当記事で紹介する解答は東京大学が示した解答ではありません.
(1)で与えられた不等式の中辺に注目すると,$x$が整数のとき,これは連続する3つの自然数の積になる.よって,命題Pの条件(a)と関連しているように見えるため,(1)は(2)で命題Pを証明するための誘導になっていると予想できる.
まずは(1)から考えてみよう.不等式の証明である.
今回知りたいのは不等式を満たす正の実数$x$の範囲であるから,数学的帰納法は後回しにしたい.また,$x$と$y$の2文字があるため微分も憚られる.さらに,$x,y$についての3次式を評価したいため,平方完成も後で考えたい.そして,有名不等式も使えそうにない.
そこで,$(左辺)-(右辺)$を評価するという方針で考えてみよう.まず,今回示したい不等式を次の2つに分解する.
\[ \tag{A} x^3+3yx^2<(x+y-1)(x+y)(x+y+1)\]
\[ \tag{B} (x+y-1)(x+y)(x+y+1)<x^3+(3y+1)x^2\]
$\rm (A)$について考えよう.
\[ \begin{aligned}&(x+y-1)(x+y)(x+y+1)-(x^3+3yx^2)\\ =&(x+y)\{ (x+y)^2-1\} -x^3-3yx^2\\ =&x^3+3x^2y+3xy^2+y^3-(x+y)-x^3-3x^2y\\ =&3xy^2+y^3-x-y\end{aligned}\]
より,$3xy^2+y^3-x-y>0$となるような正の実数$x$の範囲を求めたい.どうすればよいだろうか.
詰まってしまったときは,もう一度問題文を読み直してほしい.このとき,「問題設定を読み間違えていないか」「使っていない条件はないか」を確認しよう.
今回求めたいのは「不等式を満たす正の実数$x$の範囲」であり,与えられた条件は「$y$は自然数」ということである.この条件を不等式証明に活かすにはどうすればよいだろうか.
$y$は自然数であるから,$y\geqq 1$である.よって
\[ 3xy^2+y^3-x-y=x(3y^2-1)+y(y^2-1)\geqq 2x\]
$x$が正の実数ならば,$2x>0$は常に成り立つ.したがって,任意の正の実数$x$に対して$\rm (A)$が成り立つ.
次に,$\rm (B)$について考えよう.
\[ \begin{aligned}&\{ x^3+(3y+1)x^2\} -(x+y-1)(x+y)(x+y+1)\\ =&x^3+3x^2y+x^2-(x^3+3x^2y+3xy^2+y^3-x-y)\\ =&x^2-3xy^2-y^3+x+y\end{aligned}\]
より,$x^2-3xy^2-y^3+x+y>0$となるような正の実数$x$の範囲を求めたい.どうすればよいだろうか.
先程と同様に,$y\geqq 1$であることを用いてみよう.
\[ x^2-3xy^2-y^3+x+y=x(x-3y^2+1)-y(y^2-1)=\dots \]
使えそうにない.またしても困ってしまった.
さて,もう一度問題文に戻ってみよう.求めたいのは「不等式を満たす正の実数$x$の範囲」である.つまり,メインとなる文字は$y$ではなく$x$である.そこで,先程の式を$x$について整理してみよう.
\[ x^2-(3y^2-1)x-y(y^2-1)\]
この式は$x$についての$2$次式であるから,結局は次の$2$次不等式
\[ x^2-(3y^2-1)x-y(y^2-1)>0\]
を$x$について解けばよい.
解いてみると綺麗な式が出てくるのではないかと期待して,とりあえず左辺の判別式$D$を計算してみる.$y\geqq 1$より
\[ D=(3y^2-1)^2+4y(y^2-1)\geqq 4>0\]
となり,余談ではあるが$x^2-(3y^2-1)x-y(y^2-1)=0$を満たす,2つの異なる実数$x$が存在することが分かる.
よって,不等式の解は
\[ x<\frac{3y^2-1-\sqrt{(3y^2-1)^2+4y(y^2-1)}}{2},\frac{3y^2-1+\sqrt{(3y^2-1)^2+4y(y^2-1)}}{2}<x\]
である.しかし,早まってはいけない.$x$は正の実数として考えたい.$y\geqq 1$であるから
\[ (3y^2-1)^2+4y(y^2-1)>(3y^2-1)^2\]
$3y^2-1\geqq 2>0$であるから
\[ \sqrt{(3y^2-1)^2+4y(y^2-1)}>3y^2-1\]
したがって
\[ \frac{3y^2-1-\sqrt{(3y^2-1)^2+4y(y^2-1)}}{2}<0\]
\[ \frac{3y^2-1+\sqrt{(3y^2-1)^2+4y(y^2-1)}}{2}>0\]
となるから,求める$x$の範囲は
\[ x>\frac{3y^2-1+\sqrt{(3y^2-1)^2+4y(y^2-1)}}{2}\]
次に(2)を考えよう.最初の予想では(1)が誘導になっていると考えた.
つまり,(1)で考えた不等式の中辺を$A$とみなしたい.そのためには,(1)で正の実数としていた$x$を正の整数として捉え直す必要がある.
さて,(1)を利用することで,命題Pの条件(a)については考慮できているが,条件(b)については少しも触れていない.$A$を$10$進法で表したとき,$1$が連続して99回以上現れるところがある場合について,$A$を上と下から評価してみよう.
以下,$n$を正の整数とする.例えば,$n+99$桁の$A$について,$n+1$桁目から$n+99$桁目がすべて$1$であるとき
\[ \underbrace{11\dots 1}_{99個}\underbrace{00\dots 0}_{n個}\leqq A<\underbrace{11\dots 1}_{98個}2\underbrace{00\dots 0}_{n個}\]
と評価できる.このとき,不等式の左辺と右辺の差は$10^n$であるが,(1)で考えた不等式の左辺と右辺の差は$x^2$である.そこで,$x=10^n$とすれば(1)を利用できるような気がする.
$x=10^n$のとき
\[ x^3+3yx^2=10^{3n}+3y10^{2n}=(3y+10^n)10^{2n}\]
\[ x^3+(3y+1)x^2=10^{3n}+(3y+1)10^{2n}=(3y+1+10^n)10^{2n}\]
であるから,$3y$が「$10$進法で表したとき,$1$が連続して99回以上現れる」ような数であり,かつ$n$が十分大きいとき,条件(a),(b)をともに満たす自然数$A$が存在することが示せそうである.
$3y$が「$10$進法で表したとき,$1$が連続して99回以上現れる」ような数であるとき,$y$はどうなるだろうか.$3y$が$3$の倍数であることに注意すると,最もシンプルな場合として
\[ 3y=\underbrace{11\dots 1}_{99個}\]
としてみるのはどうだろうか.
このとき,右辺は$3$の倍数である.実際,$3$の倍数の判定法として,次のようなものがある.
$10$進法での各桁の総和が$3$の倍数であるような整数は,3の倍数である.
$\underbrace{11\dots 1}_{99個}$の各桁の総和は$99$であり,これは$3$の倍数であるから,もとの$\underbrace{11\dots 1}_{99個}$も$3$の倍数である.
$n\leqq 98$のとき,$1$が$99$個並んだ$3y$が壊れてしまい,$n=99$のとき,$1$が$100$個並ぶことによって,上の議論が使えなくなってしまうため,$n\geqq 100$としなければならない.また,(1)の不等式は
\[ \tag{C} x>\frac{3y^2-1+\sqrt{(3y^2-1)^2+4y(y^2-1)}}{2}\]
のときにおいてのみ成り立つため,(1)を利用するためには,$\rm (C)$を満たすように$x$を定める必要がある.これら2つの条件を満たす$n$を適切にとると
\[ x^3+3yx^2=1\underbrace{00\dots 0}_{n-99個}\underbrace{11\dots 1}_{99個}\underbrace{00\dots 0}_{2n個}\]
\[ x^3+(3y+1)x^2=1\underbrace{00\dots 0}_{n-99個}\underbrace{11\dots 1}_{98個}2\underbrace{00\dots 0}_{2n個}\]
となるから,このとき
\[ A=(x+y-1)(x+y)(x+y+1)\]
とおくと,$A$は連続する3つの自然数の積であり,(1)より
\[ 1\underbrace{00\dots 0}_{n-99個}\underbrace{11\dots 1}_{99個}\underbrace{00\dots 0}_{2n個}<A<1\underbrace{00\dots 0}_{n-99個}\underbrace{11\dots 1}_{98個}2\underbrace{00\dots 0}_{2n個}\]
すなわち
\[ 1\underbrace{00\dots 0}_{n-99個}\underbrace{11\dots 1}_{99個}\underbrace{00\dots 0}_{2n-1個}1\leqq A\leqq 1\underbrace{00\dots 0}_{n-99個}\underbrace{11\dots 1}_{99個}\underbrace{99\dots 9}_{2n個}\]
であるから,$A$は$2n+99$桁目から$2n+1$桁目までがすべて$1$となる.
以上より,題意は示された.