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最大値と最小値・上界と下界・上限と下限

実数を土台とした微分積分では,実数を用いて定義される集合上の関数を考え,微分や積分を行うことが多い.実数の大小関係を用いて,こうした集合の範囲を捉えることは非常に重要であり,ここではそのために必要な6つの指標を取り扱う.


最大値と最小値

実数の部分集合に対して,その最大値と最小値は次のように定義される.

定義1

$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合とする.ある$M\in A$が存在し,任意の$x\in A$に対し,$x\le M$となるとき,$M$を$A$の最大値(maximum)といい,$\max{A}$で表す.また,ある$m\in A$が存在し,任意の$x\in A$に対し,$m\le x$となるとき,$m$を$A$の最小値(minimum)といい,$\min{A}$で表す.

最大値と最小値を合わせてextremumというが,これに相応しい日本語訳は(筆者の知る限り)存在しない(「極値」という意味で用いられることもある).

一般の順序集合に対しては,最大元と最小元が定義される.これについては集合論の記事に譲ることにし,ここでは解析学の立場から$\mathbb{R}$上の最大値・最小値を考えるものとする.

さて,定義1を論理式を用いて表してみよう.空でない$A\subset \mathbb{R}$に対し,$A$の最大値$\max A$と最小値$\min A$は,それぞれ次の条件を満たす.

\[ \forall x\in A,x\le \max A\]
\[ \forall x\in A,\min A\le x\]

ここで,当たり前かもしれないが,$x\le \max A$や$\min A\le x$といった不等式について,等号が成り立つのは,それぞれ$x$が$A$の最大値,最小値となるときである.

最大値と最小値の例(区間)

具体的な$\mathbb{R}$の空でない部分集合を通して,最大値・最小値を確認しよう.

以下,$\mathbb{R}$の区間の最大値・最小値を考えることにする.区間についての詳細は次の記事を参照するとよい.

図1

まず,$A=[-1,2]=\{ x\mid -1\le x\le 2\}$とおく.$A$の最大値は$2$である.実際,$2\in A$であり,任意の$x\in A$に対し$x\le 2$である.また,$A$の最小値は$-1$である.実際,$-1\in A$であり,任意の$x\in A$に対し,$-1\le x$である.

図2

次に,$B=(-1,2]=\{ x\mid -1<x\le 2\}$とおく.$B$の最大値は$2$である.実際,$2\in B$であり,任意の$x\in B$に対し$x\le 2$である.

一方,$B$の最小値は何だろうか.ここで注意が必要なのは,$B$の最小値は$-1$ではないということである.最小値の定義から,$B$に最小値が存在するならば,それは$B$の元でなくてはならない.しかし,$-1\not\in B$である.よって,$-1$は$B$の最小値になり得ない.

では,改めて$B$の最小値は何だろうか.実は,$B$に最小値は存在しない.最大値・最小値が必ず存在するとはどこにも書かれていないため,当然存在しない場合もある.さて,$B$に最小値が存在しないことを証明するには,最小値の定義を否定した「任意の$x\in B$に対し,ある$y\in B$が存在し,$y<x$となる」という命題が成り立つことを示せばよいことになる.

証明してみよう.任意の$x\in B$に対し,$y=\dfrac{x-1}{2}$とおくと,$-1<x\le 2$より$-1<\dfrac{x-1}{2}<\dfrac{1}{2}$であるから$y\in B$であり,$x-y=x-\dfrac{x-1}{2}=\dfrac{x+1}{2}>\dfrac{-1+1}{2}=0$より$y<x$であるから,$B$には最小値が存在しない.

図3

さらに,$C=[-1,2)=\{ x\mid -1\le x<2\}$とおく.$C$の最小値は$-1$である.実際,$-1\in C$であり,任意の$x\in C$に対し$-1\le x$である.

また,$C$に最大値は存在しない.

$C$に最大値が存在しないことを,$B$に最小値が存在しないことの証明と同様に,自分の手で証明してみるとよい.

  • 任意の$x\in C$に対し,$-1\le x<2$
  • $x$に$2-x$を加えると$2$となり$C$の元でなくなる.よって,$x$に例えば$\dfrac{2-x}{2}$を加えると$x$より大きく,$2$より小さくなり,$C$の元のままになりそう.
  • このとき,$y=x+\dfrac{2-x}{2}=\dfrac{x+2}{2}$とすればよい.

上のような考え方で$y$を見つけるとよい.あとは先程と同様に証明するだけ.

  • 任意の$x\in C$に対し,$y=\dfrac{x+2}{2}$とおく.
  • $-1\le x<2$より$\dfrac{1}{2}\le x<2$であるから$y\in C$
  • $y-x=\dfrac{x+2}{2}-x=\dfrac{2-x}{2}>\dfrac{2-2}{2}=0$より$x<y$
  • 以上より,$C$には最大値が存在しない.
図4

そして,$D=(-1,2)=\{ x\mid -1<x<2\}$とおくと,先の議論と同様にして,$D$には最大値も最小値も存在しないことが分かる.

また,次のような集合の場合も,同様に最大値や最小値の存在性を確認することができる.

図5

$E=(-\infty ,2]=\{ x\mid x\le 2\}$の最大値は$2$,最小値は存在しない.

図6

$F=(-\infty ,2)=\{ x\mid x<2\}$の最大値及び最小値は存在しない.

図7

$G=[-1,\infty )=\{ x\mid x\ge -1\}$の最小値は$-1$,最大値は存在しない.

図8

$H=(-1,\infty )=\{ x\mid x>-1\}$の最大値及び最小値は存在しない.

最大値と最小値の例(関数)

次に,関数の最大値・最小値について考えてみよう.

関数については,次の記事を参照するとよい.

さて,$\mathbb{R}$の空でない部分集合$I$に対し,関数$f:I\to \mathbb{R}$が定められているとする.$f$の終域は$\mathbb{R}$であるから,このとき$f$の値域,すなわち$I$の$f$による像$f(I)$は$\mathbb{R}$の部分集合である.

よって,最大値・最小値の定義より,関数$f$の最大値・最小値が存在するならば,その値は$f(I)$の最大値・最小値にに対応する.

関数の最大値・最小値を具体的に求める方法は別記事に任せるが,最大値・最小値の存在性については,定義より論証することができるのである.

最大値と最小値のイメージ

$\mathbb{R}$の空でない部分集合であって,最大値と最小値が存在するようなものを$I$とすると,数直線を用いることで,$I$は次のように図示できる.

図9

もちろん,$I$は$\{ x\in \mathbb{R}\mid -2\le x\le 3\}$のように一つの繋がった範囲を表していることもあれば,$\{ x\in \mathbb{R}\mid -2\le x\le -1\lor 2\le x\le 3\}$のように複数の「飛び地」がある範囲を表していることもある.

そして,実数上の最大値・最小値を考えることにより,集合の元の範囲を,実数の大小関係を用いて的確に表すことができるようになる.

最大値と最小値の一意性

最大値・最小値が複数存在することはない.当たり前に感じるかもしれないが,数学において,このような一意性は非常に重要である.ここでは,その厳密な証明を与えることとする.

命題1

$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合とする.

  • $A$に最大値が存在するとき,$A$の最大値は一意的である.
  • $A$に最小値が存在するとき,$B$の最小値は一意的である.
  • $M,M’$を$A$の最大値とする.
    $M$は$A$の最大値であるから,定義より$M’\le M$
    $M’$は$A$の最大値であるから,定義より$M\le M’$
    よって$M=M’\blacksquare$
  • $m,m’$を$A$の最小値とする.
    $m$は$A$の最小値であるから,定義より$m\le m’$
    $m’$は$A$の最小値であるから,定義より$m’\le m$
    よって$m=m’\blacksquare$

2元集合の最大値と最小値

$2$つの実数$a,b$が与えられたとき,大きいほうの実数や,小さいほうの実数を表すにはどうすればよいだろうか.もちろん,具体的な$2$つの実数が与えられた場合は簡単である.しかし,文字で与えられた場合,そうはいかない.そこで,様々な表し方を検討していこう.

まず,場合分けをして表す方法がある.

$a$と$b$のうち,大きいほうの実数は
$a<b$のとき$b$,$a=b$のとき存在しない,$a>b$のとき$a$
$a$と$b$のうち,小さいほうの実数は
$a<b$のとき$a$,$a=b$のとき存在しない,$a>b$のとき$b$

ここで,$a=b$のとき,大きいほうの実数や小さいほうの実数は存在しないということである.これは,$a$と$b$が等しいために,大きいほうも小さいほうもないということである.

次に,$\max$関数や$\min$関数を用いて表す方法がある.

$A=\{ a,b\}$とする.このとき,$a$と$b$のうち小さくないほうの元は$\max A$であり,大きくないほうの元は$\min A$である.

ここで注意が必要なのは,$\max A$が小さくないほうの元を表し,$\min A$が大きくないほうの元を表すということである.この意味は,先程の場合分けを用いた表し方を考えると分かりやすい.

$2$つの実数$a$と$b$が与えられたとき,$a<b$または$a=b$または$a>b$のいずれか一つが成り立つ.そして,$\max$関数や$\min$関数は次のような値をとる.

\[ \max A\coloneqq \begin{cases}b&(a<b)\\ a(=b)&(a=b)\\ a&(a>b)\end{cases}\]

\[ \min A\coloneqq \begin{cases}a&(a<b)\\ a(=b)&(a=b)\\ b&(a>b)\end{cases}\]

すると,場合分けの表現では,$a=b$のときに大きいほうの実数や小さいほうの実数が存在しなかったのに対し,$\max$関数や$\min$関数を用いた表現では,$a=b$のときの値が定義されている.$a=b$のとき,$a$と$b$の間に大きいほうも小さいほうもないことから,これを日本語で表現すると,$\max$関数は小さくないほうを表し,$\min$関数は大きくないほうを表していると言えるのである.

さて,上で紹介した2つの表し方は,場合分けを用いたり関数を用いたりしているため,「簡潔に具体的に表すこと」はできていない.実は,次の命題が成り立つ.

命題2

$a,b\in \mathbb{R}$に対し,次が成り立つ.

\[ \max \{ a,b\} =\frac{a+b+|a-b|}{2}\]
\[ \min \{ a,b\} =\frac{a+b-|a-b|}{2}\]

$a\le b$のとき,$a-b\le 0$であるから,$|a-b|=-(a-b)=-a+b$
また$\max \{ a,b\} =b,\min \{ a,b\} =a$
このとき
\[ \frac{a+b+|a-b|}{2}=\frac{a+b-a+b}{2}=\frac{2b}{2}=b\]
\[ \frac{a+b-|a-b|}{2}=\frac{a+b+a-b}{2}=\frac{2a}{2}=a\]
よって
\[ \max \{ a,b\} =\frac{a+b+|a-b|}{2}\]
\[ \min \{ a,b\} =\frac{a+b-|a-b|}{2}\]

同様に,$a\ge b$のときも
\[ \max \{ a,b\} =\frac{a+b+|a-b|}{2}\]
\[ \min \{ a,b\} =\frac{a+b-|a-b|}{2}\]

$a\ge b$のときの場合に命題が成り立つことを,$a\le b$の場合の証明と同様に,自分の手で証明してみるとよい.

$a\ge b$のとき,$a-b\ge 0$であるから,$|a-b|=a-b$
また$\max \{ a,b\} =a,\min \{ a,b\} =b$
このとき
\[ \frac{a+b+|a-b|}{2}=\frac{a+b+a-b}{2}=\frac{2a}{2}=a\]
\[ \frac{a+b-|a-b|}{2}=\frac{a+b-a+b}{2}=\frac{2b}{2}=b\]
よって
\[ \max \{ a,b\} =\frac{a+b+|a-b|}{2}\]
\[ \min \{ a,b\} =\frac{a+b-|a-b|}{2}\]

したがって,示された.$\blacksquare$

上の命題が成り立つことは,次の図を用いることで直感的に理解できる.

図10

例えば,$a<b$の場合を考えよう.まず,$a$と$b$の「真ん中」に当たる数は$a$と$b$の(相加)平均である$\dfrac{a+b}{2}$である.そして,$a$と$b$の「距離」は$a$と$b$の差の絶対値$|a-b|$で

上界と下界

定義2

$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合とする.ある$a\in \mathbb{R}$が存在し,任意の$x\in A$に対し,$x\le a$となるとき,$a$を$A$の上界(upper bound)という.また,ある$b\in \mathbb{R}$が存在し,任意の$x\in A$に対し,$b\le x$となるとき,$b$を$A$の下界(lower bound)という.

$A$に上界が存在するとき,$A$は上に有界(bounded above)であるといい,下界が存在するとき,$A$は下に有界(bounded below)であるという.$A$が上に有界かつ下に有界であるとき,$A$は有界(bounded)であるという.

一般の順序集合に対しても,上界と下界が定義される.これについては集合論の記事に譲ることにし,ここでは解析学の立場から$\mathbb{R}$上の上界・下界を考えるものとする.

さて,上の定義を論理式を用いて表してみよう.空でない$A\subset \mathbb{R}$に対し,$A$の上界$a$と下界$b$は,それぞれ次の条件を満たす.

\[ \forall x\in A[x\le a]\]
\[ \forall x\in A[b\le x]\]

ここで,当たり前かもしれないが,$x\le a$や$b\le x$といった不等式について,等号が成り立つのは,それぞれ$x$が$A$の上界,下界と一致するときである.

そして,$A$に最大値や最小値が存在するとき,その値はそれぞれ$A$の上界・下界でもある.定義を見れば明らかだが,最大値・最小値は上界・下界の1つに過ぎない.

上界と下界のイメージ・例

具体的な$\mathbb{R}$の空でない部分集合を通して,上界・下界を確認しよう.

図11

まず,$A=[-1,2]=\{ x\mid -1\le x\le 2\}$とおく.$A$の最大値は$2$であり,$A$の最小値は$-1$である.最大値・最小値はそれぞれ上界・下界の一種であるから,$A$は有界である.

また,例えば$3$も$A$の上界であり,$-2$も$A$の下界である.一般に,$A$の上界全体の集合を$U(A)$,下界全体の集合を$L(A)$とすると,$U(A)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$であり,$L(A)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.

実際,任意の$a\ge 2,b\le -1,x\in A$に対し,$b\le -1\le x\le 2\le a$となり,$a$,$b$はそれぞれ$A$の上界,下界である.
また,$a<2$のとき,$2\in A$より$a$は$A$の上界でない.さらに,$b>-1$のとき,$-1\in A$より$b$は$A$の下界でない.

このように,上界・下界は複数存在することがある.一方で,最大値・最小値や上限・下限は,存在するとしても,1つしか存在しない.

図12

次に,$B=(-1,2]=\{ x\mid -1<x\le 2\}$とおく.$B$の最大値は$2$であり,最小値は存在しない.上と同様の議論により,$B$の上界全体の集合を$U(B)$とすると,$U(B)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$である.特に,$B$の最大値$2$は$B$の上界でもある.一方で,$B$の下界全体の集合を$L(B)$とすると,$L(B)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.これも上と同様の議論により示すことができるのだが,重要なのは$-1$が$B$の下界であるという点である.$-1$は$B$の最小値ではないものの,$B$の下界である.

$b>-1$のとき,$b$が$B$の下界でないことを,自分の手で証明してみるとよい.

  • $b>-1$のとき,ある$x\in B$が存在し,$x<b$となることを示せばよい.
  • 任意の$y\in B$に対し,$-1<y\le 2$
  • つまり,$-1<x<b$となる$x\in B$が存在するかどうかを調べればよい.
  • $b$と$-1$の平均$\dfrac{b-1}{2}$を$x$とすればよさそう・・・?
  • でも,$x\in B$となるかどうかは分からない!
  • $b\le 5$のときは$x\in B$となり,この方法で証明できそう.
  • $b>5$のときは?
  • $2\in B$だから,定義より$b$は$B$の下界ではない.場合分けで示せるかも.

上のような考え方で$x$を見つけるとよい.あとは先程と同様に証明するだけ.

  • $x=\min \left\{ \dfrac{b-1}{2},2\right\}$とおく.
  • このとき$-1\le x<2$より$x\in B$
  • また,$x<b$
  • よって,$b$は$B$の下界でない.
  • したがって,示された.

したがって,$B$は有界である.

$B$のような集合では,最小値は存在しないが,$-1$は$B$の「最小値のようなもの」であると言える.しかし,最小値はあくまでも「取ることのできる値のうち,最も小さい値」を表している.つまり,$B$の元は$-1$という値を取ることはないため,最小値と呼ぶことはできない.そこで,そのような「最小値のようなもの」を表す,$B$の下限という概念を導入することになる.その広い概念として,$B$の下界という概念を考えるのである.

図13

さらに,$C=[-1,2)=\{ x\mid -1\le x<2\}$とおく.$C$の最小値は$-1$であり,最大値は存在しない.

上と同様の議論により,$C$の上界全体の集合を$U(C)$とすると,$U(C)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$である.また,$C$の下界全体の集合を$L(C)$とすると,$L(C)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.特に,$C$の最小値$2$は$C$の下界でもある.

したがって,$C$は有界である.

図14

そして,$D=(-1,2)=\{ x\mid -1<x<2\}$とおくと,$D$には最大値も最小値も存在しない.

上と同様の議論により,$D$の上界全体の集合を$U(D)$とすると,$U(D)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$である.また,$D$の下界全体の集合を$L(D)$とすると,$L(D)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.

したがって,$D$は有界である.

ここで,$A,B,C,D$の上界全体の集合と下界全体の集合がすべて等しいことに気づいただろうか.よく考えてみると,$A,B,C,D$はほとんど同じような区間を表している.端点を含んでいるかどうかが異なっているだけだ.つまり,上界と下界(上限と下限)によって,$A,B,C,D$の「類似性」が明らかになり,最大値と最小値によって,$A,B,C,D$の「違い」が明らかになると捉えることができる.

また,次のような集合の場合も,同様に上界・下界の存在性を確認することができる.

図15

$E=(-\infty ,2]=\{ x\mid x\le 2\}$の最大値は$2$,最小値は存在しない.$E$の上界全体の集合を$U(E)$とすると,$U(E)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$である.また,$E$の下界は存在しない.実際,任意の$t\in \mathbb{R}$に対し,$\min \{ 2,t-1\}\in E$が存在し,$\min \{ 2,t-1\} <t$となる.

したがって,$E$は上に有界であり,下に有界でない.

図16

$F=(-\infty ,2)=\{ x\mid x<2\}$の最大値及び最小値は存在しない.$F$の上界全体の集合を$U(F)$とすると,$U(F)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$である.また,$F$の下界は存在しない.実際,任意の$t\in \mathbb{R}$に対し,$\min \{ 1,t-1\}\in F$が存在し,$\min \{ 1,t-1\} <t$となる.

したがって,$F$は上に有界であり,下に有界でない.

図17

$G=[-1,\infty )=\{ x\mid x\ge -1\}$の最小値は$-1$,最大値は存在しない.$G$の下界全体の集合を$L(G)$とすると,$L(G)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.また,$G$の上界は存在しない.

したがって,$G$は下に有界であり,上に有界でない.

図18

$H=(-1,\infty )=\{ x\mid x>-1\}$の最大値及び最小値は存在しない.$H$の下界全体の集合を$L(H)$とすると,$L(H)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.また,$H$の上界は存在しない.

したがって,$H$は下に有界であり,上に有界でない.


図19

まとめると,空でない$\mathbb{R}$の部分集合$I$に対し,$I$の上界及び下界が存在するならば,それは上図のようになる.もちろん,$I$が一つの繋がった区間を表していたり,一つの繋がった区間が複数合わさった集合を表していたりすることに注意が必要である.

上界・下界と最大値・最小値

ここまで,最大値・最小値は上界・下界の一種であると説明してきた.これは定義より明らかであるが,念の為証明しておこう.

命題3

$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合とする.

  1. $A$に最大値$\max A$が存在するとき,$\max A$は$A$の上界である.
  2. $A$に最小値$\min A$が存在するとき,$\min A$は$A$の下界である.
  • $A\subset \mathbb{R}$より,$\max A\in A$であるから,$\max A\in \mathbb{R}$
    最大値の定義より,任意の$x\in A$に対し,$x\le \max A$となるから,定義より,$\max A$は$A$の上界である.$\blacksquare$
  • $A\subset \mathbb{R}$より,$\min A\in A$であるから,$\min A\in \mathbb{R}$
    最小値の定義より,任意の$x\in A$に対し,$\min A\le x$となるから,定義より,$\min A$は$A$の下界である.$\blacksquare$

そして,区間の例と同様に考えることにより,次の命題を得る.

命題4

$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合とし,$A$の上界全体の集合を$U(A)$,下界全体の集合を$L(A)$とする.

  • $A$に最大値$\max A$が存在するとき,$U(A)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge \max A\}$
  • $A$に最小値$\min A$が存在するとき,$L(A)=\{ x\in \mathbb{R}\mid \min A\le x\}$
  • 命題2より,任意の$a\in \{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge \max A\} ,x\in A$に対し$x\le \max A\le a$
    よって,$a$は$A$の上界である.
    ここで,$b\not\in \{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge \max A\}$のとき,$b<\max A$
    $\max A\in A$であるから,$b$は$A$の上界でない.
    したがって,$U(A)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge \max A\}$である.$\blacksquare$
  • 命題2より,任意の$a\in \{ x\in \mathbb{R}\mid \min A\le x\} ,x\in A$に対し$a\le \min A\le x$
    よって,$a$は$A$の下界である.
    ここで,$b\not\in \{ x\in \mathbb{R}\mid \min A\le x\}$のとき,$b>\min A$
    $\min A\in A$であるから,$b$は$A$の下界でない.
    したがって,$L(A)=\{ x\in \mathbb{R}\mid \min A\le x\}$である.$\blacksquare$

上限と下限

定義3

$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合とし,$A$の上界全体の集合を$U(A)$,下界全体の集合を$L(A)$とする.$U(A)$に最小値$\alpha$が存在するとき,$\alpha$を$A$の上限(supremum)(または最小上界(least upper bound))といい,$\sup A$(または$\operatorname{lub}A$)で表す.また,$L(A)$に最小値$\beta$が存在するとき,$\beta$を$A$の下限(infimum)(または最大下界(greatest lower bound))といい,$\inf A$(または$\operatorname{glb}A$)で表す.

一般の順序集合に対しても,上限と下限が定義される.これについては集合論の記事に譲ることにし,ここでは解析学の立場から$\mathbb{R}$上の上限・下限を考えるものとする.

さて,上の定義を論理式を用いて表してみよう.空でない$A\subset \mathbb{R}$に対し,$A$の上限$\alpha$と下限$\beta$は,どのような条件を満たすだろうか.

まず,上限と下限は,それぞれ上界・下界の1つであるから,以下が成り立つ.

\[ \forall x\in A,x\le \alpha \]
\[ \forall x\in A,\beta \le x\]

また,上限$\alpha$は上界の最小値であるから,$\alpha$よりも小さい全ての実数は$A$の上界でない.「$\alpha$よりも小さい全ての実数」は,$\varepsilon$を任意の正の実数とすることにより,$\alpha -\varepsilon$と表すことができる.つまり,上の上界の定義を否定することにより
\[ \forall \varepsilon >0,\exists x\in A,\alpha -\varepsilon <x\]
同様に,下限$\beta$は下界の最小値であるから,$\beta$よりも大きい全ての実数は$B$の下界でない.「$\beta$よりも大きい全ての実数」は,任意の$\varepsilon >0$を用いて$\beta +\varepsilon$と表すことができる.つまり,上の下界の定義を否定することにより
\[ \forall \varepsilon >0,\exists x\in A,x<\beta +\varepsilon \]

まとめると,次のようになる.
\[ \alpha =\sup A\stackrel{\mathrm{def}}{\iff}[[\forall x\in A,x\le \alpha]\land [\forall \varepsilon >0,\exists x\in A,\alpha -\varepsilon <x]]\]
\[ \beta =\inf A\stackrel{\mathrm{def}}{\iff}[[\forall x\in A,\beta \le x]\land [\forall \varepsilon >0,\exists x\in A,x<\beta +\varepsilon]]\]

上限・下限であることは,上の論理式に従って証明する場合が多い.

そして,$A$に最大値や最小値が存在するとき,その値はそれぞれ$A$の上限・下限でもある.これについては後述する.

上限と下限のイメージ・例

具体的な$\mathbb{R}$の空でない部分集合を通して,上界・下界を確認しよう.

図20

まず,$A=[-1,2]=\{ x\mid -1\le x\le 2\}$とおく.$A$の上界全体の集合を$U(A)$,下界全体の集合を$L(A)$とすると,$U(A)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$であり,$L(A)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.

図21

次に,$B=(-1,2]=\{ x\mid -1<x\le 2\}$とおく.$B$の上界全体の集合を$U(B)$,$B$の下界全体の集合を$L(B)$とすると,$U(B)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$であり,$L(B)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.

図22

さらに,$C=[-1,2)=\{ x\mid -1\le x<2\}$とおく.$C$の上界全体の集合を$U(C)$,$C$の下界全体の集合を$L(C)$とすると,$U(C)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$であり,$L(C)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.

図23

そして,$D=(-1,2)=\{ x\mid -1<x<2\}$とおく.$D$の上界全体の集合を$U(D)$,$D$の下界全体の集合を$L(D)$とすると,$U(D)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$であり,$L(D)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.


以上より,$A,B,C,D$の上界全体の集合と下界全体の集合がすべて等しいことが分かる.よって,$A,B,C,D$には上限及び下限が存在する.$A,B,C,D$の上限は$U(A),U(B),U(C),U(D)$の最小値で,$\sup A=\sup B=\sup C=\sup D=2$である.また,$A$の下限は$L(A),L(B),L(C),L(D)$の最大値で,$\inf A=\inf B=\inf C=\inf D=-1$である.

また,次のような集合の場合も,同様に上限・下限の存在性を確認することができる.

図24

$E=(-\infty ,2]=\{ x\mid x\le 2\}$の上界全体の集合を$U(E)$とすると,$U(E)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$である.よって,$E$に上限が存在し,$\sup E=2$である.また,$E$の下界は存在しないから,$E$の下限も存在しない.

図25

$F=(-\infty ,2)=\{ x\mid x<2\}$の上界全体の集合を$U(F)$とすると,$U(F)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\ge 2\}$である.よって,$F$に上限が存在し,$\sup F=2$である.また,$F$の下界は存在しないから,$F$の下限も存在しない.

図26

$G=[-1,\infty )=\{ x\mid x\ge -1\}$の下界全体の集合を$L(G)$とすると,$L(G)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.よって,$G$に下限が存在し,$\inf G=-1$である.また,$G$の上界は存在しないから,$G$の上限も存在しない.

図27

$H=(-1,\infty )=\{ x\mid x>-1\}$の下界全体の集合を$L(H)$とすると,$L(H)=\{ x\in \mathbb{R}\mid x\le -1\}$である.よって,$H$に下界が存在し,$\inf H=-1$である.また,$H$の上界は存在しないから,$H$の上限も存在しない.


図28

まとめると,空でない$\mathbb{R}$の部分集合$I$に対し,$I$の上限及び下限が存在するならば,それは上図のようになる.もちろん,$I$が一つの繋がった区間を表していたり,一つの繋がった区間が複数合わさった集合を表していたりすることに注意が必要である.

上限と下限の一意性

上限・下限が複数存在することはない.当たり前に感じるかもしれないが,数学において,このような一意性は非常に重要である.ここでは,その厳密な証明を与えることとする.

命題5

$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合とする.

  • $A$に上限が存在するとき,$A$の上限は一意的である.
  • $A$に下限が存在するとき,$A$の下限は一意的である.
  • $\alpha ,\beta$を$A$の上限とする.
    $\alpha <\beta$のとき,定義より,任意の$\varepsilon >0$に対し,ある$a\in A$が存在し
    \[ \alpha -\varepsilon <\beta -\varepsilon <a\le \alpha <\beta \]
    ここで,$\varepsilon =\beta -\alpha >0$とおくと$\beta -\varepsilon <a\le \alpha$より$\alpha <a\le \alpha$,すなわち$\alpha <\alpha$となり矛盾.よって,$\alpha \ge \beta$
    同様に,$\alpha >\beta$のときも矛盾するから1,$\alpha =\beta \blacksquare$
  • $\alpha ,\beta$を$A$の下限とする.
    $\alpha <\beta$のとき,定義より,任意の$\varepsilon >0$に対し,ある$a\in A$が存在し
    \[ \alpha <\beta \le a<\alpha +\varepsilon <\beta +\varepsilon \]
    ここで,$\varepsilon =\beta -\alpha >0$とおくと$\beta \le a<\alpha +\varepsilon$より$\beta \le a<\beta$,すなわち$\beta <\beta$となり矛盾.よって,$\alpha \ge \beta$
    同様に,$\alpha >\beta$のときも矛盾するから,$\alpha =\beta \blacksquare$

上限・下限と最大値・最小値

最大値・最小値が,それぞれ上限・下限になりうることは,先に述べたが,ここではその証明を与えることにする.

命題6

$A$を$\mathbb{R}$の空でない部分集合とする.

  1. $A$に最大値$\max A$が存在するとき,$\max A$は$A$の上限である.
  2. $A$に最小値$\min A$が存在するとき,$\min A$は$A$の下限である.
  • 最大値の定義より,任意の$x\in A$に対し,$x\le \max A$
    また,任意の$\varepsilon >0$に対し,$\max A-\varepsilon <\max A$
    $\max A\in A$であるから,定義より,$\max A$は$A$の上限である.$\blacksquare$
  • 最小値の定義より,任意の$x\in A$に対し,$\min A\le x$
    また,任意の$\varepsilon >0$に対し,$\min A<\min A+\varepsilon$
    $\min A\in A$であるから,定義より,$\min A$は$A$の下限である.$\blacksquare$
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