全称命題と存在命題の定義と,その否定についてまとめた.
全称記号
次の命題$P$を考える.
$P$:$n$が正の整数$\implies n>0$
$n$が正の整数であることと,$n$が$1,2,\dots $のいずれかと等しいことは同値であるから,$P$は次の命題
\[(n=1\lor n=2\lor \dots )\implies n>0\]
と同値である.これをさらに同値変形してみよう.
\[\begin{array}{lll}&(n=1\lor n=2\lor \dots )\implies n>0&\\ \iff &\lnot (n=1\lor n=2\lor \dots )\lor n>0&論理包含の定義\\ \iff &(n\neq 1\land n\neq 2\land \dots )\lor n>0&ド・モルガンの法則\\ \iff &(n\neq 1\lor n>0)\land (n\neq 2\lor n>0)\land \dots &分配法則\\ \iff &(n=1\implies n>0)\land (n=2\implies n>0)\land \dots &論理包含の定義\end{array}\]
つまり,$P$は次の命題
\[ Q:(n=1\implies n>0)\land (n=2\implies n>0)\land \dots \]
と同値である.
この命題を表記するとき,いずれも記号「$\implies$」が入っている.複雑な命題になると,記号「$\implies$」の数が増え,読みにくくなってしまう恐れがある.この命題を簡潔に表記するために,新たな記号を導入しよう.
例えば,正の整数全体の集合を$\mathbb{N}$で表すことにすると,命題$P$及び$Q$は次のように表される.
\[ \forall n(n\in \mathbb{N}),n>0\]
特に,次のように省略して表すことが多い.
\[ \forall n\in \mathbb{N},n>0\]
読み方は「任意の正の整数$n$に対して,$n>0$が成り立つ」などである.
存在記号
次の命題$P^{\prime}$を考える.
$P^{\prime}$:$\lnot$($n$が正の整数$\implies n>1)$
$n$が正の整数であることと,$n$が$1,2,\dots $のいずれかと等しいことは同値であるから,$P^{\prime}$は次の命題
\[\lnot ((n=1\lor n=2\lor \dots )\implies n>1)\]
と同値である.これをさらに同値変形してみよう.
\[\begin{array}{lll}&\lnot ((n=1\lor n=2\lor \dots )\implies n>1)&\\ \iff &\lnot (\lnot (n=1\lor n=2\lor \dots )\lor n>1)&論理包含の定義\\ \iff &\lnot ((n\neq 1\land n\neq 2\land \dots )\lor n>1)&ド・モルガンの法則\\ \iff &\lnot ((n\neq 1\lor n>1)\land (n\neq 2\lor n>1)\land \dots )&分配法則\\ \iff &\lnot ((n=1\implies n>1)\land (n=2\implies n>1)\land \dots )&論理包含の定義\\ \iff &\lnot (n=1\implies n>1)\lor \lnot (n=2\implies n>1)\lor \dots &ド・モルガンの法則\end{array}\]
つまり,$P^{\prime}$は次の命題
\[ Q^{\prime}:\lnot (n=1\implies n>1)\lor \lnot (n=2\implies n>1)\lor \dots \]
と同値である.
この命題を表記するとき,いずれも記号「$\implies$」が入っている.複雑な命題になると,記号「$\implies$」の数が増え,読みにくくなってしまう恐れがある.この命題を簡潔に表記するために,新たな記号を導入しよう.
例えば,先程と同様に正の整数全体の集合を$\mathbb{N}$で表すことにすると,命題$P^{\prime}$及び$Q^{\prime}$は次のように表される.
\[ \exists n(n\in \mathbb{N})\ \mathrm{s.t.}\ n\le 1\]
特に,次のように省略して表すことが多い.
\[ \exists n\in \mathbb{N}\ \mathrm{s.t.}\ n\le 1\]
また,$\rm s.t.$は省略することがある.
\[ \exists n\in \mathbb{N},n\le 1\]
読み方は「ある正の整数$n$が存在して,$n\le 1$となる」などである.
唯一存在記号
全称記号と存在記号を用いて,唯一存在記号を定義しよう.
唯一存在記号は,存在記号に「$\forall y(P(y)\land Q(y)),x=y$」という条件を付け加えたものである.
全称命題・存在命題の否定
以下,$P,Q$を条件とし,$x$が条件$P,Q$を満たすことを,それぞれ$P(x),Q(x)$で表すことにする.
まずは,全称命題の否定について考えよう.
\[ \begin{array}{lll}&\lnot (\forall x(P(x)),Q(x))&\\ \iff &\lnot (P(x)\implies Q(x))&定義1\\ \iff &\lnot (P(x)\implies \lnot (\lnot Q(x)))&二重否定の導入\\ \iff &\exists x(P(x)),\lnot Q(x)&定義2\end{array}\]
よって,示された.$\blacksquare$
次に,存在命題の否定について考えよう.
\[ \begin{array}{lll}&\lnot (\forall x(P(x)),Q(x))&\\ \iff &\lnot (\lnot (P(x)\implies \lnot Q(x)))&定義2\\ \iff &P(x)\implies \lnot Q(x)&二重否定の除去\\ \iff &\forall x(P(x)),\lnot Q(x)&定義1\end{array}\]
よって,示された.$\blacksquare$
つまり,全称命題を否定すると存在命題になり,存在命題を否定すると全称命題になる.全称命題や存在命題を否定するときは,$\forall$と$\exists$を入れ替えて,結論を否定すればよい.
これは,全称記号と存在記号が複合した命題についても成り立つ.
否定のまとめ
命題の否定の方法をまとめておこう.
命題 | 否定 |
---|---|
$P$ | $\lnot P$ |
$P\land Q$ | $\lnot P\lor \lnot Q$ |
$P\lor Q$ | $\lnot P\land \lnot Q$ |
$\lnot P$ | $P$ |
$P\implies Q$ | $P\land \lnot Q$ |
$\forall x(P(x)),Q(x)$ | $\exists x(P(x))\ \mathrm{s.t.}\ \lnot Q(x)$ |
$\exists x(P(x))\ \mathrm{s.t.}\ Q(x)$ | $\forall x(P(x)),\lnot Q(x)$ |
これらは,様々な形の命題が組み合わさった複合命題の否定にも適用できる.スラスラできるようになるまで,命題の否定に慣れていこう.
- ここでの命題は,論理学でいう「真偽が定まる主張」のことを指すのではなく,数学でいう「真である主張」のことを指す. ↩︎