には微分係数が$0$になる点が存在する.
$a,b$を$a<b$となる実数,$f:[a,b]\to \mathbb{R}$を連続関数とする.
$f$が$(a,b)$上微分可能かつ$f(a)=f(b)$ならば,ある$c\in (a,b)$が存在して,$f^{\prime}(c)=0$となる.
$f$が定数関数であるとき,$f$は$(a,b)$上微分可能であり,$f(a)=f(b)$である.このとき,任意の$c\in (a,b)$に対して$f^{\prime}(c)=0$である.
$f$が定数関数でないとき,最大値・最小値の定理より,ある$c_1,c_2\in [a,b]$が存在して,任意の$x\in [a,b]$に対して
\[ f(c_1)\le f(x)\le f(c_2)\]
が成り立つ.
$f$は定数関数でないから,$f(c_1)\neq f(c_2)$すなわち$c_1\neq c_2$であり,$f(a)=f(b)$より,$c_1\in (a,b)$または$c_2\in (a,b)$である.
このとき,$c\in (a,b)$を
\[ c=\begin{cases}c_1&(c_1\in (a,b))\\ c_2&(c_1\not\in (a,b))\end{cases}\]
により定めると,$f(c)$は$f(x)$の$x=c$における極値であるから,$f^{\prime}(c)=0$である.$\blacksquare$

ロルの定理は,フランスの数学者ミシェル・ロル(Michel Rolle, 1652-1719)が1690年に著書”Traité d’algèbre”で発表,翌年その証明を発表したことに由来し,1834年にドイツの数学者モーリッツ・ヴィルヘルム・ドロビッシュ(Moritz Wilhelm Drobisch, 1802-1896)がこの名称を用いた.
ラグランジュの平均値の定理
ロルの定理を一般化すると,平均値の定理が得られる.これは,テイラーの定理の証明などに用いられる.
$a,b$を$a<b$となる実数,$f:[a,b]\to \mathbb{R}$を連続関数とする.
$f$が$(a,b)$上微分可能ならば,ある$c\in (a,b)$が存在して
\[ f^{\prime}(c)=\frac{f(b)-f(a)}{b-a}\]
となる.
$f$が$[a,b]$上連続かつ$(a,b)$上微分可能であることに注意する.
関数$g:[a,b]\to \mathbb{R}$を
\[ g(x)=f(x)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}(x-a)\quad (x\in [a,b])\]
により定めると,$g$は$[a,b]$上連続かつ$(a,b)$上微分可能であり
\[ g(a)=f(a)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}(a-a)=f(a)\]
\[ g(b)=f(b)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}(b-a)=f(b)-(f(b)-f(a))=f(a)\]
より$g(a)=g(b)$であるから,ロルの定理より,ある$c\in (a,b)$が存在して,$g^{\prime}(c)=0$となる.ここで
\[ g^{\prime}(x)=f^{\prime}(x)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}\]
であるから
\[ f^{\prime}(c)=g^{\prime}(c)+\frac{f(b)-f(a)}{b-a}=\frac{f(b)-f(a)}{b-a}\]
となり,示された.$\blacksquare$

平均値の定理で,$f(a)=f(b)$という条件を付したものがロルの定理である.
コーシーの平均値の定理
ラグランジュの平均値の定理を一般化すると,コーシーの平均値の定理が得られる.これは,ロピタルの定理の証明などに用いられる.
$a,b$を$a<b$となる実数,$f,g:[a,b]\to \mathbb{R}$を連続関数とする.
$f,g$が$(a,b)$上微分可能ならば,ある$c\in (a,b)$が存在して
\[ f^{\prime}(c)(g(b)-g(a))=g^{\prime}(c)(f(b)-f(a))\]
となる.
$f,g$が$[a,b]$上連続かつ$(a,b)$上微分可能であることに注意する.
関数$h:[a,b]\to \mathbb{R}$を
\[ h(x)=f(x)(g(b)-g(a))-g(x)(f(b)-f(a))\quad (x\in [a,b])\]
により定めると,$h$は$[a,b]$上連続かつ$(a,b)$上微分可能であり
\[ \begin{aligned}h(a)&=f(a)(g(b)-g(a))-g(a)(f(b)-f(a))\\ &=f(a)g(b)-f(a)g(a)-g(a)f(b)+g(a)f(a)\\ &=f(a)g(b)-f(b)g(a)\end{aligned}\]
\[ \begin{aligned}h(b)&=f(b)(g(b)-g(a))-g(b)(f(b)-f(a))\\ &=f(b)g(b)-f(b)g(a)-g(b)f(b)+g(b)f(a)\\ &=f(a)g(b)-f(b)g(a)\end{aligned}\]
より$h(a)=h(b)$であるから,ロルの定理より,ある$c\in (a,b)$が存在して,$h^{\prime}(c)=0$となる.ここで
\[ h^{\prime}(x)=f^{\prime}(x)(g(b)-g(a))-g^{\prime}(x)(f(b)-f(a))\]
であるから
\[ f^{\prime}(c)(g(b)-g(a))=h^{\prime}(c)+g^{\prime}(c)(f(b)-f(a))=g^{\prime}(f(b)-f(a))\]
となり,示された.$\blacksquare$

コーシーの平均値の定理で,$g(x)=x$という条件を付したものがラグランジュの平均値の定理である.