当記事で紹介する解答は東京大学が示した解答ではありません.
一見整数問題のようにも見えるが,$f(0),f(1),f(2),\dots f(36n)$自体は整数とは限らないため,関数の問題と考える必要がある.整数部分をどう処理するかが問題を解く鍵となりそうだ.
まずは実験してみよう.
\[ f(0)=0\]
\[ f(1)=\frac{2\cdot 3^3\cdot n-1}{2^5\cdot 3^3\cdot n^2}\]
\[ f(2)=\frac{3^3\cdot n-1}{2^2\cdot 3^3\cdot n^2}\]
\[ f(3)=\frac{2\cdot 3^2\cdot n-1}{2^5\cdot n^2}\]
実験してみると,$n$が残るため分かりづらい.そこで,$x$に$n$の倍数を代入してみよう.
\[ f(n)=\frac{(2\cdot 3^3-1)n}{2^5\cdot 3^3}=\frac{53}{864}n\]
\[ f(2n)=\frac{(3^3-1)n}{2^2\cdot 3^3}=\frac{13}{54}n\]
\[ f(3n)=\frac{(2\cdot 3^2-1)n}{2^5}=\frac{17}{32}n\]
以上の実験から,$f$は単調増加なのではないかと予想できる.
$f$の単調増加性を示すためには,微分することがまず思いつくが,今回考えているのは$f$に整数を代入したときの値であるから,数学的帰納法でも示せそうな気がする.
ただし,数学的帰納法を用いるときに必要な式変形が複雑になりそうな予感がするため,ここでは微分で示すことにしよう.
$f^{\prime}(x)$を求めると
\[ f^{\prime}(x)=\frac{2x(2\cdot 3^3\cdot n-x)-x^2}{2^5\cdot 3^3\cdot n^2}=\frac{x(36n-x)}{2^5\cdot 3^2\cdot n^2}\]
よって,$x(36n-x)>0$であれば,$f^{\prime}(x)>0$となり,$f$は単調増加であることが分かる.
$x(36n-x)>0$を解くと$0<x<36n$となるが,今回$f(0),f(1),f(2),\dots f(36n)$を考えているため,$f(0),f(36n)$を除いた$f(1),f(2),f(3),\dots f(36n-1)$は単調増加であることが分かる.また,$f^{\prime}(0)=f^{\prime}(36n)=0$であることから,$f(0),f(1),f(2),\dots f(36n)$は単調増加である.
これで$f(0),f(1),f(2),\dots f(36n)$が単調増加であることが分かったが,$f$を微分することによって$36n$までを考えている理由が明らかになった.念の為$f(36n)$を計算してみると
\[ f(36n)=27n\]
となるから,求めたい$[f(0)],[f(1)],[f(2)],\dots ,[f(36n)]$のうち相異なるものの個数は$27n+1$以下であることが分かる.
さて,ここからが本題である.今回知りたいのは,$[f(0)],[f(1)],[f(2)],\dots ,[f(36n)]$のうち相異なるものの個数である.
例えば,実数$x,y$について,$[x],[y]$が一致するのはどのような場合だろうか.
整数部分に関して成り立つ不等式
\[x-1<[x]\leqq x<[x]+1,\quad y-1<[y]\leqq y<[y]+1\]
を考えると,$[x]=[y]$ならば
\[-1=[x]-([y]+1)< x-y<([x]+1)-[y]=1\]
である.よって,$[x]=[y]$が成り立つためには,少なくとも$-1<x-y<1$である必要がある.
しかし,この逆は成り立たない.つまり,$-1<x-y<1$であっても,$[x]=[y]$が成り立つとは限らない.
例えば,$x=1.3,y=0.8$とすると,$x-y=0.5$であるが,$[x]=1,[y]=0$となってしまう.
よって,今分かったことは「$[x]=[y]$ならば$-1<x-y<1$」ということだけである.この命題の対偶をとると,「$x-y\leqq -1$と$1\leqq x-y$のいずれかが成り立つならば,$[x]\neq [y]$」も真となる.
ただし,$-1<x-y<1$のとき,$[x]-[y]$は$0,\pm 1$のいずれかの値をとる.実際
\[ -2<x-y-1=(x-1)-y<[x]-[y]<x-(y-1)=x-y+1<2\]
であるから,$[x]$と$[y]$は一致するか(整数として)連続するかのいずれかである.
これを踏まえると,$k$を$0$以上$36n$未満の整数とするとき,$f$の単調増加性に注意すると,$[f(k)]$と$[f(k+1)]$は
\[ f(k+1)-f(k)\geqq 1\]
のとき異なるということが分かる.
そこで,上の不等式が成り立つような$k$の範囲を調べてみよう.
\[ f(k+1)-f(k)=\frac{f(k+1)-f(k)}{(k+1)-k}\]
と考えると,平均値の定理が連想される.
先の議論により,関数$f(x)$は閉区間$[0,36n]$で連続で,開区間$(0,36n)$で微分可能である.よって,$f(x)$は閉区間$[k,k+1]$で連続で,開区間$(k,k+1)$で微分可能であるから,平均値の定理より
\[ f(k+1)-f(k)=f^{\prime}(c),\quad k<c<k+1\]
を満たす実数$c$が存在する.特に
\[ \tag{A}f(k+1)-f(k)\geqq 1\]
であるならば,$f^{\prime}(c)\geqq 1$であるから,このような$c$の範囲を考えるところから始めよう.
\[ f^{\prime}(c)=\frac{c(36n-c)}{2^5\cdot 3^2\cdot n^2}\geqq 1\]
すなわち
\[ c^2-36nc+288n^2=(c-12n)(c-24n)\leqq 0\]
を解くと$12n\leqq c\leqq 24n$となる.さて,$k<c<k+1$であるから,$k=[c]$
よって,$12n\leqq k<24n$のとき$(A)$が成り立つから
\[ [f(12n)],[f(12n+1)],\dots ,[f(24n)]\]
は相異なる.
一方,$0<x<12n,24n<x<36n$のとき
\[ 0<f^{\prime}(x)<1\]
であるから,$0\leqq k<12n,24n\leqq k<36n$のとき,平均値の定理より
\[ f(k+1)-f(k)=\frac{f(k+1)-f(k)}{(k+1)-k}=f^{\prime}(c),\quad k<c<k+1\]
を満たす実数$c$が存在する.このとき$0<c<12n,24n<c<36n$であるから
\[ f(k+1)-f(k)=f^{\prime}(c)<1\]
このとき,先の議論により
\[ 0\leqq [f(k+1)]-[f(k)]\leqq 1\]
すなわち$[f(k)]$と$f(k+1)]$は一致するか(整数として)連続するかのいずれかである.
ここまでの議論をまとめよう.
\[ f(0)=0,\quad f(12n)=7n,\quad f(24n)=20n,\quad f(36n)=27n\]
より
\[ \tag{B} [f(0)],[f(1)],[f(2)],\dots ,[f(12n)]\]
は隣り合う数が等しいか差が$1$であるかのいずれかであるから,$7n+1$個の相異なる整数からなる.
\[ \tag{C} [f(12n)],[f(12n+1)],\dots ,[f(24n)]\]
はすべて相異なるから,$12n+1$個の相異なる整数からなる.
\[ \tag{D} [f(24n)],[f(12n+1)],\dots ,[f(36n)]\]
は隣り合う数が等しいか差が$1$であるかのいずれかであるから,$7n+1$個の相異なる整数からなる.
$\rm (B),(C),(D)$で重複して数えている$[f(12n)],[f(24n)]$に注意すると,求める個数は
\[ (7n+1)+(12n+1)+(7n+1)-2=26n+1(個)\]
となる.
この問題は,平均値の定理を利用する珍しい問題である.記述に注意して以上の議論を解答にまとめよう.