ルベーグ積分論

1. 測度

ルベーグ積分は,リーマン積分の拡張を目標とする.すなわち,次の2つ

  • リーマン積分可能な場合はルベーグ積分可能であり,ルベーグ積分の結果がリーマン積分の結果と一致する
  • リーマン積分可能でないがルベーグ積分可能である場合がある

を満たすようにルベーグ積分を構成したい.

$\mathbb{R}^d$におけるリーマン積分は,$d$次元の体積の計算として解釈することができた.ここでは,この体積の拡張に相当する測度について考える.

1.1. 完全加法族

以下,$X$を集合,$\mathcal{F}$を$X$の部分集合族とする.

まずは,測度を定義できるような集合について考えよう.

定義

$\mathcal{F}$が次の3つの条件

  • $\emptyset \in \mathcal{F}$
  • 任意の$A\in \mathcal{F}$に対して,$A^c\in \mathcal{F}$
  • (有限加法性)
    任意の$A,B\in \mathcal{F}$に対して,$U\cup V\in \mathcal{F}$

を満たすとき,$\mathcal{F}$を$X$の有限加法族という.

定義

$\mathcal{F}$が次の3つの条件

  • $\emptyset \in \mathcal{F}$
  • 任意の$A\in \mathcal{F}$に対して,$A^c\in \mathcal{F}$
  • (完全加法性)
    $\mathcal{F}$の元の任意の列$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$に対して,$\displaystyle \bigcup _{n=1}^{\infty}A_n\in \mathcal{F}$

を満たすとき,$\mathcal{F}$を$X$の完全加法族といい,$(X,\mathcal{F})$を可測空間という.

有限加法族と完全加法族の違いは,有限加法性と完全加法性にある.実は,次の命題が成り立つ.

命題

完全加法族は有限加法族である.

完全加法族は,体積の拡張に相当する,測度が定義される集合全体の族をイメージしてほしい.

1つ目の条件は,空集合の体積を$0$とすることに対応し,2つ目の条件は,体積が定まる集合の補集合の体積は,全体の体積からその集合の体積を引いて計算できることに対応する.
有限加法性は,体積が定義できる有限個の集合の和集合が,共通部分なども考慮して体積の足し引きを行うことで,計算できることに対応している.
完全加法性は,体積が定義できる可算個の集合の和集合も,体積が定まることに対応している.有限個の場合は,有限回の計算によって体積が定まりそうであるが,可算無限個の場合については,有限回の計算では体積を定めることができない場合が考えられ,体積が定まるとは断言できない.この真偽は非自明である.

このことから,測度が定義できる集合全体の族は,少なくとも有限加法族となること,そして通常の体積が完全加法性を満たさないならば,完全加法性を満たすように体積を拡張して,測度を構成することが期待できる.

有限加法族や完全加法族の性質を見ていこう.

命題

$\mathcal{F}$を$X$の有限加法族とする.

  • $X\in \mathcal{F}$
  • 任意の$A,B\in \mathcal{F}$に対して,$A\cap B\in \mathcal{F}$
  • 任意の$A_1,A_2,\dots ,A_n\in \mathcal{F}$に対して,$\displaystyle \bigcup _{i=1}^nA_i\in \mathcal{F}$
  • 任意の$A_1,A_2,\dots ,A_n\in \mathcal{F}$に対して,$\displaystyle \bigcap _{i=1}^nA_i\in \mathcal{F}$
命題

$\mathcal{F}$を$X$の完全加法族とする.

$\mathcal{F}$の元の任意の列$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$に対して,$\displaystyle \bigcap _{n=1}^{\infty}A_i\in \mathcal{F}$

命題

$\mathcal{F}$を$X$の有限加法族とする.

$\mathcal{F}$が$X$の完全加法族であるための必要十分条件は,$\mathcal{F}$の互いに交わらない元の任意の列$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$に対して,$\displaystyle \bigcup _{n=1}^{\infty}A_n\in \mathcal{F}$となることである.

1.2. ユークリッド空間$\mathbb{R}^d$上の外測度

ユークリッド空間上の測度を定義する前に,外測度を定義する.

リーマン積分の定積分の定義は,区間の分割を考えた.ユークリッド空間の区間は,体積の計算の基本となる集合であり,これを元に外側度を定義し,測度を定義する.

ユークリッド空間の区間について整理しておこう.

$a,b\in \overline{\mathbb{R}}$は$a\le b$を満たすとする.集合
\[ I=\{ x\in \mathbb{R}\mid a<x<b\} \]
を$\mathbb{R}$の開区間といい,$(a,b)$で表す.

$a=b$のとき,$I$は空集合である.

$\mathbb{R}$の開区間$(a_1,b_1),(a_2,b_2),\dots ,(a_d,b_d)$($i=1,2,\dots ,d$に対して,$a_i\le b_i$)に対して
\[ I=\prod _{i=1}^d(a_i,b_i)\]
を$\mathbb{R}^d$の開区間という.

ある$i\in \{ 1,2,\dots ,d\}$が存在して,$a_i=b_i$となるとき,$I$は空集合である.

ユークリッド空間$\mathbb{R}^d$の開区間$I$に対して,$I$の体積を次のように定める.

定義

$I=\displaystyle \prod _{i=1}^d(a_i,b_i)$を$\mathbb{R}^d$の開区間とする.

$I$の体積$|I|$を次のように定める.
\[ |I|=\begin{cases}\displaystyle \prod _{i=1}^d(b_i-a_i)&({}^{\forall}i\in \{ 1,2,\dots ,n\} ,\,a_i\neq b_i)\\ 0&({}^{\exist}i\in \{ 1,2,\dots ,d\} \,\mathrm{s.t.}\,a_i=b_i)\end{cases}\]

開区間の体積の性質を見ていこう.

命題

$I$を$\mathbb{R}^d$の開区間とする.

  • $\mathbb{R}^d$のある開区間$I_1,I_2,\dots ,I_n$が存在して
    \[ I\subset \bigcup _{i=1}^nI_i\]
    となるとき
    \[ |I|\le \sum _{i=1}^N|I_i|\]
  • $\mathbb{R}^d$の開区間のある列$\{ I_n\} _{n=1}^{\infty}$が存在して
    \[ I\subset \bigcup _{n=1}^{\infty}I_n\]
    となるとき
    \[ |I|\le \sum _{n=1}^{\infty}|I_n|\]

開区間の体積を元に,ユークリッド空間の一般の部分集合の体積の拡張に相当する,外側度を定義する.

定義

$A\subset \mathbb{R}^d$とする.

\[ \inf \left\{ \sum _{n=1}^{\infty}|I_i|\in \overline{\mathbb{R}}\,\middle| \,\text{$\{ I_n\} _{n=1}^{\infty}$は$\mathbb{R}^d$の開区間の列で$A\subset \displaystyle \bigcup _{n=1}^{\infty}I_i$を満たすもの}\right\} \]
を$A$の外測度といい,$\bar{\mu}(A)$で表す.

すなわち,$A$を被覆する開区間の体積の総和の下限が,$A$の外側度である.

開区間の外側度が体積に一致することを確かめよう.

命題

$I$を$\mathbb{R}^d$の開区間とする.

\[ \bar{\mu}(I)=|I|\]

外測度の基本的な性質を見ていこう.

定理
  • (非負性)
    任意の$A\subset \mathbb{R}^d$に対して
    \[ 0\le \bar{\mu}(A)\le \infty \]
  • $\bar{\mu}(\emptyset )=0$
  • (単調性)
    任意の$A,B\subset \mathbb{R}^d$に対して,$A\subset B$ならば$\bar{\mu}(A)\le \bar{\mu}(B)$
  • (劣加法性)
    任意の$\mathbb{R}^d$の部分集合列$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$に対して
    \[ \bar{\mu}\left( \bigcup _{n=1}^{\infty}A_n\right) \le \sum _{n=1}^{\infty}\bar{\mu}(A_n)\]
    特に,任意の$A,B\subset \mathbb{R}^d$に対して
    \[ \bar{\mu}(A\cup B)\le \bar{\mu}(A)+\bar{\mu}(B)\]

1.3. ユークリッド空間$\mathbb{R}^d$上のルベーグ測度

外測度はすべての集合に対して定義され,開区間の外側度は体積に一致するため,外測度を体積の一般化としてもよいような気がする.

しかし,互いに交わらない$A,B\subset \mathbb{R}^d$に対して
\[ \bar{\mu}(A\cup B)=\bar{\mu}(A)+\bar{\mu}(B)\]
が成り立つとは限らない.劣加法性より
\[ \bar{\mu}(A\cup B)\le \bar{\mu}(A)+\bar{\mu}(B)\]
は成り立つが,逆向きの不等式は成り立つとは限らない.

互いに交わらない$A,B\subset \mathbb{R}^d$に対して,$A\cup B$の体積は,$A$の体積と$B$の体積の和に一致することが期待されるが,外測度ではこの条件を満たさない.そこで,この条件を満たすような集合に限定して,外測度を考えることにしよう.

定義

$A\subset \mathbb{R}^d$とする.

  • $A$がカラテオドリの条件を満たす,すなわち任意の$T\subset \mathbb{R}^d$に対して
    \[ \bar{\mu}(T)=\bar{\mu}(T\cap A)+\bar{\mu}(T\cap A^c)\]
    が成り立つとき,$A$をルベーグ可測集合という.
  • $A$がルベーグ可測集合であり,$\bar{\mu}(A)=0$であるとき,$A$を零集合という.

ルベーグ可測集合の例を見ていこう.

定理
  • $\mathbb{R}^d$の開区間はルベーグ可測である.
  • $\mathbb{R}^d$の開集合はルベーグ可測である.
  • $\mathbb{R}^d$の閉集合はルベーグ可測である.
  • $\mathbb{R}^d$の高々可算な部分集合は零集合である.

非可算集合であって,零集合であるものは存在する.

カントール集合
\[ C\coloneqq \left\{ x\in [0,1]\,\middle| \,\text{$\{ 0,1\}$の元の列$\{ \varepsilon _n\} _{n=1}^{\infty}$が存在して,$x=\displaystyle \sum _{n=1}^{\infty}\frac{2\varepsilon _n}{3^n}$}\right\} \]
は非可算集合であり,零集合である.

また,ユークリッド空間の任意の部分集合がカラテオドリの条件を満たすわけではない.反例は次のように構成できる.

$\mathbb{R}$のハメル基底を用いて,$\mathbb{R}$の非ルベーグ可測集合を構成できる.

具体的には,ヴィタリ集合がある.

$\mathbb{R}$上の二項関係$\sim$を次のように定める.
\[ x\sim y\iff x-y\in \mathbb{Q}\quad (x,y\in \mathbb{R})\]
このとき,$\sim$は$\mathbb{R}$上の同値関係であり,任意の$[v]\in \mathbb{R}/\sim$に対して,ある$u\in [0,1]$が存在して,$u\in [v]$となる.各同値類に対して,このような代表元を1つとり,これらの代表元全体からなる集合を$V$とすると,$V$はルベーグ可測でない.

$V$はヴィタリ集合と呼ばれている.

以下,$\mathcal{M}$をルベーグ可測集合全体の族とする.

定理
  • $\mathcal{M}$は完全加法族である.
  • $\mathcal{M}$の互いに交わらない元の任意の列$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$に対して
    \[ \bar{\mu}\left( \bigcup _{n=1}^{\infty}A_n\right) =\sum _{n=1}^{\infty}\bar{\mu}(A_n)\]

これで,期待される条件を満たす,ユークリッド空間の部分集合族を得ることができた.これを元に,ユークリッド空間上のルベーグ測度を定義する.

定義

ルベーグ外測度$\bar{\mu}$の$\mathcal{M}$への制限$\bar{\mu}|_{\mathcal{M}}$をルベーグ測度といい,$\mu$で表す.

すなわち,体積の拡張に相当するルベーグ測度は,ルベーグ可測集合にのみ定義され,その値は外測度に一致する,ということである.そして,ルベーグ可測集合全体は完全加法族になっているのである.

ルベーグ測度が次のような性質を満たすことは明らかである.

  • (非負性)
    任意の$A\in \mathcal{M}$に対して
    \[ 0\le \mu (A)\le \infty \]
  • $\mu (\emptyset )=0$
  • (単調性)
    任意の$A,B\in \mathcal{M}$に対して,$A\subset B$ならば$\mu (A)\le \mu (B)$
  • (完全加法性)
    $\mathcal{M}$の互いに交わらない元の任意の列$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$に対して
    \[ \mu \left( \bigcup _{n=1}^{\infty}A_n\right) =\sum _{n=1}^{\infty}\mu (A_n)\]
    特に,任意の$A,B\in \mathcal{M}$に対して,$A\cap B=\emptyset$ならば
    \[ \mu (A\cup B)=\mu (A)+\mu (B)\]

一般の測度は,次のように定義することができる.

定義

$(X,\mathcal{M})$を可測空間とし,$\mu :\mathcal{M}\to \overline{\mathbb{R}}$を写像とする.

$\mu$が次の3つの条件

  • (非負性)
    任意の$A\in \mathcal{M}$に対して,$0\le \mu (A)\le \infty$
  • $\mu (\emptyset )=0$
  • (完全加法性)
    $\mathcal{M}$の互いに交わらない元の任意の列$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$に対して
    \[ \mu \left( \bigcup _{n=1}^{\infty}A_n\right) =\sum _{n=1}^{\infty}\mu (A_n)\]

を満たすとき,$(X,\mathcal{M},\mu )$を測度空間といい,$\mu$を測度という.

次の等式が成り立つことは,全く同様に証明できる.

命題

$(X,\mathcal{M},\mu )$を測度空間とする.

任意の$A,B\in \mathcal{M}$に対して,$A\cap B=\emptyset$ならば
\[ \mu (A\cup B)=\mu (A)+\mu (B)\]

単調性についても,同様に成り立つ.

命題(測度の単調性)

$(X,\mathcal{M},\mu )$を測度空間とする.

  • 任意の$A,B\in \mathcal{M}$に対して,$A\subset B$ならば$\mu (A)\le \mu (B)$
    特に,$\mu (A)<\infty$ならば,$\mu (B\setminus A)=\mu (B)-\mu (A)$
  • $\mathcal{M}$の元の任意の列$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$に対して
    \[ \mu \left( \bigcup _{n=1}^{\infty}A_n\right) \le \sum _{n=1}^{\infty}\mu (A_n)\]

次の性質は,特に重要である.

命題(測度の連続性)

$\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$を$\mathcal{M}$の元の列とする.

  • $\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$が単調増加であるとき
    \[ \mu \left( \bigcup _{n=1}^{\infty}A_n\right) =\lim _{n\to \infty}\mu (A_n)\]
  • $\{ A_n\} _{n=1}^{\infty}$が単調減少であり,$\mu (A_1)<\infty$であるとき
    \[ \mu \left( \bigcap _{n=1}^{\infty}A_n\right) =\lim _{n\to \infty}\mu (A_n)\]

1.4. ルベーグ可測集合の性質

以下,測度空間$(\mathbb{R}^d,\mathcal{M},\mu )$を考える.すなわち,$\mathcal{M}$はルベーグ可測集合全体の族であり,$\mu$はルベーグ測度であるとする.

命題

$A\in \mathcal{M}$とする.

  • 任意の$x\in \mathbb{R}^d$に対して,$A+x\in \mathcal{M}$であり
    \[ \mu (A+x)=\mu (A)\]
  • 任意の$p\in \mathbb{R}\setminus \{ 0\}$に対して,$pA\in \mathcal{M}$であり
    \[ \mu (pA)=|p|^d\mu (A)\]
命題(ルベーグ測度の完備性)

零集合の部分集合はルベーグ可測である.

ルベーグ可測集合は,開集合と閉集合によって,近似することができる.

定理

$A\in \mathcal{M}$とする.

任意の$\varepsilon >0$に対して,$\mathbb{R}^d$のある開集合$O$と$\mathbb{R}^d$のある閉集合$F$が存在して,次の3つの条件を満たす.

  • $F\subset A\subset O$
  • $\mu (O\setminus A)<\varepsilon$
  • $\mu (A\setminus F)<\varepsilon$

特に,$\mu (A)<\infty$であるとき,$F$はコンパクト集合としてよい.

任意の$A\in \mathcal{M}$に対して,$\mathbb{R}^d$のある単調減少開集合列$\{ O_n\} _{n=1}^{\infty}$が存在して,次の3つの条件を満たす.

  • $\mu (O_1)\le \mu (A)+1$
  • $A\subset \displaystyle \bigcup _{n=1}^{\infty}O_n$
  • $\mu \left( \displaystyle \bigcup _{n=1}^{\infty}O_n\setminus A\right) =0$