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2025年度 京大理学部特色数学 第1問

問題

$n$を自然数とする.実数$x$に対し,$x$を越えない最大の整数を$[x]$とし,$f(x)=x-[x]$と定める.このとき,$1$よりも大きく,かつ整数でないような実数$x$のうちで,
\[ \lim _{n\to \infty}f\left( \frac{1}{nf(\sqrt[n]{x})}\right) =\frac{1}{2}\]
を満たすものをすべて求めよ.

(2025年度 京都大学 特色入試 理学部 数理科学入試 第1問)

当記事で紹介する解答は京都大学が示した解答ではありません.

【背景知識】ガウス記号

実数$x$に対して,$n\leqq x<n+1$となる整数$n$を$x$の整数部分といい,$[x]$で表す.また,記号$[]$をガウス記号という.

すなわち$[x]=n$であるから,次の不等式が成り立つ.
\[ \tag{1} [x]\leqq x<[x]+1\]
辺々から$1$を引くと
\[ \tag{2} [x]-1\leqq x-1<[x]\]
$(1),(2)$より
\[ x-1<[x]\leqq x<[x]+1\]

また,$x-[x]$を$x$の小数部分といい,次の不等式が成り立つ.
\[ 0\leqq x-[x]<1\]

【大学入試】極限の問題の解法
  • 極限の性質を利用する:四則演算の極限は極限の四則演算に等しい
    →四則演算と極限を交換する
  • 不定形を解消する:$\dfrac{0}{0},\dfrac{\infty}{\infty}, 0-0,\infty -\infty$などの形を解消
    →分数形は最大次数の項を定数にする,根号の差は有理化の逆をする
  • 有名な極限の形を作る:$e$の定義や$\dfrac{\sin x}{x}$などの形を作る
    →有名な極限の形に分解
  • はさみうちの原理を利用する:うまく不等式を作ってはさみうちの原理を適用
    →極限を求めたい式を上下から抑える
  • 微分の定義式に変形する:$\lim_{h\to 0}\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}=f^{\prime}(x)$や$\lim_{x\to a}\dfrac{f(x)-f(a)}{x-a}=f^{\prime}(a)$を利用する
    →どの部分を$f$と見るか考える

扱いづらい関数$f$の中に$f$が入っているのはかなり厄介.まずは内側の$f$を処理しておきたいところではあるが,どうすればよいだろうか.

$f$の中の$f$をどうにかしよう.
\[ f(\sqrt[n]{x})=\sqrt[n]{x}-[\sqrt[n]{x}]\]
であるから,$[\sqrt[n]{x}]$を処理すればよい.最終的に$n\to \infty$の極限を考えるのであるから,十分大きい$n$に対しては
\[ [\sqrt[n]{x}]=1\]
となるはずである.このとき
\[ f(\sqrt[n]{x})=\sqrt[n]{x}-1\]
となり,$f$を消すことができそうである.

これを極限を求めたい関数に代入すると
\[ f\left( \frac{1}{nf(\sqrt[n]{x})}\right) =f\left( \frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}\right) \]
となる.$f$の中の$f$が解消されたとはいえ,$f$の中身が複雑であることに変わりはない.そこで,$f$の中身を処理することにしよう.

ここからの大まかな方針を確認しておくと,まず$f$の中身の極限を求める.次に,その極限値を$f$に入れたときの値を求め($f$が連続関数であるかどうかの議論は一旦置いておく),それが$\dfrac{1}{2}$となるような$x$を求める,といった流れである.

まず$f$の中身の極限値を求めたいのだが,どうすればよいだろうか.レベルの高い極限の問題は,相場はさみうちの原理を使うと決まっている.ところが,何ではさめばよいのか見当がつかない.もう一度式をよく眺めてみると,どうやら京大理学部の特色入試は,あまり使う機会の少ない微分の定義式を用いて極限を求めさせたいようであることに気づくだろう.

【復習】微分

関数$f(x)$について,極限値$\displaystyle \lim_{h\to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}$が存在するとき,これを$f(x)$の$x=a$における微分係数または変化率といい,$f^{\prime}(a)$で表す.このとき,次の等式が成り立つ.
\[ f^{\prime}(a)=\lim_{h\to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}=\lim_{x\to a}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}\]

\[ \frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}=\frac{1}{\frac{x^{\frac{1}{n}}-1}{\frac{1}{n}}}\]
と変形する.ここで,関数$g$を$g(y)=x^y$により定めると
\[ \frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}=\frac{1}{\frac{g(\frac{1}{n})-g(0)}{\frac{1}{n}-0}}\xrightarrow[]{n\to \infty}\frac{1}{g'(0)}=\frac{1}{\log x}\]
となるから,次の等式を満たす$x$を求めればよいということになる(?)
\[ \lim_{n\to \infty}f\left( \frac{1}{\log x}\right) =\frac{1}{2}\tag{1}\]
この議論は正しくない.一般に,$f$の定義域内の任意の$a$に対し
\[ \lim_{x\to a}f(x)=f(a)\]
が成り立つような関数を連続関数というが,$f$が連続関数であることは確かめていないため,$(1)$の等式を考えると問題が解けたことになるとは限らないのである.しかし,次の等式が成り立つことに変わりはない.
\[ \lim _{n\to \infty}f\left( \frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}\right) =\lim_{t\to \frac{1}{\log x}}f(t)\]

さて,ここからは$f$の連続性について考えてみよう.$f(x)$は$x$の小数部分を表す関数であるから,$y=f(x)$を$xy$平面上に図示すると次のようになる.

よって,$f$は$x$が整数のときに不連続となる関数である.逆に言えば,$f$の中身が整数でなければ連続関数として扱ってもよいわけである.

すなわち,$\dfrac{1}{\log x}$が整数でなければ
\[ \lim _{n\to \infty}f\left( \frac{1}{nf(\sqrt[n]{x})}\right) =\lim _{n\to \infty}f\left( \frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}\right) =\lim_{t\to \frac{1}{\log x}}f(t)=f\left( \frac{1}{\log x}\right) \]
となる.この極限値が$\dfrac{1}{2}$となるためには,ある$0$以上の整数$k$を用いて
\[ \frac{1}{\log x}=k+\frac{1}{2}\]
と表されればよい.すなわち
\[ x=e^{\frac{2}{2k+1}}\]
であるから,あとはこの$x$が$1$より大きく,整数でないことを確認すればよい.両辺を$2k+1$乗すると
\[ x^{2k+1}=e^2\]
となり,$x$が整数であると仮定すると,$e^2$も整数となる.ここで
\[ \sqrt{7}<2.7<e<2.8<2\sqrt{2}\]
より
\[ 7<e^2<8\]
であるから,$e^2$は整数でないため矛盾.よって,$x$は整数でない.また
\[ x=e^{\frac{2}{2k+1}}>e^0=1\]
であるから,これは題意を満たす.

$\dfrac{1}{\log x}$が整数である場合の処理は忘れてはいけない.このとき,上のグラフを参考にすると
\[ \lim_{t\to \frac{1}{\log x}-0}f(t)=1\]
\[ \lim_{t\to \frac{1}{\log x}+0}f(t)=0\]
となるから,極限は$\dfrac{1}{2}$に収束しない.

以上より,求める解は,$0$以上の整数$k$を用いて次のように表される.
\[ x=e^{\frac{2}{2k+1}}\]

記述に注意して以上の議論を解答にまとめよう.

解答

難易度:★★★★☆

ある正の整数$N$が存在し,$N$以上の任意の整数$n$に対して
\[ f(\sqrt[n]{x})=\sqrt[n]{x}-[\sqrt[n]{x}]=\sqrt[n]{x}-1\]
となる.よって
\[ \lim _{n\to \infty}f\left( \frac{1}{nf(\sqrt[n]{x})}\right) =\lim _{n\to \infty}f\left( \frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}\right) \]
が成り立つ.ここで,関数$g$を$g(y)=x^y$により定めると
\[ \frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}=\frac{1}{\frac{x^{\frac{1}{n}}-1}{\frac{1}{n}}}=\frac{1}{\frac{g(\frac{1}{n})-g(0)}{\frac{1}{n}-0}}\]
であるから
\[ \lim_{n\to \infty}\frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}=\lim_{n\to \infty}\frac{1}{\frac{g(\frac{1}{n})-g(0)}{\frac{1}{n}-0}}=\frac{1}{g'(0)}=\frac{1}{\log x}\]
よって
\[ \lim _{n\to \infty}f\left( \frac{1}{n(\sqrt[n]{x}-1)}\right) =\lim_{t\to \frac{1}{\log x}}f(t)\]
が成り立つ.

$\dfrac{1}{\log x}$が整数であるとき
\[ \lim_{t\to \frac{1}{\log x}-0}f(t)=1\]
\[ \lim_{t\to \frac{1}{\log x}+0}f(t)=0\]
となるから,極限は$\dfrac{1}{2}$に収束しない.

$\dfrac{1}{\log x}$が整数でないとき,$f(t)$は$[\dfrac{1}{\log x}]<t<[\dfrac{1}{\log x}]+1$において連続であるから
\[ \lim_{t\to \frac{1}{\log x}}f(t)=f\left( \frac{1}{\log x}\right) \]
となる.これが$\dfrac{1}{2}$に収束するとき,ある$0$以上の整数$k$を用いて
\[ \frac{1}{\log x}=k+\frac{1}{2}\]
と表される.すなわち
\[ x=e^{\frac{2}{2k+1}}\]
である.このとき
\[ x=e^{\frac{2}{2k+1}}>e^0=1\]
であるから$x$は$1$より大きい.また,$x$が整数であると仮定すると
\[ x^{2k+1}=e^2\]
であるから,$e^2$も整数となる.ここで
\[ \sqrt{7}<2.7<e<2.8<2\sqrt{2}\]
より
\[ 7<e^2<8\]
であるから,$e^2$は整数でないため矛盾.よって,$x$は整数でない.

以上より,条件を満たす$x$は,$0$以上の整数$k$を用いて$x=\color{red}{e^{\frac{2}{2k+1}}}$と表される.

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