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1998年度 東大理系数学 第4問

問題

実数$a$に対して$k\leqq a<k+1$をみたす整数$k$を$[a]$で表す.$n$を正の整数として
\[ f(x)=\frac{x^2(2\cdot 3^3\cdot n-x)}{2^5\cdot 3^3\cdot n^2}\]
とおく.$36n+1$個の整数$[f(0)],[f(1)],[f(2)],\dots ,[f(36n)]$のうち相異なるものの個数を$n$を用いて表せ.

(1998年度 東京大学 理系 前期 第4問)

当記事で紹介する解答は東京大学が示した解答ではありません.

【背景知識】ガウス記号

実数$x$に対して,$n\leqq x<n+1$となる整数$n$を$x$の整数部分といい,$[x]$で表す.また,記号$[]$をガウス記号という.

すなわち$[x]=n$であるから,次の不等式が成り立つ.
\[ \tag{1} [x]\leqq x<[x]+1\]
辺々から$1$を引くと
\[ \tag{2} [x]-1\leqq x-1<[x]\]
$(1),(2)$より
\[ x-1<[x]\leqq x<[x]+1\]

また,$x$の床関数$\lfloor x\rfloor$,$x$の天井関数$\lceil x\rceil$を次のように定める.
\[ \lfloor x\rfloor =[x]\]
\[ \lceil x\rceil =[x]+1\]
$(1)$より
\[ \lfloor x\rfloor \leqq x<\lceil x\rceil \]

【大学入試】整数部分の解法
  • 不等式を利用する:$x$を実数とすると,$x$の整数部分$[x]$は次のような不等式を満たす.
    \[ x-1<[x]\leqq x<[x]+1\]
【大学入試】整数問題の解法
  • 積の形を作る:因数分解などで整数と整数の積の形を作る
    →素因数分解の一意性を利用する
  • 剰余に注目する:合同式などを用いて整数で割ったときの余りを考える
    →剰余で整数を絞り込む
  • 不等式で範囲を絞り込む:大小関係を定めて不等式を作る
    →不等式で整数を絞り込む

一見整数問題のようにも見えるが,$f(0),f(1),f(2),\dots f(36n)$自体は整数とは限らないため,関数の問題と考える必要がある.整数部分をどう処理するかが問題を解く鍵となりそうだ.

まずは実験してみよう.
\[ f(0)=0\]
\[ f(1)=\frac{2\cdot 3^3\cdot n-1}{2^5\cdot 3^3\cdot n^2}\]
\[ f(2)=\frac{3^3\cdot n-1}{2^2\cdot 3^3\cdot n^2}\]
\[ f(3)=\frac{2\cdot 3^2\cdot n-1}{2^5\cdot n^2}\]
実験してみると,$n$が残るため分かりづらい.そこで,$x$に$n$の倍数を代入してみよう.
\[ f(n)=\frac{(2\cdot 3^3-1)n}{2^5\cdot 3^3}=\frac{53}{864}n\]
\[ f(2n)=\frac{(3^3-1)n}{2^2\cdot 3^3}=\frac{13}{54}n\]
\[ f(3n)=\frac{(2\cdot 3^2-1)n}{2^5}=\frac{17}{32}n\]
以上の実験から,$f$は単調増加なのではないかと予想できる.

【大学入試】関数の性質を調べる解法
  • 零点を探す:$f(x)=0$を満たす$x$を求める
    →方程式$f(x)=0$を解く
  • 極値・変曲点を求める:極値と極値をとる$x$の値,変曲点の座標を求める
    →微分して増減表を書き,定義域の端点の値に注目する
  • 微分して増減表を書く:1回微分で極値,2回微分でグラフの凹凸を求める
    →グラフを描画する
  • 数学的帰納法を用いる:定義域が整数である関数や漸化式が与えられた関数に対して有効
    →うまい式変形が見つかりそうになければ方針変更
  • 極限値・漸近線を求める:定義域の端点の値や不連続点,無限遠点の値を求める
    →より精度の高いグラフの描画,極限への応用
  • 不等式評価する:異なる関数で上や下から評価する
    →はさみうちの原理などへの応用

$f$の単調増加性を示すためには,微分することがまず思いつくが,今回考えているのは$f$に整数を代入したときの値であるから,数学的帰納法でも示せそうな気がする.
ただし,数学的帰納法を用いるときに必要な式変形が複雑になりそうな予感がするため,ここでは微分で示すことにしよう.

$f^{\prime}(x)$を求めると
\[ f^{\prime}(x)=\frac{2x(2\cdot 3^3\cdot n-x)-x^2}{2^5\cdot 3^3\cdot n^2}=\frac{x(36n-x)}{2^5\cdot 3^2\cdot n^2}\]
よって,$x(36n-x)>0$であれば,$f^{\prime}(x)>0$となり,$f$は単調増加であることが分かる.
$x(36n-x)>0$を解くと$0<x<36n$となるが,今回$f(0),f(1),f(2),\dots f(36n)$を考えているため,$f(0),f(36n)$を除いた$f(1),f(2),f(3),\dots f(36n-1)$は単調増加であることが分かる.また,$f^{\prime}(0)=f^{\prime}(36n)=0$であることから,$f(0),f(1),f(2),\dots f(36n)$は単調増加である.

これで$f(0),f(1),f(2),\dots f(36n)$が単調増加であることが分かったが,$f$を微分することによって$36n$までを考えている理由が明らかになった.念の為$f(36n)$を計算してみると
\[ f(36n)=27n\]
となるから,求めたい$[f(0)],[f(1)],[f(2)],\dots ,[f(36n)]$のうち相異なるものの個数は$27n+1$以下であることが分かる.

さて,ここからが本題である.今回知りたいのは,$[f(0)],[f(1)],[f(2)],\dots ,[f(36n)]$のうち相異なるものの個数である.

例えば,実数$x,y$について,$[x],[y]$が一致するのはどのような場合だろうか.
整数部分に関して成り立つ不等式
\[x-1<[x]\leqq x<[x]+1,\quad y-1<[y]\leqq y<[y]+1\]
を考えると,$[x]=[y]$ならば
\[-1=[x]-([y]+1)< x-y<([x]+1)-[y]=1\]
である.よって,$[x]=[y]$が成り立つためには,少なくとも$-1<x-y<1$である必要がある.
しかし,この逆は成り立たない.つまり,$-1<x-y<1$であっても,$[x]=[y]$が成り立つとは限らない.
例えば,$x=1.3,y=0.8$とすると,$x-y=0.5$であるが,$[x]=1,[y]=0$となってしまう.
よって,今分かったことは「$[x]=[y]$ならば$-1<x-y<1$」ということだけである.この命題の対偶をとると,「$x-y\leqq -1$と$1\leqq x-y$のいずれかが成り立つならば,$[x]\neq [y]$」も真となる.

ただし,$-1<x-y<1$のとき,$[x]-[y]$は$0,\pm 1$のいずれかの値をとる.実際
\[ -2<x-y-1=(x-1)-y<[x]-[y]<x-(y-1)=x-y+1<2\]
であるから,$[x]$と$[y]$は一致するか(整数として)連続するかのいずれかである.

これを踏まえると,$k$を$0$以上$36n$未満の整数とするとき,$f$の単調増加性に注意すると,$[f(k)]$と$[f(k+1)]$は
\[ f(k+1)-f(k)\geqq 1\]
のとき異なるということが分かる.
そこで,上の不等式が成り立つような$k$の範囲を調べてみよう.
\[ f(k+1)-f(k)=\frac{f(k+1)-f(k)}{(k+1)-k}\]
と考えると,平均値の定理が連想される.

【復習】平均値の定理

関数$f(x)$が閉区間$[a,b]$で連続で,開区間$(a,b)$で微分可能ならば
\[ \frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f^{\prime}(c),\quad a<c<b\]
を満たす実数$c$が存在する.

先の議論により,関数$f(x)$は閉区間$[0,36n]$で連続で,開区間$(0,36n)$で微分可能である.よって,$f(x)$は閉区間$[k,k+1]$で連続で,開区間$(k,k+1)$で微分可能であるから,平均値の定理より
\[ f(k+1)-f(k)=f^{\prime}(c),\quad k<c<k+1\]
を満たす実数$c$が存在する.特に
\[ \tag{A}f(k+1)-f(k)\geqq 1\]
であるならば,$f^{\prime}(c)\geqq 1$であるから,このような$c$の範囲を考えるところから始めよう.
\[ f^{\prime}(c)=\frac{c(36n-c)}{2^5\cdot 3^2\cdot n^2}\geqq 1\]
すなわち
\[ c^2-36nc+288n^2=(c-12n)(c-24n)\leqq 0\]
を解くと$12n\leqq c\leqq 24n$となる.さて,$k<c<k+1$であるから,$k=[c]$
よって,$12n\leqq k<24n$のとき$(A)$が成り立つから
\[ [f(12n)],[f(12n+1)],\dots ,[f(24n)]\]
は相異なる.

一方,$0<x<12n,24n<x<36n$のとき
\[ 0<f^{\prime}(x)<1\]
であるから,$0\leqq k<12n,24n\leqq k<36n$のとき,平均値の定理より
\[ f(k+1)-f(k)=\frac{f(k+1)-f(k)}{(k+1)-k}=f^{\prime}(c),\quad k<c<k+1\]
を満たす実数$c$が存在する.このとき$0<c<12n,24n<c<36n$であるから
\[ f(k+1)-f(k)=f^{\prime}(c)<1\]
このとき,先の議論により
\[ 0\leqq [f(k+1)]-[f(k)]\leqq 1\]
すなわち$[f(k)]$と$f(k+1)]$は一致するか(整数として)連続するかのいずれかである.

ここまでの議論をまとめよう.
\[ f(0)=0,\quad f(12n)=7n,\quad f(24n)=20n,\quad f(36n)=27n\]
より
\[ \tag{B} [f(0)],[f(1)],[f(2)],\dots ,[f(12n)]\]
は隣り合う数が等しいか差が$1$であるかのいずれかであるから,$7n+1$個の相異なる整数からなる.
\[ \tag{C} [f(12n)],[f(12n+1)],\dots ,[f(24n)]\]
はすべて相異なるから,$12n+1$個の相異なる整数からなる.
\[ \tag{D} [f(24n)],[f(12n+1)],\dots ,[f(36n)]\]
は隣り合う数が等しいか差が$1$であるかのいずれかであるから,$7n+1$個の相異なる整数からなる.
$\rm (B),(C),(D)$で重複して数えている$[f(12n)],[f(24n)]$に注意すると,求める個数は
\[ (7n+1)+(12n+1)+(7n+1)-2=26n+1(個)\]
となる.

この問題は,平均値の定理を利用する珍しい問題である.記述に注意して以上の議論を解答にまとめよう.

解答

難易度:★★★★☆

\[ f^{\prime}(x)=\frac{2x(2\cdot 3^3\cdot n-x)-x^2}{2^5\cdot 3^3\cdot n^2}=\frac{x(36n-x)}{2^5\cdot 3^2\cdot n^2}\]
よって,$f^{\prime}(x)\geqq 0$となる$0\leqq x\leqq 36n$の範囲において,$f$は単調増加である.

$k$を$0$以上$36n$未満の整数とする.
$f$は閉区間$[0,36n]$で連続で,開区間$(0,36n)$で微分可能である.特に,$f$は閉区間$[k,k+1]$で連続で,開区間$(k,k+1)$で微分可能であるから,平均値の定理より
\[ f(k+1)-f(k)=f^{\prime}(c),\quad k<c<k+1\]
を満たす実数$c$が存在する.

$12n\leqq k<24n$のとき,$k<c<k+1$であるから,$12n<c<24n$となる.このとき,$c$は
\[ f^{\prime}(c)=\frac{c(36n-c)}{2^5\cdot 3^2\cdot n^2}>1\]
すなわち
\[ c^2-36nc+288n^2=(c-12n)(c-24n)>0\]
を満たす.よって
\[ f(k+1)-f(k)=f^{\prime}(c)>1\]
となるから
\[ [f(k+1)]-[f(k)]>\{ f(k+1)-1\} -f(k)=f(k+1)-f(k)-1>0\]
より
\[ [f(k)]\neq [f(k+1)]\]
すなわち
\[ \tag{A} [f(12n)],[f(12n+1)],\dots ,[f(24n)]\]
は相異なる.ゆえに,$\rm (A)$は$24n-12n+1=12n+1$個の相異なる整数からなる.

$0\leqq k<12n,24n\leqq k<36n$のとき,$k<c<k+1$であるから,$0<c<12n,24n<c<36n$となる.このとき,$c$は
\[ f^{\prime}(c)=\frac{c(36n-c)}{2^5\cdot 3^2\cdot n^2}<1\]
すなわち
\[ c^2-36nc+288n^2=(c-12n)(c-24n)<0\]
を満たす.よって$f$の単調増加性より
\[ 0\leqq f(k+1)-f(k)=f^{\prime}(c)<1\]
となるから
\[ [f(k+1)]-[f(k)]>\{ f(k+1)-1\} -f(k)=f(k+1)-f(k)-1\geqq -1\]
\[ [f(k+1)]-[f(k)]<f(k+1)-\{ f(k)-1\} =f(k+1)-f(k)+1<2\]
より
\[ 0\leqq [f(k+1)]-[f(k)]\leqq 1\]
すなわち
\[ [f(k)]=[f(k+1)]\quad または\quad [f(k)]+1=[f(k+1)]\]
したがって
\[ \tag{B} [f(0)],[f(1)],[f(2)],\dots ,[f(12n)]\]
$\rm (B)$は$[f(12n)]-[f(0)]+1=7n-0+1=7n+1$個の相異なる整数からなる.
\[ \tag{C} [f(24n)],[f(12n+1)],\dots ,[f(36n)]\]
$\rm (C)$は$[f(36n)]-[f(24n)]+1=27n-20n+1=7n+1$個の相異なる整数からなる.

以上より,求める個数は
\[ (7n+1)+(12n+1)+(7n+1)-2={\color{red}26n+1(個)}\]

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