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命題

すべての数学の土台となる「命題」の論理についてまとめた.


命題

論理学における命題は,次のように説明される.

定義11

正しいか正しくないかが客観的に判断できる主張を命題(proposition)という.

命題が正しいとき,その命題は(true)であるといい,命題が正しくないとき,その命題は(false)であるという.

命題の真偽を決めるものをその命題の条件という.

主張が正しいとは,主張が「誰の目から見ても,客観的に常に成り立っている」ということであり,主張が正しくないとは,「誰の目から見ても,客観的に常には成り立っていない(主張が成り立たないような例外がある)」ということである.

例1

主張$P,Q,R,S$を次のように定義する.

  • $P$;$1$は$2$より小さい.
  • $Q$:$3$は偶数である.
  • $R$:$10000$は大きい整数である.
  • $S$:$x$は$1$である.

まず,主張$P$について考える.$P$の内容は常に正しいから,$P$は真の命題である.

次に,主張$Q$について考える.$Q$の内容は常に正しくない($3$は奇数である)から,$Q$は偽の命題である.

また,主張$R$について考える.$R$の内容は見る人によって異なる(「$10000$は大きい」と認識する人もいれば,「$10000$は大きくない」と認識する人もいる.「大きい」という表現は明確に定義されたものではなく,主観を伴う表現である)から,$R$は命題でない.

さらに,主張$S$について考える.$S$の内容は,$x=1$のとき正しく,$x\neq 1$のとき正しくない.よって,$S$は$x$の値によって正しいか正しくないかが客観的に判断できるため命題である.

命題には,次の3つの性質がある.

公理21

命題は次の3つの性質を満たす.

  • (同一律(law of identity))命題$P$は$P$である.
  • (無矛盾律(law of noncontradiction))「命題$P$が真」かつ「命題$P$が偽」となることはない.
  • (排中律(law of excluded middle))「命題$P$が真でない」かつ「命題$P$が偽でない」となることはない.

論理積と論理和

次に,複数の命題から,新たな命題を作ってみよう.

定義2

$P,Q$を命題とする.

「$P$が真」かつ「$Q$が真」であるときに真であり,そうでないときに偽である命題を$P$と$Q$の論理積(logical conjunction)といい,$P\land Q$で表し,$P$かつ$Q$と読む.

「$P$が偽」かつ「$Q$が偽」であるときに偽であり,そうでないときに真である命題を$P$と$Q$の論理和(logical disjunction)といい,$P\lor Q$で表し,$P$または$Q$と読む.

例2

命題$P,Q$を次のように定義する.

  • $P$;$1$は$2$より小さい.
  • $Q$:$1$は奇数である.

このとき

  • $P\land Q$:$1$は$2$より小さい奇数である.
  • $P\lor Q$:$1$は$2$より小さいか奇数である.

ここで,命題の真偽を整理するための表として,真理値表(truth table)を導入しよう.

真理値表では,命題が真であることをTで表し,偽であることをFで表す(これを真理値(truth value)という).例えば,$P\land Q$と$P\lor Q$を真理値表で整理すると,定義2より次のようになる.

$P$$Q$$P\land Q$$P\lor Q$
TTTT
TFFT
FTFT
FFFF

今,2つの命題$P,Q$を考えている.$P,Q$の真偽の組み合わせとして考えられる$2^2=4$通りのすべての場合を表に書き込み,それぞれの$P,Q$の真偽の組み合わせの場合において,$P\land Q$や$P\lor Q$の真偽を書き込むことにより,上のような真理値表を得る.

否定

単一の命題からも,新たな命題を作ることができる.

定義3

$P$を命題とする.

$P$が真のときに偽であり,$P$が偽のときに真である命題を$P$の否定(negation)といい,$\lnot P$(または$\overline{P}$,$!P$)で表し,$P$でないと読む.

例3

命題$P$を次のように定義する.

  • $P$;$1$は$2$より小さい.

このとき

  • $\lnot P$:$1$は$2$以上である.

真理値表で確認しよう.

$P$$\lnot P$
TF
FT

ここで,命題の演算である論理和・論理積と否定については,否定を優先して演算することにしよう.

例4

$P,Q$を命題とする.

$\lnot P\land Q$は$(\lnot P)\land Q$のことを指し,$\lnot (P\land Q)$と区別する.

論理包含

論理和と否定を用いて作られる重要な命題を取り上げよう.

定義4

$P,Q$を命題とする.

命題$\lnot P\lor Q$を$P$と$Q$に対する論理包含(implication)といい,$P\implies Q$で表し,$P$ならば$Q$と読む.

真理値表で確認してみよう.

$P$$Q$$\lnot P$$P\implies Q$
($\lnot P\lor Q$)
TTFT
TFFF
FTTT
FFTT

つまり,$P\implies Q$は「$P$が真」かつ「$Q$が偽」のときに偽であり,そうでないときに真である命題である.

定義5

$P,Q$を命題とする.命題$P\implies Q$に対し,命題
\[ Q\implies P\]
を$P\implies Q$の(converse),命題
\[ \lnot P\implies \lnot Q\]
を$P\implies Q$の(inverse),命題
\[ \lnot Q\implies \lnot P\]
を$P\implies Q$の対偶(contraposition)という.

同値

定義6

$P,Q$を命題とする.

「$P\implies Q$が真」かつ「$Q\implies P$が真」のとき,$P$と$Q$は同値(if and only if, iff)であるといい,$P\iff Q$で表す.

真理値表で整理すると次のようになる.

$P$$Q$$\lnot P$$\lnot Q$$P\implies Q$
($\lnot P\lor Q$)
$Q\implies P$
($\lnot Q\lor P$)
$P\iff Q$
($P\implies Q\land Q\implies P$)
TTFFTTT
TFFTFTF
FTTFTFF
FFTTTTT

すなわち,$P\iff Q$は,$P$と$Q$の真偽が一致するときに真となり,そうでないときに偽となる命題である.

よって,$P\iff Q$が成り立つとき,$P$の代わりに$Q$を考えたり,$Q$の代わりに$P$を考えても良いということである.

定義7

$P,Q$を命題とする.

命題$P\implies Q$が真であるとき,$Q$は$P$であるための必要条件(necessary condition)であるといい,$P$は$Q$であるための十分条件(sufficient condition)であるという.

命題$P\iff Q$が真であるとき,$P$は$Q$であるための($Q$は$P$であるための)必要十分条件(necessary and sufficient condition)であるという.

例5

$P$を命題とする.
\[ P\iff \lnot (\lnot P)\tag{1}\]
を示す.

$P$$\lnot P$$\lnot (\lnot P)$$\lnot (\lnot (\lnot P))$$P\implies \lnot (\lnot P)$
($\lnot P\lor \lnot (\lnot P)$)
$\lnot (\lnot P)\implies P$
($\lnot (\lnot (\lnot P))\lor P$)
$P\iff \lnot (\lnot P)$
($(P\implies \lnot (\lnot P))\land (\lnot (\lnot P)\implies P)$)
TFTFTTT
FTFTTTT

上の真理値表より,$P$の真偽に関わらず,常に$(1)$は真であるから示された.


【別証】

$P$$\lnot P$$\lnot (\lnot P)$
TFT
FTF

上の真理値表をみると,$P$と$\lnot (\lnot P)$の真偽は常に一致するから,$(1)$が従う.

命題$P,Q$が同値であるとは,$P$と$Q$の真偽が常に一致することを指すから,$P\iff Q$を真理値表を用いて示す場合,$P$の真偽と$Q$の真偽が一致することを確認すれば十分である.

例6

命題$P,Q$を次のように定義する.

  • $P$;$1$は$2$の倍数でない.
  • $Q$:$1$は奇数である.

このとき,$P$は真,$Q$は真であり,次のような論理包含の真偽が成り立つ.

  • $P\implies Q$,すなわち$\lnot P\lor Q$は真である($Q$は真).
  • $\lnot P\implies Q$,すなわち$\lnot (\lnot P)\lor Q$は真である($\lnot (\lnot P),Q$は真).
  • $P\implies \lnot Q$,すなわち$\lnot P\lor \lnot Q$は偽である($\lnot P,\lnot Q$は真).
  • $\lnot P\implies \lnot Q$,すなわち$\lnot (\lnot P)\lor \lnot Q$は真である($\lnot (\lnot P)$は真).
  1. 命題を明確に説明したものではないため,定義と呼ぶべきではないかもしれない. ↩︎
  2. 論理学としての命題の性質であり,公理と呼ぶべきではないかもしれない. ↩︎
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